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「カカシ先生はどこで射精するか最初に決めるタイプですか?」
「いいえ。俺はチンコとキンタマの気の赴くままです。本能に従うタイプなので気にしないでください」
 俺がそう答えると、イルカ先生は「うむ」とキリっとした顔で頷いてその場で胡坐をかいた。俺はその左隣、膝と膝がくっつく距離に座って身体を斜めにしてエロ漫画を覗き込む。
 長くオナ禁をしていたので、二人ともすぐに手淫に夢中になった。俺は頁を捲るのはイルカ先生に任せて、己のチンコを激しく扱く。そもそも頁を捲るペースというのは人それぞれ、特にオナニー中はどこでどのくらい興奮しコマや写真や映像に見入るのかは人それぞれなので、合わせるのは最初から放棄している。上級オナニストはその程度のことは何の障害にもならないのだ。
 途中、イルカ先生がやけに見入っている頁があった。エロシーン佳境の寸前くらい、ロリ顔巨乳ツインテールがパイ擦りしてるシーンで、チンコをむっちりおっぱいの間に挟んだロリ顔巨乳ツインテールがそこからはみ出ている亀頭を舐めているシーンだ。多くの男性諸君が萌え滾る典型的なコマだ。
 イルカ先生のチンコが一段とデカくなり、その先端から我慢汁がぷくりと溢れて下に垂れた。涎を垂らしてるみたいで凄く可愛い。
「んっ。…んっ…」
 イルカ先生の声がうわずってきてる。その声が俺の耳に届く。もっと聞きたい。
 チラリと左側に視線を遣ると、紅潮したイルカ先生の顔が見えた。潤んだ瞳と興奮して少し赤く染まっている唇が見える。苦しそうに眉根を寄せ、もどかしそうに頁を捲る。
 挿入シーンに突入した。ロリ顔巨乳ツインテールがおっぱいをぶるんぶるんさせながら「ひぎいっ!」とか言ってる。因みにその女はパイパンだ。パイパンは俺も好きだ。
 チラリチラリとエロ漫画を見てたけど、どうしてか俺はもうそれにあまり興味を持てなくなっていた。それよりも耳に届くイルカ先生の息遣いの方が気になる。チンコを扱くイルカ先生の自慰の音の方が気になる。
 左側を見ると、もう目が離せなくなった。
 いやらしい顔をしている。俺のイルカ先生が、いやらしい顔をしている。
 開いた唇の間から柔らかそうな赤い舌が見えた。キスしたがってる。イルカ先生は誰かとキスしてる想像をしてる。だから俺も想像する。イルカ先生がいやらしい顔をして、俺に夢中でキスを―。
「あ」
 久し振りのオナニーだったのに、もしくは久し振りのオナニーだったからか、俺はかなり間抜けな射精をしてしまった。ついでに間抜けな声も出た。上級オナニストともあろうものが何という無様な射精をと内心舌打ちしたけど、予期せぬ射精というのはオナ禁マラソン後のオナニーではちょくちょくある。それにどうせオナ禁後の一度目の射精はそんなに気持ち良くない。
 俺が放った精子は手や足、それに畳にも飛び散っていて、とても申し訳なかった。腕を伸ばしてティッシュを何枚か出して拭いていると、イルカ先生も手を伸ばしてティッシュを取り出す。ああ、イクんだなって思って、俺はイルカ先生のチンコをまじまじと見た。尿道口が精子を出そうとパクパクひくついてる。チンコを扱く手が一段と激しくなって、イルカ先生の息遣いに呻き声が混ざる。
―ザンビア!」
 イルカ先生はそう叫んで射精した。
 ……て言うかザンビアって誰! このエロ漫画のロリ顔巨乳ツインテールの名前は確か「貞子」だったんだけど! いつから、いやどこからザンビアちゃんって出てきたの! あ、人名じゃないのかな。イルカ先生は射精する時には必ず「ザンビア」って叫ぶのかな。何て言うか、「チェスト!」みたいな感じで?
「オナ禁後にしてはナイスオナニーでした。カカシ先生は?」
 呼吸を整え、手に付いた精子を拭きながらイルカ先生がそう言う。
「俺は駄目でしたね。この程度のエロで射精するのはもったいないって思って左手でチンコ弄りながらよりエロいオカズ探しに明け暮れてたらいつの間にか夜が明けてた、みたいなそんな下級オナニストみたいな無様なオナニーしちゃいました」
「それはいけません。オナニーは常に一期一会、一撃闘魂、一心不乱に一意専心の精神でないと。でもオナ禁後ってチンコ馬鹿になってますよね。だから仕方ないかもしれません。タマキンの機嫌直るまで、今日は頑張って扱いてくださいね」
 にっこりと優しい笑顔でそう言いながら、イルカ先生は押し入れの中から「じゅくじゅくくノ一潮吹きの術」と題されたエロ本を取り出して俺に手渡してきた。これは以前一度貸してもらったことがある、俺の超お気に入りのエロ本だ。これを貸してもらった日はもう大変なことになっちゃって、エロ中枢神経を強く刺激されすぎてチンコがばくはつするかと思った。そのくらい威力がある。チンコで雷切できるんじゃないかと思ったくらいだ。新技作ろうかな?って真剣に思ったくらいだ。
「じゃ、俺は次はこれ」
 イルカ先生が御機嫌な声を出して、一冊のエロ本を前に座る。今度は貧乳ものだった。イルカ先生め、巨乳の次は貧乳ハイソックスとは大した奴だ。流石ジ・O!
