「本戦は一ヶ月後ですか」
鉄板で良い音をさせているお好み焼きをヘラで上手く分割し、マヨネーズと鰹節をかけながらイルカ先生はそう言った。
俺とイルカ先生はオナ禁マラソンに入っているから、夕食後のオカズ交換会はない。オカズ交換会がないってことは、もしかしたらご飯も一緒に食べられないのかな? 誘っても断られちゃうのかな?って一瞬思っちゃって物凄く胸が締め付けられたんだけど、イルカ先生は俺の杞憂を回し蹴りで粉砕するかのように「カカシ先生、今晩はお好み焼き食べましょう」って誘ってくれた。
んで、俺は顔に幻術かけて今ミックス食べてるところ。イルカ先生はブタ玉焼き終わったところ。まだしつこくマヨネーズをかけてるところ。
「はい。一ヶ月もあれば怪我も治るしそれなりに修行もできるでしょうから、一ヶ月のインターバルがあるってのは有難いですね」
「大蛇丸の件にも対応できるようコチラも対策を練れますしね」
イルカ先生はマヨネーズをかけすぎだと思う。
「でも俺、サスケの修行で手一杯っぽいんですよね。ナルト、どうするかなぁ」
「俺も見てやりたいんですけど、アカデミーも受付もありますからねぇ」
ヘラで分割したお好み焼きを掬い、二人でフハフハしながら食べる。イルカ先生があちち!ってなるのが可笑しくて、あちち!ってなる度にとっても楽しかった。んでニコニコして見てたらイルカ先生が俺のミックスをじーっと見てきたから、ひとつヘラで掬ってそのまま口元に運んであげた。
イルカ先生は大きく口を開いて、そのまま食べたよ。口の周りが汚れて、またあちち!ってなってて、すっごく楽しかった。
俺はイルカ先生を見ているだけで、とっても楽しい。
「ナルトのこと、安心して任せられる人がいれば良いんですけど。あ、エビス特別上忍なんてどうですか?」
イルカ先生はそう提案しながら、お返しと言わんばかりに自分のマヨネーズまみれのブタ玉をヘラで掬って俺の口元に運んでくれた。俺は大きく口を開いて、ハフハフ言いながら食べる。
「エビスねぇ。ナルトを受け入れてもらえるかどうかってのが問題かな」
「あの方頭が固いようで、そうでもないですよ。真に賢い分固定観念に捕らわれず柔軟に対応しますし、見極めも確かです。ナルトが持つ信念とひたむきさを知れば、必ず力になってくれると思います」
俺とエビスはそれなりに面識があった。奴はエリート好きなので結構一方的に親近感を抱かれていると言っても良いような関係だ。なにしろカカシくん呼ばわりしてくるからな。だから俺が頼めば何とかなるとは思うし、それにイルカ先生の言うようにエビスは意外と頭が柔らかい。九尾を腹に抱え疎まれているナルトを受け入れる度量も持っている。
「そうですね。じゃ、エビスに頼んでみます」
俺がそう答えると、イルカ先生は嬉しそうに笑った。お口がマヨネーズやらソースやら青のりやらマヨネーズやらで汚れていて、妙にチャーミングに見えた。ような気がする。
ナルトの件がひと段落つくと俺とイルカ先生はハフハフとお好み焼きを食べながらビールを飲んで、ちょっと足りなかったから焼きそばも一人前頼んだ。半分に分けましょうねーって言ってイルカ先生が作ってくれたんだけど、俺はイルカ先生が焼きそばもマヨネーズまみれにするんじゃないかと気が気じゃなくて、ずっとその様子を見張っていた。でもイルカ先生は焼きそばにはマヨネーズは入れなかった。イルカ先生はお好み焼きのみにマヨネーズをたっぷりかけることを知ることができて、俺ラッキー。
お腹が一杯になると、夜の里を二人で並んで帰った。中忍試験の途中だから他の里の人間もいるし大蛇丸の件もあるから、里の警備が強化されていたけど、逆にいつもより静かでロマンチックに感じた。空には満天の星、俺の腹には満杯のお好み焼きと焼きそば、そして隣にはイルカ先生。ロマンチックは止まらないよねー。
「イルカせんせ、お口にマヨネーズとソースと青のりとマヨネーズが付いてるよ」
フフフと微笑んで俺はその可愛い唇についたマヨネーズを含んだ色んな汚れを指で拭いてあげる。
コシコシと拭いてあげてたら楽しくなって、イルカ先生の唇を摘まんだり押さえたり引っ張ったりして遊んだ。
「カカシ先生も、青のり付いてます」
そう言ってイルカ先生も俺の唇に手を伸ばし……て、その上の鼻を摘まんだ。きゃーー! これって何か楽しいんだけど超楽しいんだけど妙に浮かれちゃうんだけどっ! もうこのままイルカ先生と二人で美しく晴れ上がった空の下、草原を転がり回って「あはは〜」って笑いながら追いかけっことかしちゃって、「つーかまーえた」とかやっちゃったりして、きゃーーー!
