それからクズ上忍の機嫌は、げんなりするほど悪くなった。
猫面の人の会話から察するに、コイツがいつも俺の傍にいるのは影分身を使っているからだと分かり、俺もまた気色悪くて仕方なかった。コイツにはコイツの任務があるはずなのに毎日毎日何故家に来る、何故四六時中付き纏うんだと常々思っていたのだが、そこまでして見張るその執念と陰湿さとその異常性に例えようのない寒気を感じた。コイツはクズだが仮にも二つ名を持つ上忍で、割り当てられる任務も危険が多いものがほとんどのはずだ。それにも拘わらずコイツはチャクラを使って影分身を作り、俺を犯し変質者のように付き纏うのだ。俺を苦しめることが人生の目的にでもなっているのか。
何故そこまで俺に執着するのか分からない。
中忍の、ちょっと頑丈そうで性の経験が少なそうな俺に身体目的で近付いたんだと思っていた。遊び甲斐があると思ったんだろう、アカデミー教師を良いように弄ぶ背徳感をこの変態は味わいたかったんだろうと、そう思っていた。そして、いくら近付こうと思っても俺がコイツに一向に惚れる様子を見せなかったから腹を立てたんだろう、面倒臭くなって暴力に訴えたんだろうと。
しかしここまでくるとそれだけではない気がする。あまりにも異常すぎる。チャクラをそこまで削ってまで俺に付き纏い苦しめるには、そんな理由じゃ弱すぎる。
「お茶」
不機嫌な命令に俺は立ち上がり、薬缶を火にかける。
何故コイツがそこまで俺を憎んでいるのか分からない。全て、最初から全てコイツの罠だったとしたら、俺は去年からかもしくはそのずっと前からコイツにここまで恨まれていたことになる。でも俺とコイツはそれまで接点なんてほとんどなかったし、ナルト達の一件で対立した時もすぐに和解した……少なくとも俺は和解したつもりだった。あの時のことを恨んでいるとしたら相当な粘着質だが、でもあの時だって結局はコイツが俺を言い負かしたんだから、そこまで恨む必要はないはずだ。受付で言葉を交わしたことはあるが、失言した記憶はない。
湯が沸いたので急須に茶葉を入れて湯を注ぐ。
訊いてみるか。いっそ、腹を割って話してみてくださいとお願いしてみるか。このクズがクズであることは変わらないが、それでも理由は知りたい。失礼なことをしでかしてしまったのなら、その非は認め謝罪したい。このクズを許すことはしないけれど。
そんなことを考えていると出し抜けに尻を揉まれた。驚いて身体が飛び上がる。
「なにボケっとしてんの?」
「すみません」
驚いて素直に謝ってしまった。普段ならまず無視するのに。でもここでついでに訊いてみようか。
「カカシさん」
呼びかけるとクズ上忍は「なに?」と冷えた声で返事をしながら茶箪笥の中からリョウのコップを取り出した。コイツが普段使っているのは客用の湯呑かグラスなのだが、それはまだ洗ってなくてシンクの中に突っ込んだままになっているからだろう。コイツがいなかった一週間近く、俺はコイツが使っているものなどおぞましくて触りたくもなかったからずっと放置していたのだ。
でもそれはリョウので、お前のじゃない。お前が使うとリョウのが穢れる。
「あの、今いつもの湯呑洗いますから」
軽い口調でそれを仕舞うように何気なく仕向けてみたつもりだったのに、クソッタレ上忍は何か感付いたようで顎を上げて目を細めた。
「なに? これじゃ駄目なの?」
「駄目じゃありませんけど、いつもの湯呑を洗いますから」
「そ」
了解した口振りなのに、クズはコップを茶箪笥に戻さずに俺の腹に手を回した。それから卑猥な手つきで俺の腹と胸を撫で回し、性器をゆるゆると扱く。
茶を飲むんじゃないのかよ、と心中で毒突く。いつでもどこでも盛って、コイツは本当に馬鹿でクズで猿のような奴だ。セックス、セックス、セックス、頭ん中全部セックスで一杯の最低の下衆な変態だ。
「何でこのコップ使わせたくないの?」
俺の性器を手の平で揉みしだきながらクズが問う。
「そういうわけじゃありません。ただ、普段使っているものの方が良いだろうと思ったんです。他に理由はありません」
「いつもは俺が何か訊いても無視するくせに、今日はペラペラとよく喋るねぇ」
頭ん中はヤることで一杯の猿のくせに、そういうことだけは敏感に察知しやがる。本当に腹立たしいし疎ましい。死ねば良いのに。コイツ、死ねば良いのに。
