毎日目覚めと同時に地獄はやってくる。
クソ上忍様は俺の家で寝泊まりをしており、朝っぱらから俺の身体をベタベタと触る。それは情痴に狂った下品な老人に撫で回されているような強烈な不快感と嫌悪感を俺に与える。尻に指を突っ込まれて目覚めたこともあるし、ねろねろと背中を舐められて目覚めたこともある。勿論朝から犯されることもある。どれにせよ朝から死にたくなる。夜明けとともに太陽は燃え盛りそのせいで俺もこのクズも汗をかいているのだが、汗ばんだ時だけに仄かに臭うこのクズの体臭を嗅ぐだけで死にたくなる。
朝から前立腺を好いように弄られ、蒸した部屋の中で汗だくになって犯される。二人分の汗と精液がたっぷりと染み込んだベッドのシーツを変える度、俺は言いようのない怒りと悔しさに襲われる。このベッドを捨ててしまいたい。見るだけでもおぞましい。どこか人気のないところでチャクラを全部使い切るような大技を使って一瞬にして灰にしてやりたい。
クズは毎日俺の部屋から出て行き、俺の部屋に戻って来る。俺が作ったメシを食い、俺が洗った風呂に入り、俺の家の便所でクソとションベンをして俺の部屋で生活する。言いなりになっていても機嫌が悪いと、目付きが気に入らない態度が悪いと難癖を付け俺を殴る。受付をする時綱手様にバレないようにと、顔以外を殴る。腹を殴られ嘔吐すると汚いと罵る。最近のお気に入りは関節技だ。その痛みに俺が音を上げるまでクズは技をキメたまま冷めた目で俺を見下ろす。まるで敵忍と対峙している時のような目で。
毎朝目が覚める度に、死にたくなる。
目覚めたくない。
アカデミーが夏休みとあって、このクズは暇さえあれば堂々と俺を付け回すようになった。受付の時や綱手様の手伝いの時はコソコソと隠れ、それ以外の時はあたかも本当の友人のような態度で俺の傍にいる。クズは人目があれば俺に手を上げないので、俺はここぞとばかりクズの言葉を無視してやる。思いっきり軽蔑した視線を送ってやる。だが家に帰れば俺は毎日犯される。調子に乗るなと身体をいたぶられる。
「ミキ! 足技を出す時に左脇を開けるなと言っているだろ!」
俺の怒声にミキが足を下ろし、他の子も動きを止めた。
「攻撃時の癖は絶対に直せ! 読まれるとお前の命が危ないんだからな」
悔しそうに唇を噛んだミキが、目を吊り上げて再度俺に攻撃をしかけてくる。ミキは良くない癖がついた足技を中心に、大輔と藤堂は左右に別れ、アゲハは離れて隙を窺っている。
「何のためにチームで攻撃してるんだ? バラバラじゃ俺を倒せないに決まってる。もっと頭を使え!」
藤堂の攻撃を避け俺の右側頭部を狙ったミキの足を手で止めて、突進してきた大輔の身体をヒラリと躱して足を引っ掛けてやると大輔は見事にすっ転んだ。
「タイム!」
ミキが口を尖らせてそう叫ぶので、思わず笑った。
「ばっかもーん。お前、敵にタイムを要求できると思ってるのか?」
「でもこのままじゃイルカ先生にひと泡吹かせられないもん。戦いながら作戦を練るなんて無理だから、ちょっと時間を頂戴」
「だからな、お前、敵忍を前にして時間を頂戴なんて言えるか?」
「タイムは止める。でも私は仕切り直しを要求する」
なんという我儘な子だ。しかしミキらしい。大輔も藤堂も苦笑しているが、アゲハだけはミキの意見に賛同して拍手をしている。確かにこの子達はまだ戦いながら作戦を練る域には達していないし、練れたとしてもそれを戦いながら、しかも俺に気取られずに仲間に伝えることもできそうにない。
「攻撃も単調になってきてたし、それじゃ休憩がてら作戦タイムにしろ。昼飯も食っておけ。でもあんまり腹一杯食うなよ? 吐くかもしれんからな」
暑いから水分補給はしっかりしておけと付けたし、俺も休憩に入った。
ありったけの熱量を容赦なく地上に降り注ぐ太陽を遮るものは空になく、じっとしているだけで脱水症状が起きそうなほどの炎天下で生徒達の修行に付き合った俺は、シャツを絞れるほどぐっしょりと汗をかいていた。演習場の端に行きシャツを脱いで頭から水を被ると、それだけで生き返る。ここは水道水ではなく井戸水なので冷たくて気持ちが良く、頭を冷やして体内に籠った熱を引かせると次は蛇口を上に向けて水を飲んだ。冷えた水が喉を通ると身体の中も落ち着く。
