12

 夜半を過ぎた頃、里に帰還した。
 変態的凌辱じゅぷじゅぷ密書を三代目に渡し、「三代目もまだまだ現役なんですねー」としみじみ言うと「当たり前だバカ者」と叱られた。きっと三代目レベルになるとチンコの方もなかなか衰えないんだろうなと思う。ただし相手はいないだろうから、三代目もオナニストのはずだ。仲間だ。毎日シコシコだ。想像すると相当気持ち悪いのであまり深く想像せずに俺は一礼して火影室から出た。
 外にはイルカ先生が待っていたので、二人で手を繋いで帰った。
 空には月が出ていて、イルカ先生と俺を優しく照らしている。
「一楽でも行きましょうか」
 敵忍を撃退した直後から、イルカ先生の様子がおかしいことに俺は気付いていた。イルカ先生は何でもないふうに振舞っているけど、どうしても寂しげな影が纏わり付いている。だから俺は、イルカ先生の大好きな一楽へ誘ってみた。大抵のことならこれでイルカ先生は復活する。落ち込んでても、悲しそうでも、辛そうでも、大抵は一楽のラーメンを啜りだした瞬間に全ては無に帰すのだ。
 一楽の暖簾をくぐり、カウンターに並んで座って俺達はラーメンを注文した。俺はしょうゆでイルカ先生は味噌。今日は俺のおごりですよって言って、両方ともチャーシュー大盛りにしてもらった。
 ラーメンがくると、俺の希望通りイルカ先生は幸福に包まれた。もう、箸を手にした瞬間から凄い。目をカッと見開き、手を合わせ、いただきますッ!と気合いを入れて叫ぶ、そこから違う。凡人では到達できないレベルの雰囲気を醸し出している。食べだすと更に違う。一杯のラーメンに対しここまで全身全霊を込めて食べる人間がはたして他に存在するのだろうか、と思うくらい凄い。一生懸命すぎて、可愛いというよりも尊敬してしまう。
 丼を持ちあげてスープを全て飲み干すと、イルカ先生はまた手を合わせて「ごちそうさまでした」をした。それから俺を見てニカっと笑う。
 唇にスープが付いていて、ギトギトになってた。お好み焼きの時もそうだけど、イルカ先生は唇をギトギトにしすぎる。こういう部分はホント可愛い。
「汚れてますよ」
 そう言って、手拭で拭いてあげた。コシコシと汚れを取っていると、イルカ先生は子供みたいに目をぎゅーっと閉じて大人しくする。手拭を裏返して綺麗な部分でもう一度拭おうとしたら、まだですかー?って訊ねられた。だから、まだですよーって答えてしっかり綺麗にしてあげた。
 可愛いな、イルカ先生は。
 そう感じると自然と笑みが零れた。
 綺麗になったことを確かめるみたいに、親指の腹でそっと唇に触れる。その瞬間、指先が、じん、と痺れた。
「終わりました?」
 イルカ先生が目を開けてあどけない瞳で問いかけてきたので、慌てて手を引っ込めた。どうしてか分からないけど顔が赤くなってきたので、何で俺照れてんの?って混乱しながら立ち上がり、金を払って店を出る。
 何で顔、赤くなってるんですか?って訊ねられるのが怖くて、俺はイルカ先生の前を歩いた。顔を見られたくなくてちょっと早足になった。でもイルカ先生は俺の隣を歩こうとして一生懸命付いてくるから、何だか徒競走でもしている感じになってしまった。
「早いです」
 拗ねるようなその声に慌ててスピードを落とすと、イルカ先生が俺の手を握る。いっつもいっつも馬鹿みたいにいっつも俺とイルカ先生は手を握って歩いているのに、また顔が赤くなった。赤くなっただけじゃなくて、心臓までドキドキする。なに俺ビョーキなの? なんか悪いビョーキにでも罹ったの? 大好きで大好きでたまらないイルカ先生に触ると脈拍が跳ね上がる病? それって医療班に来てもらうべきなの? と言うかそれ治せるの? 俺、イルカ先生と一緒にいられないなら死んだ方がマシなんだけど。
 あ、分かった! 帰りに密書寄こせって言ってきたあの敵忍の真の目的は俺の暗殺で、真っ向から戦っても俺に勝てるわけないから、俺とイルカ先生を引き離す作戦に出たんだ。んで、油断してた俺はいつの間にか敵忍の不思議な術に掛かっちゃって、術のせいでイルカ先生に触れると脈拍が上がると。そういうわけだな!