とにかくリョウのコップを使わせまいとクズ上忍が使っている湯呑を手にして洗おうとした。しかし性器を弄っていた手がそこから更に進み、俺の睾丸を緩く握る。
冷や汗が出た。
「本当のことを言おうね?」
「本当です。他意はなく、単に……」
「術をかけて真偽を問う。もし嘘だったら握り潰す。良いね?」
くっと力を入れられただけで、悲鳴を上げたいくらいの激痛が走った。男として本能的に最も恐れる急所を握られて、身体が震える。殺すと言われても平気だ。首を絞められても平気だ。でもそこの激痛は怖い。理屈ではなく本能が恐れる。
「俺はやるって言ったら本当にやる。嘘だったら本当に握り潰す。分かった? じゃあもう一度訊く。なんでこのコップを使わせたくないの?」
「それは……」
言い淀んでいると再度力を入れられ、全身滝のように汗が噴き出た。
「……リョウのだから」
すかさずコップを床に叩きつけられた。
コップは大きな音を立てて砕け散り、その破片が俺の足を掠めて肉を切る。足元から血臭が漂った。
「その他にリョウに関係するものは? これだけじゃないでしょ?」
リョウは何も悪くないし、コップだって何も悪くない。そこに得体の知れない病原菌が付いていたわけじゃないし、呪われていたわけでもないし、そもそも誰かを脅かすようなものでもない。コップは、ただのコップだ。そのコップを、何故叩き割る必要がある? 悔しい。リョウのコップなのに。あの子は本当に良い子で、いっつも土産を持って来てくれて、俺を笑わせてくれて、楽しませてくれて。リョウが何をした? お前に何をした? リョウはお前に……憧れていたのに。
「言いな。どうせ後から全部調べる。マフラーも貰ったでしょ? あとは何? あの子にも訊き出すよ。アンタが嘘を吐けばあの子も酷い目に遭うよ」
なんでマフラーのことも知ってるんだ?
「俺のイルカのマグカップも、貰いました。手紙も」
「へー。アンタが毎日使ってるあれも、リョウ絡みだったんだ」
クズは無感動な声でそう言って俺から手を離し、茶箪笥の中からイルカカップを取り出し。
渾身の力を込めて叩き割った。
俺のお気に入りだった、イルカが描かれたマグカップ。とても大切にしていたマグカップ。俺と同じ場所に傷があって木ノ葉マークもちゃんとある、思い出が一杯あるマグカップ。このイルカカップが何をした? お前に何をした? 何もしてないのに! とても大切なものなのに!
「マフラー。あとは手紙ね。手紙、出しておきなさいよ」
蛆虫野郎はそう言い捨てて寝室に向かう。すぐに押入れを開ける音がし、続いて中を引っかき回している物音がする。何でこんなことをしなくてはならないのか分からない。マフラーに何の罪がある? お前に何をした?
「何をするつもりですか」
寝室に行って冬用の収納ケースを引っ張り出しているクズに、強張った、掠れた声で訊いた。クズは返事をせず、収納ケースの蓋を開けて中のものを次々と出していく。そこに目的のものがないと分かると、次のケースを引っ張り出し、やっぱり中のものを散らかしていく。
そしてリョウにもらったマフラーを発見すると憎悪の籠った目で俺を見て、印を結んだ。
一瞬のうちにマフラーが灰になる。
「そのマフラーに何の罪があるんですか? リョウに何か恨みでも、いや、俺にどんな恨みがあるんですか? 意味が分かりません。そんなことをする意味が分かりません」
声が震える。
怒りか、悲しみか、絶望か。とにかく綯い交ぜになった様々な感情が押し寄せてきて、俺の声と拳を震わせる。
「アンタ、俺の奴隷でしょ」
「だったら何です? それを貰ったのは貴方の奴隷になる前です。そもそも奴隷は人にものを貰ってはいけないのですか?」
「いけないに決まってる。アンタは俺の許可なく他人と喋ってもいけない」
「奴隷一人如きに凄まじい独占欲ですね。まるで嫉妬に狂う醜い女のようだ」
吐き捨てるとクズが嗤う。
コイツは、俺の絶対的な支配者になりたいのだ。徹底的に俺を支配したいだけなのだ。
「手紙、出して」
「嫌です。こっから出て行け変態が。このクズが」
じりじりと身体が焼けるようだった。もう限界だ。
限界だ。
堪えることに限界がきた。怒りに限界がきた。お前の匂い、お前の体臭、お前の存在そのものに限界がきた。馬鹿馬鹿しい。こんなクズのお遊びに付き合った自分が馬鹿馬鹿しい! なんだコイツ、なんなんだコイツ!