一息吐くと木陰に入り腰を下ろす。種の本能が命ずるまま鳴く蝉の声がそこかしこからけたたましく聞こえ、白い蝶がひらひらと舞っているのが見える。頭から浴びた水が大気の熱で蒸発し、風はないがこのうだるような暑さの中でも涼しさを感じられた。俺の対角線側にミキ達が休憩しており、円陣を組んで弁当を広げようとしている。アゲハが笑っているのが見える。
ミキ達の修行にはできるだけ付き合っていた。忍術も体術も忍具の訓練も、できるだけ付き合ってなるべく丁寧に指導していた。普段は大人数を相手にするからどうしても細かい部分まで見られないものだが、こうして少人数なら目が行き届く。ミキの悪癖もこの夏に初めて気づいたものなのだ。できるならあの子達だけではなく、全ての生徒達をこうして見てやりたい。一人一人丁寧に、手取り足取り指導したいと思う。無理なのは分かっているのだが。
暫く身体を休ませているとまた汗が滲んできた。目を閉じると少し眠くなる。
「昼飯は?」
聞こえないふりをした。このクズの声だけ聞こえない病気にでもなってしまいたい。このクズだけ見えない病気でも良い。このクズが意識に入って来ない何か特殊な術でも使ってしまいたい。
「食べなくて良いの?」
昼飯は持ってきているし、少し身体を休ませてから食べようと思っていた。だから、どこかへ消えてくれ。お前の顔を見てメシなど喰いたくない。せっかくのメシが不味くなる。
「食べないならここで犯すよ」
目を開けてクソ上忍を睨みあげた。嗤ってやがる。
「今日は暑いね。良い具合にアンタも服を脱いでるし、さっさとヤろう。ここが嫌なら場所を移動するけど?」
コイツの頭ン中はヤることばっかりだ。脳味噌なんてスッカラカンに決まってる。俺を見ればいつでもどこでも勃起して突っ込んで、メシを食ってクソして寝るだけの屑。救い難い屑。
「ここでヤっても良いの? 向こうから見えるけど」
ズボンに手をかけた男を見て、俺は渋々起き上がる。コイツはヤると言ったらヤるんだ。俺が無視すれば面白がって本当にここでヤりかねない。
演習場を出て森の中に入った。人気のない場所に着くと大木に寄りかかり、俺は全裸になる。人気がないと言っても誰が来るかわかりゃしないのに、そんな場所で俺は何をしているんだと死にたくなる。それでもケツを差しだせと言われればそうせざるを得ない。俺はこのクソッタレな上忍の奴隷であり玩具なのだから。
腕を上げて両手を重ね大木に押し当て、その上に額を乗せる。立ったままヤられるのは慣れているので、身体に負担がかからないよう力を抜いてケツを突き出し足を開いた。
「あ、潤滑剤持って来るの忘れた」
クズが楽しそうな声でそう言いながら俺の尻に指を挿れた。最近は慣れてきたものの、滑りがないなら痛いに決まっている。俺は慌てて身体を捻り、その手を掴んだ。
「午後からもあの子達に付き合う予定なんです。潤滑剤がないなら、止めていただけませんか?」
クズ上忍は冷ややかな目で俺を見下ろし、口端を上げて嗤う。
「でも俺、勃起してるしね。出したい」
乾いたまま突っ込まれるとまず間違いなく切れるし負担がかかりすぎる。
「アンタが口でしてくれるなら、それでも良いけど?」
口淫を要求するクズに、俺は頷く。それで済むならそれで良い。こんな最低な人間のためにあの子達の修行を疎かにするわけにはいかないんだ。あの子達は、生徒は、子供は、未来だ。俺の未来であり希望だ。
土の上に膝を突き、口を開ける。勃起した気色の悪い性器を舐めようと舌を出す。そのまま先端に触れ、根元まで舐める。また先端まで戻ると、クズの先走りが舌に絡みつき鼻に独特の匂いが広がった。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。死ねば良いのに。ここで心臓麻痺でもおこして死ねば良いのに。
「舐めながら上を向いて。俺を見ながらしゃぶって」
命令に従うと、クソ野郎と目が合った。俺を憎悪するその目が優越感に浸っている。この男を屈服させている、屈辱を与えられていると悦に浸っている。
――噛み千切ってやろうか。
笑えるじゃないか、写輪眼のカカシのペニスを噛み千切ってやるなんて、笑えるじゃないか。コイツ、俺を殺してもペニスがない去勢された馬みたいになるんだぞ? そうすりゃリョウのことも犯せない。誰のことも犯せない。その上皆から笑われるんだ。見ろよ、あれが中忍にペニスを噛み千切られた写輪眼だぜって。傑作だ!
