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「よ、よろしくお願いします」
 身体の自由が利くようになってから最初にしたことは、勿論イルカ先生の家に行くことだった。給料三ヵ月分の指輪を買おうとしたけれど拒否され、結納金を納めようとしたけれどそれも拒否され、お父さんとお母さんに挨拶したいって言ったらそれだけ許可された。だから今朝はイルカ先生と一緒に慰霊碑に行って、俺達は自分の両親と相手の両親に挨拶をしたんだ。あと三代目にもね。
 四代目は知らない。結婚式には俺のおもひでの火の国温泉を流してねって誰かの声が聞こえたけど、多分気のせい。三代目の面影や両親の面影に交じって金髪碧眼男がピースサインをしながらうろついてたけど、それも多分気のせい。
 とにかくそうして済ませるべきことを済ませて、その後俺は任務、イルカ先生は最近再開されたアカデミーのお仕事に行って、帰って来てご飯を食べてお風呂に入って、今、二人でダブルベッド。
 正座で。
「こちらこそ、末長く宜しくお願いします」
 イルカ先生は三つ指をついて頭を下げた。
 二人とも裸です。因みに俺のチンコはこれから始まる熱く淫らなアレコレに期待して、先走り汁ダダ漏れです。ちょっと擦っただけで暴発しそうな勢いです。心なしかヤマブシのように鼻息も荒いです。
「じゃあ、ねねねね、寝っ転がってください。俺が上から覆い被さって色々します。その後挿入して、腰を振って然る後、射精。そんなスケジュールです」
「りょ、りょりょ、了解しました」
 二人でもう一度ペコリと頭を下げ、イルカ先生がしずしずと横たわる。俺は宣言通りその上に覆い被さって、色々する。しようとする。頑張ろうとする。でもあまりに緊張してイルカ先生は寝っ転がったまま直立してるし、俺も緊張のあまりもう何が何やら分かんなくなって途中で頭を壁に叩きつけたくなった。
「落ち着きましょう!」
「はい、カカシ先生も落ち着きましょう! 深呼吸して、それからセオリー通りキスから始めましょう」
 キス! そう言えばキスもしてなかった。
 俺は深呼吸をしてから手の平に人を書いてそれを飲み込み、更には立ち上がって屈伸運動までして準備を整え、少し余裕が出てきたところで再度イルカ先生に覆い被さってキスをした。
 拙いキスだった。歯はガチガチ当たるしイルカ先生は咽せるし、気合い入れすぎて深くキスしすぎて人工呼吸みたいになるし、ホントにヘタクソなキスをした。
 それでも段々夢中になってきて、知らず知らずに抱きしめ合っていて、俺の手も勝手に動き出した。
 イルカ先生のイイ場所は全部知ってる。俺はずっとこの身体を悦ばせてきたから、隅々まで知ってる。だから一旦緊張が解けるとあとは一気に快楽の海へとイルカ先生を誘うことに成功した。
 乳首を一杯弄ってあげる。指の腹ですり潰すようにされるのが、イルカ先生は好き。フェラチオもしてあげる。先端を口に咥えたまま亀頭の周りをねろねろと舐めまわされるのが、イルカ先生は好き。お尻の方だって弄ってあげる。最初はイイ場所に指を当てて小刻み揺すられるのが、イルカ先生は一番好き。それを全部一遍にしてあげれば、イルカ先生は身悶えてすっごくいやらしい声を出す。
 じれったくて早く早くって強請るまでそれを続けた後にちょっと扱いてあげると、イルカ先生はすぐに射精した。勿論俺はそれを飲んであげる。
 溢れた精液を手で拭っていると、はぁはぁと息を乱してイルカ先生が上半身を起こした。
「今日は俺もフェラチオしますっ」
 ぐっと握り拳を固めてそんなことを言ってくれる。いやでも…って断ろうとしたけど、イルカ先生の目がマジでやる気満々だったので、その好意に甘えさせてもらった。
 イルカ先生の口淫はあまりにも一生懸命すぎて途中でおえってなってたり歯が当たったりして大変だったけど、俺のを咥えてるってその状況だけで俺の愚息はフンガーー!ってなっちゃって、あっけないくらいすぐにイってしまった。ちょっとカッコ悪いくらいの早さだった。
「じゃあ次は遂にアレです。挿入の儀式です!」
 はや!って突っ込まれるのが恥ずかしくて、即座にこの日のために購入しておいたローションをベッタリと手の平に乗せてそう宣言すると、イルカ先生も元気にハイ!と返事をしてまた寝っ転がる。それから自分で両膝を抱えてくれた。
 さっきまで指でかき混ぜていた部分を、もっとベタベタにする。たっぷりとローションを塗りこんで滑りを良くして、ぐちょぐちょと音が鳴るまで後ろを解す。指でイイところを揉んであげると入口がヒクついてイルカ先生の性器がまた勃起した。指を増やしてそこばかりを責めながら乳首を舐めてあげる。
「…ぁ、カカシせんせ」
「ん、俺。俺としようね」
 固く尖った乳首を空いている手で摘まんであげて、クニクニと捻りながら先端だけを舐めてあげる。
「あ、それっ……あっあっ、ああ!」