「生意気な口利くんじゃないよ、中忍如きが」
「その中忍如きのケツに執着してんじゃねーよ、ド変態のクズが」
タンっと床を蹴る音がして、一気に距離を詰められる。
「近寄んな、くせー息吹きかけんなよクズが!」
「リョウを、殺すよ?」
例によって例の如く首を絞めようとするクズが可笑しくて仕方ない。コイツ、こればっか。思うようにならないとすぐに俺の首を絞めて、リョウの名前を出す。そればっか。どんだけ可哀想な脳味噌してんだ。
「リョウに手を出したらアンタもただじゃ済まさない。絶対に洗い浚い喋って訴える。それから里中にお前が何をしたのか、どんだけ気色の悪い変態野郎か言いまわってやる。ケツを犯してケツから出る自分の精液を見るのが大好きなおぞましいド変態ってことも、他人を奴隷扱いして全裸で過ごさせるのが大好きってこともな! なにが写輪眼のカカシだ、笑わせるな!」
唾を吐きかけてやった。それから全身の力を込めて殴ってやった。
当たるとは思ってなかった俺の拳が当たり、クズが無様に吹っ飛ぶのを見て思いっきり笑った。
「いーよ。手紙は自分で探すから」
クズは鼻で笑って立ち上がり、寝室にある箪笥に向かう。
そこには俺が大切にしている、生徒達の思い出の品がある。
「ふざけんな!」
殴りかかったが、今度は躱される。即座に拳が飛んできて、今度は俺が殴られる。上忍の硬い拳が頬に当たり、すぐさま腹に蹴りを入れられる。息が詰まった。
クズが箪笥の一番上の段を箱ごと取り出し、中身を床にばら撒いた。そこからひとつひとつに目を通していく。
「それに触るな! お前が触ると穢れるんだよ!」
咳き込みながら立ち上がり、俺はクズに突進していく。でも片手で払い除けられる。壁に頭をぶつけてグラリと視界が揺れた。その衝撃で落ちてきた時計を掴み、クズに投げつける。払われる。手当たりしだい手に触れたものをクズに投げつける。
「あ、はっけんー」
わざとらしい子供っぽい口調でクズが手紙を掲げた。
「テメーが触れると穢れるんだよ! 手を離しやがれえええッ!」
ありったけの声で絶叫したのに。
何の躊躇も何の前置きもなく、やっぱり。
一瞬にして灰にされた。
――殺そう。
殺そう。死ね、なんて他力本願な言葉じゃなく無責任で曖昧な願望でもなく、今、明確に、断固とした殺意が俺を完全に支配した。俺の肉体と精神をみっしりと支配したそれは、見事なまでの絶対的で明確な殺意だった。
そもそもコイツが生きているのが不可解だし、コイツは不必要な存在だ。コイツが里に何をした? そりゃある程度は里に貢献できるかもしれないが、長い目で見てみろ。コイツは里を蝕んでいく癌だ。俺の生徒がこんな男の部下になるなんてこと、もう絶対に許せない。コイツは……俺の可愛い生徒に手を出す可能性があまりにも高いし、いつかきっと、いや絶対に俺の生徒をこうして奴隷にする。するに決まってる!
火影候補? 笑わせるな。こんな屑が火影になったら木ノ葉はお終いだ。この里を救うためにも、コイツは俺が殺す!
「死ね。今すぐ死ね」
万が一の時のために部屋に隠しておいたクナイを取り出した。
「中忍に俺が殺せるとでも思ってるの?」
「絶対に殺してやるよ」
「楽しみだねぇ」
右手にクナイを持ち、左手にペン立てからボールペンを一本抜き取った。狙いを定めそれを投げ、同時に素早く距離を詰める。クズがペンを指に挟んで止めた時、俺は距離を詰め終えクナイを振りかざす。避けられる。刺す。避けられる。刺す。
刺され刺され刺され刺され!!
殺したい。殺さねばならない。この男を、里のために、みんなのために、このクズを!