 だが甘い! 俺は脈拍が上がる程度ではイルカ先生の傍から離れないよ! 何があっても離れないよ。この人の傍から離れるなんて考えたくもないし、そんなことありえない。絶対にずっと傍にいる。俺は覚悟を決めてイルカ先生の手を強く握りしめた。
 家に帰ると胸のドキドキは少し治まっていて、俺はイルカ先生が風呂に入っている間に冷たい水を三杯飲んだ。大丈夫大丈夫、俺は写輪眼のカカシだからこんな術に負けはしないと心の中で自分に言い聞かせて、落ち着くためにクナイを研いだ。そうしているとイルカ先生が風呂から上がったので、次は俺が風呂に入る。やけに風呂上りのイルカ先生の身体に目が行ってしまって仕方なかったし、どうしてかまたドキドキしたけれど、風呂に入って冷たいシャワーを浴びていると何とか冷静になれた。上忍の精神力を舐めるな!と、脳内でどこかの誰かに喧嘩腰で叫びながら身体を洗い、湯船に浸かって五十七数えてから風呂から上がる。
 部屋に戻るとイルカ先生はビールを飲んでいた。俺も冷蔵庫を開けてビールを取り出す。
「日帰り任務って忙しくて嫌ですよね」
 トントンと自分の肩を叩きながらイルカ先生が言う。普段あまり里外には出ない人だから、疲れたんだろうと思う。イルカ先生は鍛錬を欠かさない人だけど、慣れないことをすればどうしたって気疲れみたいなものは出てくる。後でマッサージをしてあげなくっちゃいけない。
「ん。お疲れ様でした。お弁当美味しかったですよ」
「また作ってあげましょうか?」
「是非」
 毎日でも! と付け加えようと思ったけど、それは負担になりそうだから止めておいた。
 ビールを飲んで二人でぼんやりとテレビを眺め、一日の疲れを放出していると次第にイルカ先生がウツラウツラし始めた。眠ってしまうまで待って、それからベッドに運んであげようと思っていたのに、イルカ先生は船を漕いだ瞬間に頭を柱にぶつけて目を覚ましてしまった。俺の目論見が!と思ったけど、マッサージもまだだったから丁度良い。
 二人で歯を磨いて仲良くベッドに行って、俺はイルカ先生の身体を解し始める。イルカ先生の筋肉の付き方は目を閉じても分かってるし 、どこが凝りやすい体質なのかも知りつくしてる。
「ねぇ、今日どうしたの? イルカせんせ、敵忍と戦ってからちょっと元気なかったでしょ」
 腰をマッサージしながら何気ない口調で訊ねた時、丁度俺の指が腰のツボに入ったのでイルカ先生は「んっ」と声をあげた。別にいつもと変わらない。マッサージしてる時は声が出ちゃうもんだから、俺は毎日イルカ先生の「んっ」を聞いてる。でも今日の「んっ」は、異様に艶めかしく俺のどこかを直撃した。
 違う違う、これは違う。俺、敵忍の術に掛かってるだけだから。ドキドキするのも、もっとその声が聞きたいのも、下半身の極一部がむくむくしてきたような気がするのも、全部違う。俺、ビョーキだから!
「今日ね、あの敵忍にアリ実とアリ姫の話をした時、何だかちょっと違うなって思ったんです」
 ブンブンを頭を振って邪念を追い払っていると、イルカ先生がちょっぴり寂しそうな声で語りだした。
「何が?」
「誰だって妄想してる時はノリノリじゃないですか。妄想選手権があれば俺、確実に優勝できるぜ?って思うくらいじゃないですか。俺のエロさハンパねー!って自分のエロ妄想能力に身震いしそうになるくらいじゃないですか。でも俺、今日の妄想でどうしてかその無敵領域にまで行けなかったんです」
 明らかに落ち込んだイルカ先生を見て俺は焦った。一楽のラーメンでせっかく元気になったのに、俺のばか! なに余計なこと訊いてんの!