「はーい、そこまで。良からぬことを考えてるねぇ」
その声が耳に届くや否や、後頭部に凄まじい衝撃を受けた。目の前が真っ白になり、衝撃で四肢がヒクつく。グラグラと揺れる視界と感覚の中で、男が俺の顔を片手で掴み後ろの大木に叩きつけたことを辛うじて理解する。
「前はしてくれたのにねぇ、フェラチオ。今は余計なこと企むようになっちゃって」
お仕置きかなぁとクズは笑う。喋りたくても男の手が俺の口を塞いでいる。
「んんー」
「えー、なに? お尻に突っ込んで欲しい?」
「んー!」
「乾いてると俺も痛いんだよねぇ」
何が可笑しいのか男は笑い、それからおもむろに自分の手で性器を扱きだす。後頭部の痛みと息苦しさで俺の顔を押さえている手を叩くと、男はやっと俺から手を離した。
「飲みなさいよ、俺の。それで許してあげるから」
男は自慰をしながら俺に謝罪を要求した。危害を与えるつもりはなかったと言うと、片手で首を絞められた。意識が落ちる寸前まで締めあげ、そしてまた謝罪を要求する。それを繰り返した。俺が咽せて苦しんでも笑いながら自慰をし続け、そして俺が噛み千切ろうとしたことを認めるとそれを何度も何度も謝罪させた。申し訳ありません、もう二度と逆らいませんと俺に言わせた。
「出るよ。口を開けな」
命じられるまま俺は口を開く。勃起した男の性器が近付けられ、俺は覚悟を決める。
「吐きだしたらまた飲ませるよ。アンタが完全に飲み込むまでやる。どれだけ時間がかかっても、絶対にやる」
性器が一段と大きくなり、尿道口が射精の予感でパクついた。飲まなければこの男は本当に何度もやるから、飲まなくてはならない。目を強く瞑って待っていると勢い良くそれが口の中に吐きだされる。二度三度、口の中に男の精液が注ぎ込まれる。口端にかかったものを除いて俺は全て飲み干した。この世界で最もおぞましい腐れ外道の精液を。
その精液は疫病にかかった瀕死の動物の糞に等しいものだった。醜く死んでいくおぞましい生き物の膿に等しいものだった。ざわざわとうごめく蟲の塊に等しいものだった。
それでも飲み込む。すぐさま胃の腑が拒絶反応を示し吐き戻そうとするが、嘔吐してはいけない。口を押さえて吐きださないように全身に力を込める。蒸し暑い森の中に男の精液の匂いが蔓延しているかのような感覚に陥りながらも、耐える。
「やり直し。もう一度」
冷酷な男の声に思わず喰ってかかった。
「何で!」
「だって垂らしたじゃない。アンタ、口の端に。俺は全部飲み干せと言った」
怒りで目の前が真っ赤になったが、殴りかかる前に我慢していたものを全部吐き出した。ビチャビチャと土の上に嘔吐物が口から吐き出される度に、鼻に男の精液の匂いが広がる。死にたい。死にたい。死にたい。
「汚いねぇ。これじゃ勃起しないよ」
クズが呆れたようにそう言った。
そして俺はその後、男に命じられるままその場で馬鹿みたいに足を広げて自分の指を舐め、その指を尻に挿れて自慰をしてみせた。見えにくいと言うのでうつ伏せになって肩を地面に突き、尻を高く持ち上げて男が興奮するように指を艶めかしく動かした。湿気た土の匂いと暑さで流れ落ちる汗を感じながら自慰をした。クズはそれで満足し、ほどなく二度目の射精をした。俺はそれを全て飲み干した。
服を着て演習場に戻ると、ミキ達は自主練を始めていた。
口の中が気持ち悪い。死にたい。だが水を飲む許可は出ていない。あのクズは演習場の端で腕を組んで俺を見張っている。
「イルカ先生、おっそーーい」
俺の姿を見付けるとミキが駆け寄って来る。続いて大輔、アゲハ、藤堂。
