匣の世界 
血腥い話だったら後でかけ直してくれ

 今にも泣きだしそうなイルカに足を開けと命令した。足を開いてそこを良く見せろと。
 従順なイルカの身体は俺に言葉に従い、大きく足を開いて繋がっている部分を見せてくれようとした。しかし意固地なイルカの意思が両手を俺の胸の上に置いてそれを隠す。命令されたのは足であって、手は自由なんだと言わんばかりに俺に逆らう。
 こうやっていちいち些細な抵抗をするところがまた可愛いと思う。無駄な足掻きだと分かっているくせに、イルカは命令の隙を突いて必ず抗ってくるのだ。だが、一筋縄ではいかないイルカだからこそ性行為も愉しい。
「両手を後ろに回せ。身体を逸らせろ」
 イルカがそろそろ射精をするだろうことは分かっていた。張りつめた性器は先端から透明の液体をだらだらと垂らしてしたし、息もかなり上がってきている。それに今にも泣きだしそうな表情が、何よりもイルカの限界を物語っていた。少し性器に触ってやればイルカは呆気なく精を吐きだすだろう。
「お前なんか……お前…んか、大……ああ…あっあっ……やっ」
 大嫌い、という罵声はもう飽きた。変態も屑も強姦魔も言われ飽きたが、大嫌いは特に飽きた。なので続きを遮るように性器を手のひらで包み扱いてやると、イルカは首を振りながら可愛く喘ぐ。
「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だっ…ああああもうやだああぁ!」
 イルカの中が蕩けるように熱くなり、嫌だと言う言葉とは裏腹にそこは俺のモノをがっつりとしゃぶってくる。広げられた足の付け根は痙攣し、扱かれている性器は自らの粘液でグチャグチャだ。あとは少し突き上げてやるか、その小さな乳首を指で摘んで捻ってやればイルカは泣きながら達するだろう。
 しかし俺は射精寸前だったイルカの性器から手を放す。
 イルカは一瞬驚いたようだが、すぐに俺の意図を読み取って顔を顰めた。それから「馬鹿」だの「ロクデナシ」だの「人でなし」だの喚きながら、顔を叛けて健気に腰を振っていた。さっきまで泣きそうだったのに、今は怒りで目が吊り上がっている。
 もう一度性器に手の伸ばして先端を擦ってやった。
「触んな馬鹿! お前なんか大嫌いだ!」
 いつもみたいにわんわん泣けば良いのに、しきりに大嫌いだとイルカは何度も喚く。だから強く握り込んで一気に扱いてやり、本当に射精寸前まで追い込んでからまた手を放してやる。
「触ってって言えば、触ってあげる」
 できるだけ優しく言ってやったのに、イルカは目を潤ませた状態で俺を睨みつけた。それから大きく、ハッキリと、「おまえだいきらい」と言い放った。
 イルカは頑固だ。恐ろしく頑固だ。なかなか根負けしてくれないので、こうなると思い通りにするには酷く時間がかかってしまう。命令で「触って」と「いかせて」を言わせるのはもうやったので、そろそろイルカが自分からそう強請ってくれると嬉しいのだが、この様子だとまだまだ無理のような気がする。性器や睾丸の様子からしてイルカも相当辛いだろうに、イルカの目は頑としてオネダリを拒否していた。
 もう少し苛めてから射精させるか、素直になれない罰として俺だけ射精してしまうか、どちらにしよう。
 考えながらイルカの乳首を弄っていると、イルカはまた小さな喘ぎを漏らし始める。イルカは乳首を弄られるのが好きだ。前戯の時はそれほど感じないようだが、後ろに突っ込んである程度揺さぶってから弄ってやると感じるらしい。そして射精の瞬間が近付けば近付くほど敏感になり、少しの刺激でかなり悦ぶ。
「ん……んー…ンあっ」
 余程乳首が感じるのか、また中が蕩けてきた。乳首でイけば愉しいと思い暫くしつこく弄っていたが、それはまだ無理らしかった。嬌声は大きくなったが、性器やその周辺からは射精の前兆が見えない。
「そろそろ俺、出そうだけど」
 オネダリも出来ない子は放っておいて、勝手に出すよ。そういう意味で告げると、イルカがまた泣きそうな顔をした。それなのに喘ぎながらも、「早くしろよ遅漏!」等とほざくので、本当に可愛くないと思った。
 イルカはずっと射精できないまま性器を弄られ、乳首を弄られ、自ら腰を振っている。もし少しでも素直な態度を取っていれば俺はそれらの辛さを全て覆すだけのことはやってやったのに。
 可愛くない。
 可愛くないので、本当に勝手に射精して性器を引き抜いた。散々弄ばれたイルカの身体は重苦しい性欲に支配されているはずなので、命令として自慰行為は一切禁止する。そして、精々苦しんでいれば良いと俺はイルカを放っておき、勝手に一人でシャワーを浴びた。
 思い通りにさせることは出来る。しかし命令だけで全てを済ませるにはイルカは愛し過ぎた。だからこそ精神には何の手も入れずに自由にさせているのに、今日はあまりにも可愛くない。
 今までが甘すぎたのだ。存分に苦しんで俺に服従すれば良い。
 そう思いながら寝室に戻ると、イルカは顔を伏せ虫のようにベッドに丸まって息を殺していた。まだ身体に残る性行為の余韻を散らそうとしているのか、両腕に爪を喰い込ませている。俺がベッド脇に座り髪を拭いている間、イルカはじっと息を殺してそうしていたが、尻から俺が放った精液が溢れ出ると少しだけ身体を震わせた。
 俺はわざとらしい親切を装いながらイルカの尻に指を入れ、精液を掻き出してやる。その際必要以上に指で中を弄り、イルカの好きな場所を徹底的に刺激した。イルカは俺が言わずとも尻を上げ、与えられる刺激を悦んで受け入れていた。が、アンアンと喘ぐのみで何ひとつ強請りはしない。
 指を引き抜いて放置すると、イルカはまた虫のように丸くなった。寝る場所がないからどけと命令すると、俺から顔を叛けてのたのたと歩きだし、浴室に向かったようだった。
 触って、イかせて、程度のことが言えるようになるまで、どのくらいかかるのだろう。自慰を禁止したまま毎晩こうして苛めてやれば折れるかもしれないが、あの強情っぱリのことだからギリギリまで粘るだろう。面倒臭いが仕方ない。俺はイルカのそんな部分も愛しいのだから。
 うだうだとそんなことを考えながら眠ろうとしたが、いつまで経ってもイルカが戻って来ないので浴室に様子を見に行った。するとイルカは浴室でも虫のように丸まっていた。頭から冷たいシャワーを浴びながらだ。
「イルカ、そんなことしてたら風邪ひくでしょ」
 溜息を吐きながらシャワーを止め、腕を引いて身体を起こさせる。イルカの身体はもう冷え切っていて、顔も血の気を失くし真っ白になっていた。ただ目だけが真っ赤になっている。ついでにスンと鼻を啜った。
 俺の天使が、こんな酷い目に遭っている。
 わけが分からないが、自分でしたことの結果なのに俺はそう思ってしまった。
「うん分かった。もう止める」
 そう言えば、イルカはもう一度鼻をスンと鳴らして問うた。
「何をだよ」
「イルカをああやって苛めるのは止める。風邪ひかれたら嫌だしね」
「天使は風邪なんてひかない」
 イルカはスンスン鼻を鳴らし、俺から思いっきり目を逸らし、それでいて子供のように唇を尖らせている。
「でももう止める」
 自分がこんなにあっさり根負けするとは思わなかった。でもイルカが暴れて抵抗するのは可愛いが、泣きながら小さくなって何かに耐えている様子は非常に嫌だった。しかも俺の見えないところでだ。そもそもイルカが泣くのはベッドの中、もしくは俺の前じゃないと許せない。
 冷たい身体をバスタオルで包んでベッドまで運んだ。それからなるべく丁寧にイルカの身体に付く水滴を舐め取っていき、指と舌で身体を愛撫していく。イルカの身体が徐々に温まってくると尻に指を挿入し、中を刺激しながら性器を口に含んでやる。イルカは身を捩ってそれを悦び、異様に可愛い声を上げながら長い射精をした。本当に、甘えているような異様に可愛い声だった。
 その声を聞きながらイルカの精液を飲み込むと、俺もまた勃起してくる。
 胡坐をかいて座った俺を跨がせるようにイルカを座らせ、挿入した。今日はもう散々鳴いたからかイルカの声は掠れていたし、疲れていたらしくそれほど暴れなかった。
「自分の精子の匂いと味がするなんて、嫌すぎる」
 キスをしようとするとイルカはそう拒否をした。無理矢理する気にはなれず、俺はただイルカの身体をゆっくりと揺さぶることに集中する。イルカの性器もまた勃ち上がり俺の腹に当たり始めた頃、少しだけ角度を変えて揺さぶるスピードも上げる。イルカの身体が汗ばみ、激しい息遣いの合間合間に声が漏れ始めると、後はイルカの好きなところだけを狙って突き上げ続きた。
「あ……や、あっ…あ、あ、あっ――ァアアアッ!」
 イルカはまた、甘えているような異様に可愛い声を上げて射精した。
 それどころか、自分から俺の首に腕を強く巻き付けてぎゅっとした。
 その瞬間に俺は激しい眩暈に襲われ、気付いたら激しく射精していた。


