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 受付の扉を開くと、その場にいた者の視線が全て俺に注がれた。
 ま、俺は写輪眼のカカシですからいつだって注目の的ですとも。まーね。まーね。まーね。みなのもの、くるしゅーないぞ。
 足取り軽く中忍先生の列に並ぶと、前方に並んでいた男の肩がギクリと強張った。そいつは恐る恐る振り返って俺の姿を確認すると、すぐに大慌てで前に向き直る。どうしてだかその顔には十四粒の汗が浮かんでいたように見えたけど、そこまで緊張しなくても良いんじゃないかなって思った。確かに俺は暗部上がりだしビンゴブックだし写輪眼だしすっごく強くて有名な上に上級オナニストだけど、基本的には良い人だからさ。俺。
「カカシ、お前報告書は?」
 何度か一緒に任務を遂行したことのある赤髪の上忍仲間が怪訝な顔をしてちょっと馴れ馴れしく訊ねてきたけど、俺は寛大なので気にしない。
「ん。今日は任務なかったから」
「じゃあ何しに来たんだ? 今から任務?」
「いや、今日はちょっと中忍先生に用があってね」
 俺がウフフと微笑むとそいつの顔が引き攣った。と同時に周囲の者達が何故か不穏にざわめく。
「お前、結構根に持つタイプだったんだな」
 え? なんのこと?
 意味がよく分からなくて首を傾げていると、周囲から「イルカは大丈夫なのか」とか「上忍の制裁」とか「うちスネちゃまこの春で三歳になったザマスのよ」とか聞こえてきた。やっぱ意味分かんない。
 まぁ良いやって思って上機嫌で並び続けていると、赤髪の上忍仲間に「いざとなったら俺、お前を止めるから。死ぬ気で止めるから」ってこっそり呟かれた。おいおいデンジャラスボーイ、お前が俺の何を止めるって言うのよ。俺のこのほとばしる躍動感と漲る情熱と飛び散る精液を、お前が止められると思っているのか?
 余裕綽々の笑みを口布の下に浮かばせ、何のことか良く分かんないながらも「あっそ」って答えておいた。死ぬ気で止めるなら止めれば良い。俺のこのパトスを止められるものならね!
「お疲れ様でした」
 中忍先生の声がして、俺の番がやってきた。
 俺は緩んだ表情を引き締めて彼と向き合う。バチっと幻聴が聞こえるくらい中忍先生と目が合った。
「カカシ先生」
 この緊迫感、流石上級オナニスト! 並みの忍ならまずここで「何か知らんけどとりあえずスンマセン」って謝っちゃうと思う。そのくらい中忍先生のキリっとした迫力は凄い。
 俺は自信があった。あったから今日ここに来た。でもいざ彼のキリっとした迫力を前にすると、途端に自信なんて白い雲の向こう側へスキップで消えて行った。これはまさに採点を待つ生徒の気分。ドキドキするんだけどどうしよう。ドキドキするんだけどどうしよう。ドキドキするんだけど以下略。ああ、おとーさーーーん!
 しかし俺の緊張がピークに達したその時、中忍先生は真っ直ぐに俺を見据えたまま、すっと右手を差し出した。俺は嬉しくて飛び上がってその場で全裸になりたいくらいの昂揚感を覚えつつ、力強くその手を握り返した。
 おお!と何故か周りがどよめく。
「チンコ、どうですか?」
 声が震えないよう気を付けながら訊ねてみる。
「すごく…痛いです。カカシ先生は?」
「俺も、すごく…痛いです」
 俺とイルカ先生はそれで全てが通じた。もう俺なんてあるのかどうか知らない彼の出生の秘密からその生い立ち、初オナニーからその時のオカズまで全部分かっちゃった気分になった。そしてそれはイルカ先生も同じなんだ。
 俺達は間違いなく、今、猛烈に分かり合っちゃってる!
「今日、何時にお仕事終わりますか?」
「あと三十分ほどで」
「ではこの後、一緒に飯でもどうですか?」
「喜んで!」
 再度周囲から「おお」と歓声が上がった。
 俺はイルカ先生にニッコリと微笑み、手を振ってその場から離れる。そして受付のソファーに腰をかけ、まだその温もりが残る自分の手に視線を落とした。
 そう、俺は認められたんだ。
 俺が認めた上級オナニストに、俺は認められたんだ! きゃーー!