 俺はイルカ先生に感服しながら、またチンコを扱きだした。
 今度こそ。今度こそまともなシコシコをするつもりだったのに、そしてオカズはエロ中枢神経を破壊寸前にまで追い詰めた「じゅくじゅくくノ一潮吹きの術」だったのに、何故か俺はまたもやエロ本に集中できなかった。本当にどうしてか分からないけど、とにかくイルカ先生が気になる。イルカ先生の小さな喘ぎ声や、チンコを擦ってる音が気になる。そのチンコや手の動き、唇や吐息が気になる。「じゅくじゅくくノ一潮吹きの術」よりもイルカ先生を見ていたい欲求にかられる。
 イルカ先生が気持良さそうにキンタマを揉んだり背中を反らせたり、ほらまた唇が開いた。いやらしい舌が見える。また誰かとキスしてる想像をしてるんだ。
「ああ、ローザ……」
 今度はローザさんですか。ローザって誰よ!って突っ込みはしないでいてあげる。面白いねイルカ先生は。面白いし、可愛い。もうすぐイキそうになってる。胡坐かいてるイルカ先生の太腿の内側がビクビクしてきた。
 またキスする想像してる。
 物欲しそうに唇が開いて、唾液を一杯含んだ舌が見えて、その舌がゆっくりと唇を濡らす。
 ローザとキスしてんの? イルカ先生は想像の中でその女とキスしてんの? キスしたいの? だったら俺がしてあげる。思う存分キスしてその唇を貪って、舌を突っ込んでアンタのその舌を絡めて―。
「あ」
 何で出るかな、俺! 何でそんなよく分かんないタイミングで出るかな! こう、いつの間にかぼーっとしてシコシコしてたとか、自分でも一体何で興奮して何で射精に至ったか分かんないとか、上級オナニストとしてどうなの? 脳味噌精子で詰まってた十代の頃でもこんな意味不明な射精したことなかったんだけど!
 俺は自分に憤慨しながらまたもや畳に飛び散ってしまった精子を拭き取った。ちょっと匂いが付いちゃうかもしれないから、イルカ先生に申し訳ない。申し訳ないって言うか、イルカ先生が怒って「もう出ていってください。二度と貴方とはオナニー大会してやんない」って言ったらどうすんの、俺。もう生きていけないよそんなこと言われたら!
「ロリエッタァア!」
 ってアンタはアンタで何叫んでんの! ローザはどこいったローザは! これはあれ? 真の上級オナニストともなるとその思考回路は俺のような格下には理解できないってことなの? 流石ジ・O!
「またもやナイスオナニーをしてしまいました。カカシ先生はどうでした?」
 ティッシュで手をフキフキしながらそう訊ねられたので、俺はとりあえず「まぁまぁでした」と答えておいた。一度ならず二度までもよく分からん射精をしてしまいましたとは言い難い。カカシ先生ってたいしたオナニストじゃないんですね、なんて思われたら一大事だ。俺の沽券と股間と眉間に関わる。いや眉間は関係ないけど。
「第三ラウンド行きます? その前に水分補給しましょうか?」
 気が利く上級オナニスト、ジ・Oはそう言って立ち上がり、台所の方に向かって歩いて行った。下は何にも穿いてなくて、上は水色のチェックのパジャマを着ている。可愛く引き締まったお尻が見え隠れして、妙に俺はそこばかりを見てしまった。
 今日の俺は変だ。イルカ先生ばかり見てしまう。いや、考えてみたら最近ずっとイルカ先生ばかりを見ている。イルカ先生が眠った後も、じっと見つめてあの黒い髪を優しく梳くのが日課になっていたりする。だって俺、イルカ先生大好きだからね。そうだ、だからそれは仕方ない。イルカ先生が眠った後に髪を梳くのも、あの可愛い唇を指でつんつんするのも、ほっぺを撫でるのも、手を握っちゃうのも仕方ない。だって大好きだもん。
 でも俺、オナニーの最中までイルカ先生ばっかり見ちゃうってどうなんだろう。好きすぎるにもほどがあるだろ、俺のばか!
「麦茶で良いですかー?」
 麦茶が入った容器とコップを二つ手にして、イルカ先生が戻って来た。水色のチェックのパジャマの隙間から、チンコが見え隠れするのが……あー、だから何で俺そういうとこばっか見ちゃうのかな!
「おお、上忍のスタミナって凄いですね」
 イルカ先生が俺のチンコを見てにっこりと笑う。今勃起したの! アンタのせいで勃起したの! 何でかよく分かんないけど、とにかく今アンタが帰って来たら急におちんちん起っきしたの!
 俺は手渡された麦茶を一気に飲み干すと、イルカ先生から目を逸らしイルカ先生のエロストックの中から勝手に一冊取り出して、目の前に置いた。もう見ない。絶対見ない。オナニーが終わるまで左は見ないぞ!
 と、思っていたのに。
 俺はその後、イルカ先生の小さな喘ぎ声とか扱いてる音とか、もぞもぞしている気配とか、そういうのに惹かれてやっぱりイルカ先生のオナニーを見ながら三度目の射精をし、更に四度目は開き直ったが如く最初から最後までイルカ先生をガン見しながら扱きまくった。
 なんで俺を見てるんですか?って途中で訊かれた。俺は正直に、よく分かんないって答えた。イルカ先生は不思議そうな顔をしてたけど、俺はもっと不思議そうな顔をしてたと思う。だから、その後は特に何も言われなかった。
 四度目の射精を終えると、イルカ先生はもう寝るって言った。イルカ先生がオナニーを終わらすなら、俺ももうしたくない。見るもんがないからきっともう勃起もしない。だから俺ももう止めるって言った。
「大儀!」
 イルカ先生はキリっとした顔で自分のチンコを見てそう労った。それから俺のチンコを見て、同じように「大儀!」って労ってくれた。
 その日はそうやって久し振りにオナニーをして、その後俺はいつものように眠ったイルカ先生を見つめ、髪を梳き、唇に触れてから眠った。


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