扉の世界
|
最終回で真の愛によって目覚めた超戦士ミ・イルカーノウによる、
クルックーポッポ作戦
|
さっき疾走した時に髪と顔にへばりついた蜘蛛の糸を指で摘んで取りながら呼吸を整え、それを終えてもまだ落ち着かない気持ちを何とかしようと次に手持ちの装備を確認する。クナイも手裏剣も千本も充分、起爆符だってある、巻物はひとつも使ってない、医療キットの中身も申し分ない、万が一のことが起きても兵糧丸は新しいものだから腹を壊す心配はない、大丈夫だ、大丈夫。それに何より俺のチャクラは、最終回で真の愛によって目覚めた超戦士ミ・イルカーノウみたいに漲っている。
自分を鼓舞するように強く頷き、ワイヤーを出して幾つものトラップを作る。敵が精鋭部隊だろうが何だろうが、こうして細かく連鎖させれば少しは引っ掛かる奴も出てくるはずだ。正当派と言うよりも古典的なトラップを連続させて、それから意表を付く間抜けトラップを発動させて、相手をカチンとこさせてから今度は煙幕で視界を奪って……。大丈夫だ、大丈夫、無理をせず落ち着いて行動すれば良いんだ。いつもみたいに。
一週間前から練っていたシミュレーション通りに予定時間内でトラップを張り終えると、一度だけ大きな深呼吸をして夜の空気を肺にいっぱい取り入れ、もう一度自分に言い聞かせる。
大丈夫だ、大丈夫。
見通しの良い高台に陣取って身を潜めて気配を消し、耳を澄ませる。敵が来たらああしてこうして、逃げて、物音を立てながら木ノ葉の陣営に近付く。敵を殲滅してもらってからの言い訳ももう考えてあるし――来た!
雑念を振り払って目の前で展開される事柄にだけ集中する。敵の先陣は十六、いや十八人か、いやよく分かんないけど何かそれくらい。第一第二のトラップは避けられたけど、感知トラップには引っ掛かった。次に俺のクルックーポッポトラップにもまんまと嵌ってるぞ。よしよし俺の読みは当たってる、ルートを変えるかどうか悩んで、でもこのまま突っ込んでくるはずだ。
煙玉を握り締めて狙いを定める。トラップが張ってあるって分かったからには若干スピードが落ちるはずだからそこをよく狙って、投げる!
「敵襲だぁあああっ!」
敵の目を引くために大声を出して、追いかけて来たら逃げる。来い、この俺と追いかけっこしろ。俺は中忍だから足は遅いけど、これだけ距離があったら絶対に逃げ切れるはずだ。来い!
「お前、頭にハトの糞が乗っかってるぞ!」
ケラケラっと笑いながら指摘してやったら、イカツイ顔をした敵が真っ赤になってこっちに向かって来た。煙幕、煙幕、仕掛けておいたトラップ、次は起爆符。
飛んで来るクナイや手裏剣を躱しながら俺は木ノ葉陣営に向かって行く。もう起爆符の爆破音に気付いてみんなそれなりの動きをしているはずだから、後は様子を見に来る木ノ葉の先遣隊とコイツ等を鉢合わせにすれば良い。
「はとのうんこついてるっ!」
時々振り返っては指を差し、笑ったりアワワってやったりバッチィって顔を顰めたり真面目に助言してる振りをして挑発すると、その度にイカツイ顔をした敵が何か怒鳴り散らすし、ついでに殺気もわんさかばら撒いてくれるから森の動物達も鳥達も大騒ぎしてくれる。これだけ騒々しかったら木ノ葉の先遣隊も真っ直ぐここに来てくれるってもんだ。
チャクラを足に集中させてとにかく駆けて行く。目論み通り、すぐに木ノ葉の暗部が来た。
「急襲の模様です!」
擦れ違いざまにそれだけ言って俺はその後もどんどん走る。木ノ葉の暗部と言えば隠れ里の中でも名だたる精鋭揃いだ、俺のクルックーポッポトラップなんかに引っ掛かった奴等程度なら必ず足止めしてくれる。
そう思ったら多分ちょっとだけ気が緩んでしまったんだろう、左足の脹脛を敵が放ったクナイが掠めた。
「おい、大丈夫か!」
「大丈夫です、行けます!」
声を掛けてくれた熊面の暗部さんに感謝しつつ木陰に隠れてすぐさま止血し、また本隊に向かって走り出す。
近くで膨れ上がる上忍同士の殺気や、クナイ同士がぶつかる音、俺なんかとは比べ物にならない量と質のチャクラが練られ忍術が発動する気配、罵声、爆音、血の匂い。
怖がるな、お前だって木ノ葉の忍だろう?
強張りそうな身体を叱咤し、森を走り抜けて本隊へ合流。そのまま部隊長の天幕に駆け込み敵の急襲を告げる。
そして、俺がこの戦場で行うべき最も大きな任務は終わった。