20

「だからさ、セックスってものは定義的にはそういうもんも含まれてるだろ。性交だけがセックスじゃなくて、舐めたり触ったり、そういうのもセックスだ。モノが付いてる男同士のセックスも挿入しない場合は結構多いし、モノが付いてない女同士もまた然り。交わってなくてもそれは間違いなくセックスだ。だからアンタがイルカ先生のを舐めたり指を入れたりしたのも、それはやっぱりセックスなんじゃないのか?」
「短く纏めてくれ」
「チンコ挿入だけがセックスじゃないぜ」
 サスケはキリっとした顔をしてそう言った。
 ダブルベッド記念の激しい夜を過ごした翌日から、俺には次から次へと任務が与えられた。建築の基礎である土木工事が終わったら次は資金繰りのために働いてもらうから頼むよと前々からコハル様に言われていたから覚悟はしていたが、それにしても凄まじい量だった。休日というものがない。
 それでも長期任務は入らなかったのがせめてもの救いだった。写輪眼のカカシというブランドを長期任務に充てるのは勿体ないからと、俺指名の、比較的短い期間で終わりそうな高ランク任務が主になっている。単価の高い任務を数多くこなせ作戦だ。だから長くイルカ先生から離れることだけは免れていた。
 そしてそんな目まぐるしい日々の中でも、俺は僅かな時間を見つけてはイルカ先生とイヤラシイコトをしまくっていた。眠る時間を削ってイルカ先生を可愛がる。しゃぶる。口内に放たれたものを飲み込む。またしゃぶる。指でぐちゃぐちゃにかき混ぜる。最近ではイルカ先生も後ろを弄られる味を占めて、自ら「後ろして」と強請ってくるくらいだ。
 でもやればやるほど、この行為がなんなのか分からなくなった。
 それに、射精しても俺はどうしてか満足できないようになっていた。
 そして今日、任務を終えて戻ってきたら偶然修行中だったサスケに出会い、今はサスケくんのお悩み相談室を開いているところだ。
「じゃあ俺とイルカせんせは、いつもセックスしてたの?」
 俺は手ごろな岩の上に座っているサスケの前で正座をし、ふんぞり返って腕組みしているサスケを見上げてそう訊ねる。
「話を聞くところによると、イルカ先生にとっては自慰行為の延長っぽいよな。でも行為自体を考えると、やはりそれはセックスだと思う」
「結局どっちなの?」
「行為的にはセックス。イルカ先生的には自慰行為の延長」
「だからどっちなのよ!」
「微妙なラインってとこか……」
「カッコ付けてんじゃないよガキのくせに! 分かんないなら分かんないって素直に言えば良いでしょ!」
「うるせー! 大体そんなこと俺に相談すんじゃねーよ!」
 逆ギレってみっともないよねー。大体今の今まで岩の上でふんぞり返って偉そうに俺の話を聞いてたくせに、分かんなくなると途端にこれですよ。所詮はガキ。お話になんない。
 そもそもこの子、最近機嫌悪すぎ。精神的に不安定になる甘酸っぱい青春の一頁を捲っている真っ最中だとしても、機嫌悪すぎ。あと、俺に八つ当たりしすぎ。どんだけ俺のこと好きなの? そんないかにも「不機嫌な俺をちょっとは意識しろ」みたいな態度取られても、俺の心は常にイルカ先生だけのものだからね。はいはい残念残念。
 フンっとそっぽを向くサスケに口布の下であっかんべーをして立ち上がった。
 正座して損した。すっごく謙虚な気持ちで相談したのに!
「これからお前をみっちりしごいてやる!」
 逆ギレには逆ギレで! 修行と称してお前なんて苛めてやる!
「いや俺、今日の修行はもう終わりだ。これ以上はオーバーワークだから」
 キーーー!
「じゃあ明日、みっちり修業してやる!」
「是非そうしてくれ。たまには上忍師らしいことしろ」
 俺はいつだって上級オナニストで天才エリート写輪眼のカカシで上忍師ですぅー。ですぅー。ですぅー!
 不貞腐れてそのまま演習場を後にし、里の中央に向かうと道端でアスマに会った。アスマは良い。ちゃんと俺の話を聞いてくれる。……と思っていたのに、アスマはチョウジに焼き肉を奢る約束があるからと言って、俺の話を全く聞いてくれなかった。案外冷たい男だ。
 仕方ないから明日の予定を聞きにコハル様の所に行き、これこれこんな具合なんですコハル様はどう思われますか?って訊いてみたら、コハル様は「それより明日の任務じゃが」と、これまた相手にしてくれなかった。
 四代目及び三代目! 木ノ葉の里に欠けているのは、里を復興をする資金ではなく優しさだと思います!