「はい、終了」
クナイを持った手を掴まれ、床にねじ伏せられた。
「テメーは絶対に殺す!」
「はいはい。んじゃ、お仕置きタイムねー。今日はお土産あるって言ったでしょ? 一杯愉しいことしようねー。ああ、二人じゃ足りないって言われるかもしれないから、今日は三人でやろうか」
俺をねじ伏せたままクズが片手で印を結ぶと、もう一人影分身のクズが現れた。そいつが居間に戻り、でもすぐに戻って来る。
尻に指を当てられ、冷やりとしたものが塗りこまれる。
「絶対にお前を殺す」
「分かったよ」
クズの声は嗤っていた。唇を噛み首を上げて睨め付けると、そこには人形のように白い顔をしたクズの顔があった。口元は嗤っているのに表情がなく、目が死んでいる。
気持ち悪い。コイツの何もかもが気持ち悪い。殺したい。
尻に指を挿れられ、いつものように中を弄られる。殺したい。コイツのペニスを噛み千切って殺したい。
なのに。
身体が異様に熱くなってきた。中の一点を擦られるだけで太腿の内側がビクビクとヒクつく。
「……なに…を」
全身が震えだした。これはどう捉えても怒りからくるものではなく、快楽を貪欲に欲している肉体の反応だった。その証拠に中を弄られる度に、どうすることもできない激しい快感が広がっていく。
「だから、お土産だって。これイイよー。アンタ絶対癖になるよ。俺とセックスすることが大好きになるよ」
殺したい。このクズを切り刻みたい。
けれど男は執拗に中を弄る。ぐちゃぐちゃと掻き混ぜ、左右に、前後に揺らし、その都度俺の肉体は死にたくなるくらい悦がり狂う。内部からの熱が思考と身体を溶かす。
中を掻き混ぜる音と自分の荒い呼吸、それに雨が窓を叩く音だけが妙に鮮明に聞こえる。……雨。嵐が、来る。
「あ、あ」
そこを押されて思わず腰が浮いた。もっとそこを。
指が増やされ圧迫感が増す。でもその圧迫感が壮絶な射精感を齎す。
「悦くなってきたでしょ?」
首を振る。殺したい。
男は、足りないのかなと笑って再度滑りのある液体を内部に擦りつける。悲鳴を上げたいくらい強い快感がやってきた。中がぎゅっと収縮し、指をもっと奥まで飲み込もうとする。身体が熱い。たまらない。中の、あそこをもっと…もっとちゃんと。
身体を反転させられる。
仰向けになった俺の両手首は纏めて本体の男に片手で拘束され、反抗する気配のない両足はだらしなく広げられる。そして男の影分身に執拗に指で中を弄られる。指はくねくねと蠢き内壁を擦り、その一点を苛めぬく。中で折り曲げられ、バラバラに動かされ、広げられる。
本体のクズが乳首に指を当てた。
それだけで身体が仰け反り、甘く痺れるような快感が尻の中の一点に繋がる。
「あ、あ……ああ」
「気持ちイイでしょ?」
首を振る。殺したい。殺したい。殺したい。
男が乳首を指で挟み、とても優しく捻った。
「ああああああ!」
壮絶な射精感に襲われてまた身体が仰け反る。同時に指が中のそこを強く押す。
「や! あ、……やめ!」
足も尻も、拘束された腕も、全部がぶるぶると震えた。男は俺の反応に気を良くして、それを何度も繰り返した。乳首を優しく摘まみ、中を押し上げる。乳首を優しく捻り、中を強く擦りあげる。乳首を優しく潰し、尻に指を増やす。
繰り返される度に俺はその行為にのめり込んでいく。胸から尻の奥へと繋がる快感のことしか考えられなくなる。全身に汗をびっしょりとかき、みっともなく喘ぎ声を出して強請るように腰を振る。
雷鳴が轟きだしたのを酷くぼんやりと感じた。
「そろそろ俺の、挿れる?」
いつもとは違う、優しい声だった。
殺したい。殺したい。でも欲しい。早く欲しい。ガチガチに硬くなった俺の性器から早く精液を出したい。ガチガチに硬くなった俺の乳首をもっと弄って欲しい。中のあそこをもっと強く。
刺激を。もっと。
早く。早く!
「挿れる? 俺の、欲しい?」
「……早く…あ、早く!」
「そう。じゃあ、挿れてあげるね」
男の性器が挿入されると、その圧迫感で悲鳴を上げた。悲鳴というよりケダモノの咆哮だった。そしてそれは悦びの咆哮に他ならなかった。全身が戦慄き頭が真っ白になって。
射精していた。
強い閃光が走り、一瞬男の白い顔を照らした。すぐにつんざくような雷鳴が轟く。
「良い子だね」
男が優しい声でそう言う。
でもまだ。まだ足りない。全然足りてない。もっと奥を突き荒らして、もっとそこを抉って、もっと乳首も弄って欲しい。そうじゃないと駄目だ。殺したい。気持ちイイ。淫猥なことで頭が一杯になる。もっとしてくれないと我慢できない。もっと犯してもらわないとこの熱から解放されない。もっとして欲しい。突き荒らして、徹底的にシテ。
モットイヤラシクテ、変態的ナコトヲシテ。
「もっとしようね」
男がそっと俺の手首を離し、俺の唇に指を這わせる。
俺は堕ちる。
ケダモノによって、同じケダモノに堕ちる。
俺は男の影分身に犯されながら、ケダモノの声を上げて悦がり狂う。
尻で性器を貪りながら、本体の男の指を夢中でしゃぶる。
男はうっとりとした目で俺を見下ろしている。
俺はそれを見ながら涎を垂らし、男の足に頭を乗せ、尻を犯され指をしゃぶる。