 自分の迂闊さに臍を噛みまくりながら、うつ伏せになっているイルカ先生に後ろから抱きついた。
「でもあれ萌えましたよ! 問題ないですよ、最近オナ禁マラソンしてたし、ちょっと不調だっただけですって。それに疲れてたし、俺も馬鹿だからアリさんで妄想とか変なこと強制しちゃったし! それなのにあんな凄い妄想を一瞬でするなんて、イルカせんせは凄いよ!」
「あんなのは駄妄想ですよ」
「そんなことないって! だってあの妄想で敵を撃退できたじゃないの! あの敵忍も俺もイルカせんせの妄想でおちんちんおっきしましたから!」
 落ち込んでいるイルカ先生の身体をひっくり返して、俺はぎゅうぎゅうと抱きしめながらそのほっぺにキスをした。何度も何度もキスをした。イルカ先生は上級オナニストであり高レベル妄想力の持ち主だからあれでは納得できないのかもしれないけど、実際に俺と敵忍は興奮したのだ。アリ実が巣の連中にぐちゅぐちゅにされるぅうう!って鼻息が荒くなったのだ。
「妄想は俺の数少ない自慢のひとつであり、生涯のライフワークです。もし俺の妄想力がどんどん落ちていったらと思うと……」
「大丈夫、ちょっとオナ禁マラソンでエロ中枢神経が寝ぼけてただけです。今日しっかりリハビリすれば、貴方はまたその妄想の翼を美しく羽ばたかせるに決まってますよ」
 そうなんだ。オナ禁が悪いんだ。どう考えたってオナ禁が悪い。それしか理由がないもん。オナ禁は酷使され続けるタマキンの休息として大切なことではあるけど、続けすぎると色々障害が出てくる。まず、タマキンとチンコの機嫌が悪くなる。オナ禁マラソンしすぎると、タマキンなんて完全にヘソを曲げて変な色のゼリー状の精子出したりするからな。チンコも半分馬鹿みたいになる。妄想はとどまることを知らず……ってなるのが普通だけど、繊細なイルカ先生は妄想力にまで影響力を受けているみたいだ。
「一緒にリハビリしよ?」
 耳元に口を寄せて優しく囁くと、イルカ先生はピクンと身体を震わせた。
「でも、願掛け……」
「大丈夫。だって今からするのはオナニーじゃなくて、リハビリだから」
 ね?っと言い聞かせながらイルカ先生のパジャマのボタンをひとつ外した。これはイルカ先生のリハビリ。絶対リハビリ。それ以外の何ものでもない。自分にもそう言い聞かせつつ、俺はボタンをゆっくりと外していく。
 ドキドキしてきた。でもこれは術に嵌ってるからであって、俺とイルカ先生の仲を引き裂こうと企む敵の罠であって。うん、絶対そう。
 ボタンを全部外すと俺は手の平をそっとその素肌に這わせた。腹の横からゆっくりと脇の下まで上らせる。親指の腹がイルカ先生の乳首に当たり、小さな突起を押し上げる感触があった。それが楽しくて何度も繰り返す。
 イルカ先生の匂いがする。石鹸の匂いと混じったイルカ先生の匂い。
 その匂いに誘われるように俺はイルカ先生の首元に顔を埋める。鎖骨のラインが綺麗でそこに唇を寄せ、ちゅっと小さく吸い上げた。それから舌を出してじっとりと耳の下まで舐め上げていく。イルカ先生の肌を堪能するみたいに、何度も舐める。耳朶を優しく噛む。痕が付かないように気を付けながら、そっと首に吸いつく。
 全部舐めたい。イルカ先生の身体を、そこらじゅう舐めてみたい。
 でも俺の中の理性が、そんなことしたらイルカ先生に嫌がられるかもしれないよって言う。それもそうかもしれない。引かれるかもしれない。気持ち悪いって思われるかもしれない。この程度ならじゃれているだけって思われるだろうけど、それ以上のことをしたら嫌われるかもしれない。
 でも、どこまでなら良いんだ? どこまでなら、とても仲の良い友達がじゃれているだけって言うラインなんだ?