 好き。という言葉は嬌声にかき消されたけど、俺には分かった。だから一杯それを続けてあげた。捻って、捏ねて、押しつぶして、先端だけを舌で舐めまくってあげる。唾液で指が滑ってしまうまで、じゅるじゅると音を立てて吸いついてあげる。指で摘まんだまま、飛び出た先端に舌を押しつけてあげる。
 そうしてると後ろの方もどんどん柔らかくなって、指もスムーズに出し入れすることができるようになってきた。イルカ先生が悦がる度に内部がうねって指に纏わり付くのが分かる。そのうねりに合わせて指で掻き回すと、イルカ先生は射精でもするかのように抱えた足をピンと伸ばして悦びの声を張り上げた。
「すっごくかわいいよ」
 嬉しくて褒めてあげて、ご褒美に好きなところを集中的に繰り返し抉ってあげた。
「うあああッ――や、や!」
 頭を振って暴れるイルカ先生を見て、抉る力を緩めてあげる。
「いや? 本当にいや? いやならしてあげない」
「や! 止めたらいや!」
 咥えこんだ指を抜かれないようにと、内壁も入口もぎゅっと締まった。それからイルカ先生は自らいやらしく腰を振る。もっとしてと言って腰を振って、自分で尻に刺激を与えようとする。
 過剰なまでに付けたローションによって指を動かす度にグチュグチュと淫猥な音が鳴った。イルカ先生が好きなところを指で揉み、抉り、擦ってあげていると、内側はどんどん熱くなる。イルカ先生の吐息みたいに、感じれば感じるほど熱くなる。
 そして、とろとろになる。 
「挿入するよ。力抜いてね?」
 自分のモノにもたっぷりとローションを付けてそう言うと、イルカ先生は素直に俺の言葉に従った。
 俺は気を落ちつけて性器をソコに充てがい、イルカ先生の呼吸に合わせながらゆっくりと挿れていく。
「い―ったくないです!」
「はいそこ無理しない!」
 指とは質量が違うから、痛いのは仕方ない。俺にもっとテクがあれば良いんだけど、ヤリチン時代も男は抱いてないから同性同士のセックスに関しては知識しかない。フェラはイルカ先生を相手に何度もしたから自信あるけど、挿入は前回の酷いセックス、あれだけだから。
「ごめんね」
 もっと上手にできれば、痛い思いなんてさせないのに。
「平気。俺、平気です」
 痛みで理性が戻ったイルカ先生は健気にそんなことを言うから、捻じ込みたくなる欲望をまるっと押さえ付けることができる。
 絶対に、もう二度とあんな酷いセックスなんてしない。
 乳首や性器を触ってあげて気を逸らせたり緩く腰を回して徐々に広げていったりして、本当にゆっくりとした挿入になった。俺もキツイけどイルカ先生の方がもっとキツイわけで、二人で角度を変えてみたり冗談を言ってリラックスしてみたり、試行錯誤を繰り返して、二人で本当に一生懸命頑張って。
 ようやく根元まで入った時は、お互い汗びっしょりになっていた。
「入った。全部入ったよ」
 俺がそう教えると、イルカ先生はとびっきりの笑顔を見せてくれた。
「恋人のセックスですよカカシ先生。ねぇ、恋人のセックスです。俺、カカシ先生としてますよ。俺、カカシ先生大好きですよ」
 そう言ってすっごく無邪気に喜ぶから。
 不意に涙が溢れた。
「カカシ先生はホントに泣き虫さんですよね」
 おいでって呼ばれたから、その胸に顔を埋めて俺は少しの間何もせずにただ泣いた。
 だって俺はずっとイルカ先生が好きだった。イルカ先生に恋をしていた。
 沢山悩んで沢山笑って沢山嘘を吐いて。
 ほんとうにイルカせんせいが、だいすきで。
「俺も、ほんとうにカカシ先生が大好きなんです」
 イルカ先生も涙声でそう告げてくれた。それから二人で抱きしめ合って泣いた。
 今まで、恋人同士のセックスはきっと素晴らしいものなんだと思い込んでいた。手淫なんか問題にならないくらい気持ちイイものなんだと思い込んでいた。それは半分本当で、でも半分は違った。挿入するにも汗だくになるくらい苦労しなくちゃならない。時間をかけなくちゃいけない。ガツガツに腰を叩きつけることは、イルカ先生が辛いからしちゃいけない。自分の快感だけを追って動いたらいけない。制約は一杯ある。
 それでも、恋人同士のセックスは素晴らしい。
 涙が止まらなくなるくらい、素晴らしい。
 俺とイルカ先生は、その後お互いを気遣うとても優しいセックスをした。合間合間に数えきれないくらいキスをしたし、好きだよって言い合った。何度も何度も繰り返し、お互いの名前を呼んだ。今自分がセックスしてるのは貴方です。自分の意識は貴方だけに向けられているんですよって告げるために。
 時間はかかったけどお互い射精できた。それは心が震えるような、満ち足りた射精だった。
 あまりにも幸せで、俺とイルカ先生はまた泣いた。
 笑いながら泣いた。
 しっかりと抱きしめ合って。


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