そんなきぶんっ。
友達がひとり増えるだけで、こんなに世界って変わっちゃうものなの? 教えて四代目!
「ね、ね、イルカせんせ。俺、せんせと手を繋ぎたい気分です」
「奇遇ですね! 俺もです」
きゃーーーっ! もう俺達ってば一心同体なんじゃないの? もうこれって友達とか親友とか上級オナニスト同士とかそんな枠組み超えちゃってるんじゃないの? 俺とイルカ先生は前世の敵で現世の魂の双子で来世では老人ホームのルームメイトなんじゃないの? 運命を感じるっ。
俺は嬉しくて嬉しくてイルカ先生の周りをぐるぐると回った。俺、中忍試験が終わったらバターになるんだ。
「カカシ先生、ほら」
差し出された手を握ってこのまま天まで駆けて行きたい! そんでそのまま月まで行ってイルカ先生と俺は結ばれちゃうんだからっ。そんで見つめあってキッスとかしちゃうしぃいいいい!
……あれ?
……キス?
「どうしましたか?」
俺に手を差し伸べたままキョトンとしているイルカ先生を見て、俺は大慌てでその手を握りしめた。浮かれ過ぎて妙なことまで想像しちゃったけど、大丈夫大丈夫。ちょっとはしゃぎ過ぎただけ。遠足の日の子供みたいになっちゃって脈絡もない想像が混沌と襲いかかって来ただけさ。
「ねぇイルカせんせ。俺、今日せんせのお家にお泊まりしたい」
いーよって言って? いーよって言ってよ。むしろ言え! 言わなかったら泣いてやるっ。
「良いですよ」
やった、俺の勝利! ま、当然ですけど!
イルカ先生の手を握ってにへらと笑うと、イルカ先生もにへらって笑った。それから俺達は手を繋いで歩き、俺はこのまま木ノ葉の里を七周したい気分だったけどそれは自重して、真っ直ぐイルカ先生の家に行った。
家に行くと少しだけお茶を飲んで、お風呂を借りて封の切ってない新しい下着をもらって、そんでもってイルカ先生の浴衣を着せてもらった。イルカ先生もお風呂に入って、浴衣を着て部屋に戻ってきた。
オナ禁マラソンの最中だから下ネタ系は一切しなくて、俺達は木ノ葉の忍として至極真面目な話を語り合った。里が進むべき道、あるべき忍の姿、譲れないもの、忍道。イルカ先生は教育者として熱心にそれらを語ってくれたし、俺も里が誇る上忍としてそれに応えた。時々激しく議論して、たまに笑い合って熱い握手を何度も交わして、そうしているうちに夜は更けていって。
イルカ先生の家には来客用のお布団が一組あったけど、俺はそれを拒否してイルカ先生と一緒にベッドで寝させてもらうことになった。
ベッドの中でも俺達は色んな話をした。会話は途切れず、明日もイルカ先生はアカデミーがあるっていうのにずっと俺に付き合ってくれた。狭いベッドだからくっついて、息が触れ合うくらい顔を寄せて楽しく時間を過ごした。イルカ先生の瞳は黒く輝いていて、窓の隙間から射す月光に照らされる黒髪はつやつやと緩やかに流れていて、イルカ先生がもっさいなんて嘘だって思った。
イルカ先生は綺麗だ。
きっと、みんな知らないだけなんだ。この人がこんなに綺麗な人って知らないだけ。俺は知ってるけどね。もしかしたら、世界中で俺だけが知ってることなのかもしれない。そうだったら嬉しい。すっごく、うれしい。
「カカシ先生は、暗部出身なんですよね?」
浴衣の上から暗部の刺青の辺りをツンツンと触れてイルカ先生は問う。
「はい。でも俺、怖くないですよ」
暗部ってだけでやたらと怖がる連中が多いけれど、実際は大したことない。遺書を書くのが趣味の奴や、瞑想が趣味な奴、暗部面をカスタマイズして戦隊シリーズものの面にする奴等、頭髪がもじゃもじゃになる新技を編み出そうと必死な「育毛研究会暗部支部」など、極一般の忍となんら変わりはないんだ。
「知ってますよ」
え? 育毛研究会暗部支部の存在を? 流石イルカ先生だ。
「暗部の方々は、みんなカカシ先生みたいに優しいんですか?」