 分からない。分からない。
 俺にはその線引きができない。
「はい、腰上げて?」
 できるだけ優しく、気軽に、リハビリを始めますよって医療班の人が言うみたいに俺は声をかける。
 イルカ先生は素直に腰を上げたから、パジャマのズボンと下着をさりげなくはぎ取る。腕に引っかかっていた上のパジャマも脱がせてあげて、ついでに俺も裸になる。
 ドキドキする。
 わけが分からないくらいドキドキする。なんで俺、こんなに馬鹿みたいに勃起してるんだろう。なんでこんなに興奮してるんだろう。あ、でもイルカ先生も勃ってる。でも俺みたいに馬鹿みたく固くはなってないや。緩やかに勃ちあがったばかり、みたいな感じ。いやそれでもこうして勃起してるんだから、イルカ先生もドキドキしてる?
 してない。
 俺はイルカ先生の胸に手の平を置いてその鼓動を確かめ、顔を伏せて苦笑する。イルカ先生はドキドキしてない。ちょっと脈拍が上がってる程度。
「リハビリを開始しまーす」
 悔しかったのか寂しかったのか悲しかったのか自分の気持ちはよく分からないけれど、とにかくそんなものとは正反対とも言えるくらい明るい声が出た。それから、同じくそんなものとは無縁ですって言うような顔でニッコリと微笑みかけていた。
 イルカ先生はそんな俺を見て、にへって照れくさそうに笑った。
「はーい」
「痛いところはありませんかー?」
「ありませーん」
「痒いところはありませんかー?」
「ありませーん。と言うかカカシ先生、お医者さんごっこですか、それとも美容院イメクラごっこですかどっちなんですかー」
 クスクスと笑われて、俺もイルカ先生の頬に自分の頬を寄せながらクスクスと笑った。
 楽しいし、ドキドキするし、それなのに胸が痛い気がする。何でか分からない。
 イルカ先生の上に覆い被さっていた身体を退けて、ベッドの部屋側、いつもの定位置にゴロリと横になった。そろそろと手を伸ばしてイルカ先生のチンコに触ると、イルカ先生も俺のを握ってくれた。オナニー大会は暗部時代に散々やったし、冗談で誰かのモノを握ったりしたことはある。でもヌく目的で触るのは初めてだった。人の、他人の、俺じゃない誰かの、勃起した性器。
 先端を手の平でゆるゆると撫でてから、親指と人差し指で輪を作ってカリをそこに押し入れる。重点的にそこだけ攻めながら弄び、完全に硬く勃起すると手の平全体で包みこんで大きく根元まで滑らせた。
「……んっ」
 イルカ先生の艶めかしい吐息が零れる。愛しくて嬉しくて目尻にキスすると、イルカ先生はふんわりと笑った。
「俺、誰かのチンコ触るの初めてですよ。カカシ先生は慣れてるんですか?」
「なわけないでしょ。俺も初めてですよ」
 触りたいなんて思ったこともなかった。そんなこと罰ゲームでもしたくなかったし、イルカ先生とこうするまで誰かのチンコに触って射精に導くなんてことも拷問の類としか思えなかっただろう。女に手コキされたことならあるけど、男に触られたら勃起もしなかったんじゃないかなと思う。気持ち悪くてブチ切れたに決まってる。
 それなのに、今は触りたい。一杯扱いて一杯出して欲しくてたまらない。触って欲しい。一杯扱いて一杯出したくてたまらない。
 人差し指と薬指で肉棒を挟みこみ、中指だけを立ててそれを尿道口に押し当て、手をスライドさせて尿道から裏スジを刺激していく。イルカ先生は身を捩り一瞬息を止めると、先端から先走りを溢れさせた。イルカ先生のオナニーを見ていたから、どこが感じてどう攻めるとイイのか知っている俺は思った通りの反応を得てますます興奮した。
