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「ちょっと聞いてんの?」
 サスケの上段回し蹴りを躱してそう訊くと、呪われそうな勢いで睨まれた。
 何で俺が睨まれなくちゃなんないのか分かんない。むしろムカっときているのは俺の方であって、サスケではないはずだ。こんなに一生懸命になって事の顛末を語って聞かせていると言うのに、サスケは俺に心を込めた助言をしないどころか返事もせず、何故か睨んでくるなんて不可解すぎる。こうして「上級オナニスト・カカシくんのお悩み相談室」を開きながら修行だって見てあげてるのに。因みに相談室を開いたのは俺で相談者も俺だけどね。
「イルカせんせは、どうやったら俺を好きになってくれるんだろう」
「知るか!」
 お、ナイスパンチ。でもまだまだ甘いねー。それからサスケはちょっと怒りんぼすぎるよね。忍ってのは感情をこうも露にしちゃいけないし、こうも短気じゃ任務に障る。もっとクールじゃないと駄目だ。俺みたいに。
 ひょいひょいとサスケの攻撃を避けながらイルカ先生に想いを馳せ、胸の痛みとともに恋特有と言うべきキュンキュン感を味わっていると、サスケの怒り心頭的な攻撃が更に激しくなった。何をそんなに怒っているのやら。あ、もしかしてコイツもイルカ先生のことが好きなの? オリジナルオナニーも開発してないガキのくせに、イルカ先生のこと好きとか言っちゃうの?
「それは困る! て言うかそもそもお前如きでは俺の恋敵にはならんし、イルカ先生にショタの趣味はない!」
「意味分かんねーんだよッ!」
「ショタの意味も分かんないの?」
「ちげーーよ!」
 もう、ほんとに何をそんなに怒っているのやら。もっとこう、おおらかに生きられんのかねぇ。イルカ先生みたいに。それでもっと心にゆとりを持ってさぁ、初恋に悪戦苦闘して胸をキュンキュンさせてるカカシくんの良き理解者になれんのかねぇ。
 大きな溜息を吐きながら俺は攻撃を躱し、サスケが全然恋の相談に乗ってくれなくて暇だからポーチからイチャパラを取り出してそれを読み始めた。サスケは更に憤慨して攻撃スピードを上げたけど、体術の修行には丁度良いくらいだった。
 俺がイルカ先生への恋心を自覚しても、特にこれと言って二人の間に変化はなかった。毎朝一緒に起きて一緒にご飯を食べて、用意をする。イルカ先生はお弁当を作ってくれるようになったから、お昼はそれを食べる。女が作るような彩り豊かなものじゃないけど、どれもこれもすっごく美味しい。おにぎりは形が悪いけど、塩がよくきいていて疲れた身体が喜ぶ味だ。夕方になるとイルカ先生を迎えに行って、二人で夕飯を食べる。イルカ先生が作る時もあるし外食の時もある。どっちにしろ俺達は仲良く二人で食べる。それから風呂に入って、居間でゴロゴロして。夜も更けると俺は、これはリハビリだからって言い張ってイルカ先生を言いくるめてあれこれする。キスもする。イルカ先生もリハビリなら仕方ない、それより自分が持つ最大の武器である妄想力が落ちると困るって思ってるらしく、結構素直に俺と一緒にオナニーしてくれる。そんな感じ。
 でも恋を自覚してからというもの、俺の心境には変化がありまくりだった。
 まず、とにかくキュンキュンする。イルカ先生が笑ったイルカ先生が欠伸をしたイルカ先生が背伸びをしたイルカ先生が風呂上りに腹筋してる。もう全部キュンキュンする。とにかく胸がトキメク。イルカ先生が何かする度に可愛くて愛しくて胸がキュンキュンしてたまらない。
 そしてそれは性欲へとダイレクトに直結した。
 とにかく気を抜くと勃起する。若かりし頃によく戦闘中におもむろに勃起してイテテってなってたけど、本当にそのくらい何の脈絡もなく勃起するようになった。アホかと思うくらい勃つ。イルカ先生が朝台所に立って鼻歌を歌っているだけで胸がキュンとし、勃起する。