 結局誰も俺の相談を聞いてくれないからちょっと涙目になりながら木ノ葉商店街に行き、買い物でストレス発散するくノ一のように超高級芋ようかんを買った。俺ようかん全然好きじゃないけど、買ってやった。何か気分的に。 こう、いつもはしないことを自棄になってやってやるぜ! みたいな感じで!
 家に帰って芋ようかんを眺めていると、いつの間にか夜になった。芋ようかんを眺めて時間を過ごしたのは初めてだった。
 俺は何だかとても苛々していた。だってずっと働きっぱなしですっごく疲れてたし、誰も優しくしてくれないし、それに最近はどれだけ射精しても欲求不満が溜まるんだ。よく分かんないけど。
 イルカ先生が帰って来ると、早速二人でご飯を食べて風呂に入ってダブルベッドに直行した。コハル様によると明日の任務は夜からのが一件だけなので、今日はもう打ち止め!ってくらい出しまくってスッキリするんだ。二人で沢山キモチイイコトして、今日こそ欲求不満を解消して、イライラからオサラバする!
 そう思っていたのに、イルカ先生とエッチなことをしていても俺の心は荒んだままだった。
 何でこれがセックスじゃないんだろう。
 何でこれがオナニーの延長なんだろう。
 中に入れた指で掻き回してやると、グチュグチュといやらしい音がする。イルカ先生が甘ったるい声で嬌声を上げる。もっとしてって言うみたいに腰を振る。だからもっと弄ってやる。
 先走りで濡れそぼったそれを口に含んで、喉の奥まで飲み込んでやる。小さく尖った乳首を指で挟んでキュっと摘まみ上げてやる。
「ああ…んっ」
 イルカ先生は恍惚とした、完全に快楽に浸りきった表情を曝け出していた。
 何でこれがセックスじゃないんだろう。
 何でこれがオナニーの延長なんだろう。
「自分で膝抱えて?」
 そう頼めばイルカ先生は自分の膝を両手でぐっと持って、腰を上げて卑猥なソコを俺に差し出してくれる。
「弄って……もっと弄って」
 とろとろになった身体の奥を恥じることなく、そう言って強請る。
「ん。今日も一杯してあげる」
 ソコに指を挿入されて奥を弄られる悦びを知っている、いやらしい身体が愛しい。熱く蕩けた内壁を指で擦る度にうっとりと口に笑みを浮かべる、いやらしい表情が愛しい。しゃぶってやればやるほど蜜を溢れさせる貪欲な性器が愛しい。全部愛しい。
 なのに、どこか心に苛立ちが残っていて。
「あ、出る…出る、あっあっあああ!」
 指を咥えた後口をぎゅっと締め、仰け反りながらイルカ先生は俺の口の中で射精した。太腿の内側がビクビクと痙攣し、射精に合わせて中が収縮するのを感じる。
 出されたものを全て飲み干すと、後口から指を抜いて俺は自分のモノを扱く。イルカ先生はそこに挿れて欲しいってせがむみたいに、両膝を抱えて俺にソコを見せ付けたままだった。
 ここに挿れたい。
 これがセックスなら、挿れても良いはず。
 ソコに自分のモノを押し当てて扱き、俺は本当のセックスを想像しながら射精した。でも全然満たされなかった。それどころか何故かイラつきが増す。
 イルカ先生がキスを求めるから、覆い被さってキスをした。舌を絡めて唾液を流し込むとイルカ先生は迷わずそれを飲み込んだ。俺も差し出された舌を吸い上げてイルカ先生の唾液を飲み込んだ。そうしながらまた後口に指を突っ込み、グチャグチャと掻きまわした。
「ねぇイルカせんせ。アンタ今、誰とセックスしてんの?」
 三本目の指を入れると、甲高い悲鳴が上がった。俺が今その入り口に吐き出した精液が指に纏わり付き、動かす度に卑猥な音が鳴る。
「ね、アンタ今、誰とセックスしてんの?」
 とろんとした目をして、イルカ先生が何か言おうとする。でもそれは俺の望んだ名前じゃないと察し、三本の指で内部を強く抉った。
「あああっ!」
「俺としてんでしょ?」
 手首を捻ってドロドロの内部を蹂躙し、それから指をギリギリまで引いて一気に奥まで突き入れる。気持ち良さそうに媚びた声を上げながらイルカ先生の身体がビクンと跳ねるのが愛しくて、憎らしくて、何度もそれを繰り返した。
「アンタ今、俺とセックスしてんの。分かってる? はたけカカシとしてんだよ?」
 もう一方の手で可愛い乳首に触れる。指の腹で尖って固くなった感触を愉しみ、それから爪を立ててそれを摘まんだ。
「やっ!」
「言ってよ。アンタ今、誰とセックスしてんの?」
「カ、カカシせんせぃ……」
 そう。俺としてる。
 俺としてた。ずっとしてた。俺とセックスしてたんだよアンタ。オナニーの延長なんかじゃないよ。
「俺のこと好きだよね?」
 好きに決まってる。だってそうじゃなかったら、そうじゃなかったらさ。
 もうメチャクチャじゃない。
 好きでもない男にしゃぶられて扱かれて、尻の中まで弄られて、それでも悦がるなんてメチャクチャじゃない。アンタが俺を好きじゃなかったら、俺はアンタの、ただのオナニーの道具に成り下がっちゃうじゃない。空気嫁とかバイブとかオナホールとか、そんなもんと俺は同列になっちゃうじゃない。
 アンタは俺のこと好きなんだよ。絶対好きなんだよ。好きに決まってる!