 イルカ先生も色々してくれた。最初は緩く全体を揉みしだいてくれて、指の腹でじれったいくらい優しく撫で回してくれる。それから先端を手の平でぐりぐりと押しつぶし、俺の先走りをまんべんなく付けてから強く握って扱いてくれる。カリの部分がよく擦れるように工夫して、凄く良くしてくれる。
「イルカせんせ、うまーい」
 からかうように言うと、尿道口に軽く爪を立てられた。ビクリと身体が震え、思わず息を飲む。
「オナニストやってて良かったと思いました。カカシ先生のこんな顔見られる」
 楽しそうにそう言うイルカ先生が憎たらしくて、俺も扱く速度を上げた。顔を近付けて頬を擦り寄せた。鼻先にキスして耳を舐めた。もっと色々なことがしたいけど、どこまでが許される範囲なのか俺には分からない。
「ああ」
 気持ち良さそうにイルカ先生が喘いだ。性的興奮で色付いた唇が薄く開き、唾液で濡れた舌が見える。俺はもっと密着して、自分のとイルカ先生のとを纏めて手に包んで射精に向けて扱きだした。
 イルカ先生の腰が小刻みに揺れだす。呼吸が乱れひっきりなしに喘ぎ声を漏らし、イルカ先生はうっとりと眼を閉じる。そして唇を開きキスを強請るように顎を上げる。
 キスしてる。誰かと、キスしてる。
 イルカ先生はキスをする想像をしてる。
 どこかの誰かと。
 痛いくらいに手に握ったモノを扱きながら、俺はその唇に噛みついた。イルカ先生がビックリした気配を感じたけど、構わずに噛みついて、しゃぶって、舐めて、舌を入れた。歯が当たってガチリと鳴った。でも俺は深く口付けてイルカ先生の舌を貪った。俺の唾液を入れてイルカ先生の唾液を飲み込んだ。もうわけが分からなくなるくらい興奮して、イルカ先生のことが愛しいのか憎いのかも分からなかった。
 分からないまま、射精した。
 俺より少し後に、イルカ先生も射精した。
 射精してもしつこく俺はキスを続け、イルカ先生に後頭部を叩かれるまでずっとその唇にむしゃぶりついていた。
「あーー、俺、ファーストキスだったんですよ!」
 唇を離すと、イルカ先生はゼーハーと息を乱しながらすぐにそう言った。息苦しかったのか瞳が潤んでいて、目尻が赤くなっていた。
 俺は何も言えなかった。怒ってるかもしれないし、もうどっか行けって言われるかもしれない。怖いから言葉を返せずに、ただ黙りこくっていた。
「ちょっと、聞いてますか! 俺、ファーストキスだったんですよ!」
「ん」
「急にキスされて、ビックリしちゃったじゃないですか!」
 それは知ってる。ビックリしてる気配があったから。イルカ先生はあの時イキそうだったのに、俺にキスされてちょっと混乱して射精するタイミングがずれたのも知ってる。
「ごめんね」
 どっか行け、もう二度と来るな、アンタの顔なんて見たくないって言われたらどうしようと思って、恐々と謝ってみた。ファーストキスを奪われて、しかも俺みたいな男に奪われてすっごく怒ってるかもしれない。怖い。
「でも気持ち良かったですよね。これ。イク時にキスするって凄くイイですね。またしましょう」
「え?」
「え? カカシ先生は気持ち良くなかったんですか?」
 キョトンとしてそう訊ねるイルカ先生の顔には、怒りの欠片もなかった。むしろナイスオナニーしましたねーって言いたげな、スッキリしてる顔。
 だから俺は一気に調子付いた。怒ってないなら良い。むしろまたしましょうねって言ってもらえた。
「超気持ち良かったです! じゃ、さっそく第二回戦! じゃなくて第二リハビリ!」
 へらりと笑って二人分の精子で濡れている手を蠢かすと、イルカ先生もニカっと笑う。