「おう、すまなかったな。ちょっと昼寝をしてしまって」
顔の傷を指で掻きながらハハっと笑う。
これでもかっていうくらい真っ青な空には、灼熱の太陽。もくもくと絵に描いたような真っ白い雲がそこに浮かんでいて、蝉は今年もやかましい。鳥の声だって聞こえる。真夏の湿気た空気と気温、それに修業でかいた子供達の汗の匂いがふんわりと漂ってきて、ああ、俺は子供の汗の匂いは好きだなぁと思う。
イルカ先生、昼寝とは余裕じゃないの。練りに練った私達の作戦で病院送りになっちゃうかもしれないのに。
ミキがそう言うと、他の子達もそうだそうだと笑う。
先生はそんなに簡単にやられないぞと俺も笑う。子供達の無邪気な顔を見て、笑う。
そして急に。
――止めようのない涙がボタボタと零れ落ちた。
俺は一体何をしてるんだろう。あんな男の言いなりになって、口の中はあの男の精液の匂いで一杯だ。この子達がいるすぐ近くであんな汚い性器を舐めて、ケツに指を突っ込んで自慰をして見せ男を興奮させて、腹に二回も汚らわしい精液を納めて。俺は一体何をしてるんだ。これが木ノ葉か? あれが木ノ葉の上忍か? これが俺達木ノ葉の忍が命を懸けて守っている木ノ葉の姿なのか? 毎日ケツに突っ込まれることが? 毎日犯されるために自分でケツを解すことが?
「……イルカ、せんせ?」
「ん」
「先生どうしたの?」
「ん」
あんな屑、いずれ若い芽に、ミキや高尾達にコキ使われると良い。そうなれば良い。この子達はきっと強くなる。そしてあの屑の更に上にのしあがるに決まってるんだ。
だから。だからお前達は決してあんな大人には。
「ミキ、藤堂、大輔、アゲハ」
呼びかけると心配そうに俺を見上げる子供達が小さく頷いていく。
「お前達は絶対に強くなるよ。センスもあるし向上心は誰にも負けてない。いずれ上忍にだってなれるかもしれない。でも、もしそうなっても、誰よりも強くなっても、絶対に優しさは忘れちゃいけないぞ? 目下の者にも優しくないといけない。常に思いやりの心を持っていないといけない。それが、木ノ葉の忍なんだよ。それがこの里の、忍…なんだよ。お前たちは決して、決して…俺の心を、裏切ったりは、しないでくれ。俺の、ほ…誇れる…上忍になって……くれ」
生徒達の前だというのに、俺はみっともなくしゃくりあげた。声も裏返った。涙は次々に溢れて俺の顔をぐしゃぐしゃにし、怒りか悔しさかよく分からない感情で俺の拳はずっと震えていた。
「私、私は驕り高ぶったりしない! 大丈夫だよ、イルカ先生の誇りになれるような、立派な上忍になるよ! そりゃこの前は変なこと言っちゃったけど、私コムロウのこと…そりゃ悔しいけど、意地悪なんかしない! 私はそんな人間じゃないもの!」
「知ってる。知ってるよ。ミキは気は強いけど良い子だ」
「俺だって。俺だってイルカ先生の誇りになれるように頑張るよ?」
「ん、大輔は本当に優しい子」
「私も、イルカ先生の教え子であることを忘れたりしない」
「ん、アゲハも、良い子。藤堂も良い子」
抱き締めたかった。
俺を心配して、俺の誇りになると言い募るこの子達を、力一杯抱き締めたかった。
けれどこの腹の中にはあのクソッタレの、屑の、万死に値する汚らわしい男の精液があって、この肉体を激しく蝕んでいるようだった。内側から腐らせていくようだった。あの疫病にかかった瀕死の動物の糞のような精液が。
穢れている。俺の身体も。
「大好きだよ。みんな大好きだよ」
子供達を抱き締めたい。
以前のように、力一杯、笑顔で抱き締めたい。