 握手を求められた時点で俺のコレクションは彼の股間をマグマのように熱くさせたということだし、「チンコ、どうですか?」って訊いて「すごく…痛いです」って答えたってことはもう、扱きすぎてチンコが大変なことになっちゃったから誰か熱冷シート持ってきてーってことなのよね。かく言う俺もイルカ先生のお勧めAVで大変なことになっちゃったから、昨日。すんごい大変なことになっちゃったから、俺の股間の暴れん棒。え、まだ勃起するの?ってくらい勃起しまくって、もう収拾がつかないんじゃないかって思ったから。俺、精子の出し過ぎで死ぬの?って思ったから。
 特にイルカ先生お勧めの「くノ一調教淫汁絶頂地獄」は凄まじい攻撃力だったね。くノ一女優も本当に可愛かったし、その上本気汁出してたし、更にその調教内容がもうこれまた。
 いかんいかん。回想したらまた勃起してしまう。因みに「淫乱くノ一、調教しごき千本ノック」は本当にハズレだった。心の準備がなかったら思わずヘシ折ってしまうくらいのレベルだった。
 昨日のAVの内容を思い出してちょっとムンフーってなった鼻息を整え、じゃなくて呼吸を整え、俺は大人しくそこでイルカ先生のお仕事が終わるのを待った。途中で赤髪の上忍仲間が「やっぱりお前は尊敬すべき男だ。寛大な奴だ」ってしきりに誉めてきたけど、何のことか良く分からなかった。急にそんなこと言われても「まーね」としか答えられないじゃない。そんな当たり前のこと言われてもさ。
「お待たせしました」
 イチャパラをムフムフしながら読んでいると、声がかかる。
 俺は立ち上がってイチャパラをポーチに仕舞い、イルカ先生を見てニッコリと笑った。イルカ先生もニッコリと笑ってくれた。
 それから俺達は二人で個室のある居酒屋へ行った。俺、一応これでも覆面忍者なんだよね。銀髪のせいで顔隠しても写輪眼のカカシってバレバレなんだけど、例えるなら顔隠しておっぱい隠さずって感じなんだけど、それでも一応隠してるの。大昔、任務中にエロティック妄想が止まらない、みたいなことになってね、四代目に「カカシはその顔どうにかしなよ」って言われてさ、それからずっと隠してるの。良いよ覆面は。任務中にどれだけ激しい妄想に耽ろうが誰も気付かないからね。
 でもそんな俺でも飯を食う時は口布外すから、なるべく個室にしてんの。んで今日も個室。
 最初に二人でビールを頼んで、それからつまみになるものを幾つか頼んだ。突き出しとビールが来ると、互いにグラスに注ぎ合って俺はそこで口布を外す。
 だってイルカ先生なら顔を見せても良いし。だってイルカ先生は俺が認めた上級オナニストだし。て言うかそもそもメシ誘ったの俺だし。
「それでは、上級オナニスト同士の出会いを祝して!」
 かんぱーい、とグラスを傾けると、イルカ先生はポカンとした顔をして俺を見ていた。
 違った? 違った? やり直し?
「……で、では、今後も良きシコシコができるように!」
 まだポカンとした顔で俺を見ている。
 ちょっと待って考えるから。ちょっと待ってよ。こういう時って何て言えば良いの? あれ? もっとこう、具体的なことを言えば良いのかな?
「……えっと。俺がくノ一調教淫汁絶頂地獄で五回抜いた記念…いやむしろ、昨日一晩のシコシコ回数記録をこの年になって塗り替えた記念? いやだって三本とも見たしほら。俺昨日眠れなかったんですよ興奮して。それでね、ずっとシコシコしてて」
 コツンとグラスが合わせられた。そうか、こう言えば良かったのか。俺、乾杯の音頭とか分かんないからね。
 へへっと笑いながらビールを飲むと、イルカ先生も不思議そうな顔をして俺を凝視しながらビールを飲んだ。
「あのねあのねイルカ先生。俺ね、くノ一調教淫汁絶頂地獄本当にドンピシャでね、もうチンコ中枢神経ド真ん中、みたいな感じでね」
―カカシ先生、何で女性とセックスしないでオナニーしてるんですか?」
 昨日の興奮を興奮の赴くままに報告しようとしたら、遮られた。

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