「好きだよね? アンタ、はたけカカシのこと好きだよね?」
 好きって言ってよ。お願い。
 お願いだから。
「……好き」
 イルカ先生の目に理性なんてものが失われていて、その言葉が俺を見て吐きだされたものかどうかも怪しくて、イルカ先生がその身に与えられる快楽に溺れきっていた状態だったなんてことに俺は目もくれず。ただその瞬間、脳裏に浮かんだ言葉は。
 言質を取った。
 それだけだった。
 俺は指を引き抜いて、自分のモノをソコに充てがう。もう両想いなんだから、これはオナニーの延長なんかじゃない。だって好きって言ってくれたもの。俺のこと好きって、イルカ先生は言った。確かに言ったんだ。だからもうグルグルと一人で悩まずに済む。
 本当のセックスをしても良いんだ。
 その両膝を肩に抱えて、今まで散々指で弄ってきたソコに俺は自分の性器をねじ込んだ。
「い―…ツッ! カ、カカシせん…」
 組み敷いた身体が強張り、中も俺を拒否するみたいに狭くなった。でも俺は強引に押し入っていく。張り出したカリの部分が入り棹の半ばまで行くと、あとは痛みに逃げようとするイルカ先生の腰を掴み、暴れるその身体に叩きつけるように一気に根元まで挿入した。
 声にならない悲鳴が上がった。でも聞こえないふりをした。
 あれだけとろとろになっていた内部が痛みに慄き俺を追い出そうとしているのも、あれだけ汗ばんでいた身体が一遍に冷えてしまったことも、俺が愛する黒い瞳からぼろぼろと涙が溢れたことも。
 全部知らないふりをした。
 イルカ先生は絶対に俺のことが好きで、自分では気付いてないけど俺とずっとセックスしてて、俺の手で悦がって俺の口で射精して、一緒に一杯いやらしいことをした。そんで今は俺のことが好きだって思って俺のこと好きって言って、ようやく俺達は正真正銘の両想いになって本当のセックスをしてる。
 それだけ。あとは知らない。俺、知らない。
 夢中になって腰を振った。イルカ先生の性器に触れることもキスをすることも、睦言を囁くこともしなかった。ただ馬鹿みたいに腰を振って、揺さぶって、自分だけ射精した。
 荒い呼吸のまま視線を結合部に向けると、また勃った。繋がってるのを見ると俺は何度でも勃起し、ずっと自分勝手なセックスを続けた。
 イルカ先生は何か言っていた。
 痛がってたと思う。痛い痛いって叫んでたような気がするから。止めてくださいって叫んでたような気もする。多分止めて欲しかったんだろう。俺が射精して、でもすぐに勃起してブチ込む度に悲鳴を上げて暴れてたから。あと、泣いてたと思う。ずっと。ずっとずっと、ずーーっと。泣いてたと思う。
 知らないけど。
 だって俺。
 だって俺。
 イルカ先生が好きって言ってくれたから、本当のセックスをしただけだ。だって俺、ずっとしたかったから。俺、オナニー用の道具になるの嫌だったから。
 だって俺、ずっとイルカ先生の恋人になって、本当のセックスしたかったからしただけで。
 あとは知らない。俺、知らない。


back novel next