 ちゅーして良い?って訊いたら、良いですよって言ってもらえた。ちゅーしてって強請ったら、イルカ先生からちゅーしてくれた。俺達は唇が痺れるまでキスしまくって、汗まみれになって互いの腰をぶつけるみたいにしながら扱きまくった。俺は二人分のチンコを手に包んで上下に擦りまくり、イルカ先生は手の平で二人分のチンコの先端を撫で回し続けた。
 二度目の射精は一度目よりも時間がかかったけど、その分馬鹿みたいにキスしまくれてとても気持ち良かった。イルカ先生が背中を逸らして喘ぐ姿も、気持ち良くなるとキスをせがんでくる姿も、全部最高だった。
 二度目の射精を終えると少し休憩して、うつらうつらし始めたイルカ先生のチンコを強引に勃起させて三度目に挑戦した。慣れない里外任務と二度の射精で疲れきっているイルカ先生は少しぼんやりしていて、俺はそれを良いことに色んなところに舌を這わせた。イルカ先生の指にも、腕にも、太腿にも、乳首にも。唾液でベットベトになるくらい舐めた。でもどれだけ舐めても足りなかった。
 アソコとかアソコを舐めたい。むしゃぶりつきたい。でも流石にそこは、イルカ先生を驚かすだけじゃ済まないかもしれない。
 でも舐めたい。変態的なくらいに舐め回しまくりたい。
「ああっ!」
 身体中に触れてその感触を堪能していると、イルカ先生はのけぞって声を上げ、三度目の射精をした。凄く可愛くてたまらなくて、俺はイルカ先生にキスしながらイルカ先生のモノに自分のモノを擦りつけながら射精する。二人分の、しかも三回分の精液でお互い気持ち悪いくらいベトベトになった。
 でも嬉しい。それが嬉しい。イルカ先生と俺の精液が混じってるって考えるだけで嬉しくて笑いだしそう。
「もー眠いです。もー限界」
 情けない声を出すイルカ先生が愛しくて、俺はちゅっとその瞼にキスをする。
 それから立ち上がって風呂場に行き、タオルを濡らしてイルカ先生の身体を拭いてあげた。何度かタオルを濯ぎながら汗も唾液も精子も全部綺麗にしてあげて、俺も身体を綺麗にした。
 スッキリするとベッドに戻りイルカ先生の隣に潜り込む。
「イルカせんせ、だいすき」
 ぎゅっと抱きしめてそう囁くと、もうほとんど夢の中にいたイルカ先生が瞼を開けて俺を見た。
「俺もカカシ先生好きですよ」
 眠気に襲われているイルカ先生は、子供みたいな笑顔でそう言う。
 純粋で、嘘偽りのない笑顔でそう言う。
 それから仔犬みたいに大きく口を開いて、くわぁーっと欠伸をした。
「ほんと?」
「ほんとです。だからいっつも一緒にいるんじゃないですか。って、何で泣いてるんですか?」
「泣いてなんてないよ泣いてなんてないよちょっと目にゴミが入っただけ! あと煙草の煙が目にしみただけ! ついでにさっき箪笥の角に足の薬指をぶつけてしこたま頭もぶつけて、上から盥が落ちてきただけ! 更に言うとこの前サスケに蹴られた脛が思い出したように痛みはじめた!」
 痛い痛いって言ってたら、イルカ先生は寝ぼけ眼を擦りながら俺の身体を撫でてくれた。胸に抱きこんでくれて、背中もさすってくれた。そして、暫くしてから完全に眠りに落ちた。
 泣いてなんてないよ。泣いてない。
 ただ、思ったんだ。イルカ先生に好きって言われて思った。俺の好きとイルカ先生の好きは違うんだって。
 ねぇイルカ先生、馬鹿な俺は漸く気付いたよ。
 俺のこの気持ちは、間違いなく恋なんだと。
 そう、紛れもなく恋なんだ。
 この気持ちを恋と名付けられないのなら、この世に恋なんて存在しない。
 

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