え、何で今勃起?って自分でも思うくらい簡単に勃つ。抜いても抜いても勃つ。チンコが馬鹿になったとしか思えない。
 俺は恋をしたことがない。これが初恋だ。だから恋をするとみんなこんなふうにチンコが馬鹿になるのかもしれないと思った。
 とにかくそんな感じで日々を送っている。
 翌日はサスケにいよいよ雷切を教えることになった。体術もそこそこレベルアップしたし、何よりも最近サスケの機嫌が悪いから早く教えてやろうと思ったのだ。サスケは短気だからな。
「ちっがーう! もっとこう、ほとばしる熱いパトスを放つわけ。お前だってエロ本買っただけで上忍よりも早く走れる気分になるだろう? うぉお! 早く帰ってシコりまくるぜぇええ!みたいなさ。その時のことを思い出して、手にチャクラを集中させるの。とにかくパトス! 少年よ神話になれ!」
「うるさい!」
 なんでこんなに我儘で短気で怒り虫なのかね、この子は。
「サスケ、もう一度だ…」
 気難しい思春期のサスケくんを刺激しないようになるべき静かにそう言うと、岩陰から殺気が漏れた。
「そんな殺気出してちゃバレバレだって……。出てきなさいよ…」
 オカマの大蛇丸がサスケのお尻を狙って来たんだったら、俺どーしよー!って内心メチャクチャ焦ってたけど、写輪眼のカカシらしくクールにキメてみた。これで何となくデキル奴、みたいな雰囲気は醸し出せたはずだ。
 しかし現れたのはオカマではなく、タヌキのような子供だった。砂隠れの子だったと思うけど、正直名前を覚えてない。リーくんとの戦闘を観戦していた時もひょうたんばかり見ていた。その年齢であえてひょうたんというアイテムを選んだそのセンス! カッコイイのか悪いのか分かんない! 上級ひょうたんマニアなのか! とか、そんなことばっかり考えていた。
「お前か…」
 ひょうたんのことを訊ねたい衝動を抑えながら、やっぱりクールに呟いてみた。この子が砂隠れに帰った時に「写輪眼のカカシは俺のひょうたんに夢中だったぜ?」なんて吹聴されたら困るからな。
 ひょうたんマニアはサスケに向かってよく分からないことを言っていた。一度おうちに帰って言いたいことをしっかり纏め、原稿用紙に書いてそれを持って来なさいよって何度言いそうになったことか。この子絶対国語の成績悪いと思う。途中であまりに要領を得ない彼の一方的なお喋りにサスケが混乱したから、思わず助け舟を出してしまったくらいだ。
 言いたいことを言ってとっとと帰ろうとするひょうたんマニアを捕まえて、俺はイルカ先生のことを相談してみた。何せこの子の額には「愛」ってでっかく書いてある。この子は絶対に愛に生き愛に死ぬ愛・戦士だと思ったからね。でもひょうたんくんは全く相手にしてくれなかった。あんまりにも無口だから「昨日オナニーした?」って訊いたら「した」って答えた。下ネタだけに反応しやがって、大した奴だ……。
 次の日は雷切を教えながら、イルカ先生がいかに優れたエロ漫画ソムリエなのかをサスケに教えた。サスケはやっぱり怒っていて、「ちゃんと俺の修行を見ろ!」って叫んでいた。ちゃんと教えてるのに。
 その次の日は雷切りを教えながら、イルカ先生が「そろそろダブルベッドでも購入しましょうか」って言ってくれたことをサスケに報告した。俺は天にも昇る気分だった。サスケは反応してくれなかった。
 更に次の日は雷切を教えながら、イルカ先生はオナニーが終わると毎回必ず俺と自分のチンコに「大儀!」って言うことをサスケに教えてあげた。サスケは一度も俺と口を利いてくれなかった。もしかして本当にサスケはイルカ先生のことが好きなのかもしれない。だから俺に嫉妬してるのかもしれない。しかし少年よ、イルカ先生は教え子には手を出さないタイプだと思うぞ?
「残念だったな!」
「マジでうるせぇえええええ!!」
 怒鳴られた。


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