 イルカに嵌りすぎている自分に時々戸惑うことがある。
 腕の中で安らかに眠るイルカの髪を撫でながら、この調子では次の仕事に支障が出るのではないかと危惧し、少々憂鬱になった。
 とにかく今の俺は何をしていてもイルカのことばかり考えているし、イルカのことばかり見ている。欠伸をしていたり、料理を作っていたり、家の前の小さな畑で土弄りをしているイルカを飽く事もなく一日中眺めているのだ。目を吊り上げて怒っていたり、俺を無視してすまし顔をしているも良いけれど、畑で農作物に水を遣っている時の顔が凄く可愛い。植物相手に何か懸命に喋っているのが本当に可愛い。等と思いながら。
 イルカは、ほとんど自分から俺に話しかけようとしない。いつもプリプリと怒っていて、何を言っても無視を決め込むか、子供みたいにあっかんべーをする。何故そんな幼い子供のようなことをするのか本当に不思議だが、イルカの言動の幼さは他にも随所に見られたので、天使とはきっとこういうものなのだろうと思う。
 とにかく俺はイルカに溺れている。イルカ以外何も見えないほど溺れきっている。イルカが愛しくて愛しくて仕方がない。今日のように、苛めたくても苛められなくなってきている。
 俺は目を閉じ、イルカが自分から抱き付いてきた数時間前のことを思い出して一人で笑った。これが幸福というものかもしれないと、ふと思った。




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