「優しいのはどうでしょうね。でもふつーの忍と変わらない連中ですよ。オナニー大好きですし、危険な任務でオナニーができないとみんなやさぐれます。戦場ではしょっちゅうオナニー大会開きますし、俺達暗部ってチンコにチンコカップ付けてるでしょ、それで」
「チンコカップ付けてるんですか?」
「はい、キンタマカップとも呼ばれてますけど。キンタマもチンコも別にガードしなくちゃならないほど未熟な者はいないんですけど、一応みんな付けてるんです。それでね、チンコカップ付けた状態で勃起するともうチンコが中で折れそうになるから、チンコカップ断固拒否デーを作ったりします。チンコカップなくても暗部装束って無駄にパッツンパッツンだから、勃起するとめっちゃ窮屈ですけどね。とにかくそんな連中ですよ」
「楽しそうですね」
イルカ先生がにっこりそう言うから、俺もにっこり頷いた。
暗部が結構楽しい所なのは事実だ。元々くノ一ってのは数が少ないけど、暗部は更に少ない。だから暗部連中は独身者が多く、自然にオナニスト集団になる。三度の飯よりオナニーが好き!って連中の集団だ。俺、この戦争が終わったら思う存分オナニーするんだ。なんて台詞を今まで何度耳にしたことやら。ま、俺も何度も口にしましたけど。
「瀕死だった暗部仲間の遺言が「空気嫁の処分を頼む」だった時もありましたよ。その場でその遺言を聞いていた暗部全員がすかさず「ジェニファーのことだな?」って言った時は、何とも言えない連帯感がありましたね。戦場では今日のお前のオカズは明日の俺のオカズ、みたいな感じだったし、空気嫁の貸し借りなんかも普通に行われていましたからね。暗部共用空気嫁のサンドラが壊れた時なんかは、みんなで泣きながら供養しました」
「良い話ですね!」
イルカ先生は俺の浴衣を握りしめ、その黒い瞳をうるうるさせた。
うるうるしてるイルカ先生の瞳はすっごく綺麗で、俺は思わずそれに見とれた。なんかもっとないかな。もっとイルカ先生の瞳がうるうるする話ないかな。思わずポロって泣いちゃうような話ないかな。
「あとねあとね!」
「はい」
「聞いて聞いてイルカせんせ!」
「うん、聞いてますよ」
……なんかないか! なんかここでもっと良い話ないのかな! でもこんな時に限って俺の脳裏に浮かぶのは、四代目がコブシを利かせて「おもひでの火の国温泉」を熱唱していたカカシお誕生日おめでとう会の一幕だったり、四代目が戦闘中にオビトに向かって「オビト、チンポジ悪いよ。チンコをちゃんとポールポジションに入れないとクナイの命中率悪くなるって何度も言ってるでしょ」って結構真剣に怒ったシーンとか、四代目が「俺もカカシみたいに覆面忍者になるよ」って言ってストッキングを顔に被って戦場に出た場面や、はたまたそれがリンのストッキングだとバレてリンに往復ビンタを喰らった時のことなどが次々に。
って、なんで四代目のことばっか頭に浮かぶの! 今は出て来なくて良いから! 四代目のばか! おたんこなす!
俺はクールにもっと感動的な話を脳内の押し入れの中から探そうとした。でも俺の脳内押し入れってものはどうやら整理整頓がまるでできていないらしく、しつこく「おもひでの火の国温泉」を熱唱する四代目の顔がドアップで出てきたり、暗部仲間のチンコから膿が出てきてみんなで大騒ぎになった時のことだったり、残ったゴハンを冷凍しようとしてラップで包もうとしたらラップの頭が上手く取り出せなくて焦った五年前の昼下がりとか、もう意味分かんない! そんなのどうだって良いでしょ!
「あのね」
その言葉から先が続かなくて困っていると、隣からぷすー、ぷすーと可愛い寝息が聞こえた。あら?って思って見てみると、イルカ先生はいつの間にか眠っちゃってた。
その寝顔は本当に天使みたいで。
イルカ先生大好きだなーって、ずっとこうしてたいなーって思いながら、俺は昨晩のように朝までイルカ先生の髪を撫でていた。
ぎゅっと抱きしめて、イルカ先生の首元に顔を埋めたりもした。
俺は本当にイルカ先生に夢中なんだ。