カカシさんがにっこりと微笑んで俺を手招きする。
美しい人だと思う。そうして大人しくしていれば、銀色の髪もスラリと伸びた四肢も顔の作りも、どこもかしこも美しい人だとは思う。初めて素顔を見た時からずっとそう思っていた。何て綺麗な人なんだろうと。声も低くて色気があるし、その手も俺のように無骨な指じゃない。それなのに、この人の目だけは憎悪に満ちている。何もかもを燃やし尽くさんとする憎悪の炎が轟々と燃えている。
「どういうことですか?」
と、俺は訊ねる。分からない。綱手様の技量すら疑ってしまう。
「だから、術なんかじゃないって言ったじゃないの。アンタどんだけ馬鹿なの?」
それより、とカカシさんは手招きをする。
俺は動かない。
「そんなわけないんです。カカシさんは優しい人だ。貴方は一体誰なんですか。一体俺に何の恨みがあるんですか」
殺すなら早く殺せ。俺を殺せば必ず誰かがお前に疑いを持つだろう。今のやりとりがあったんだ。綱手様かあの暗部もお前を怪しむに決まっている。
「俺は俺。最初から正真正銘のはたけカカシだよ。イルカ先生がとても親しくしてくれた、はたけカカシ」
「嘘だ!」
「本当だよ。言ったじゃない。もっとマシな方法でヤろうと思ったけど、面倒くさくなっちゃったって」
カカシさんは薄ら笑みを浮かべながら立ち上がり、俺に近付く。
「もっとマシな方法でヤろうと思った、とはどういう意味だ」
「そのまんまだよ」
逃げたいと思うのに俺の身体は硬直し微動だにしなかった。カカシさんは俺に恐怖を与えんと一歩ずつゆっくりと近付く。近付く度に俺の身体はカカシさんの存在に怯え混乱し、絶対的な恐れとよく分からない怒りに震える。病室は静まり返り、カカシさんが近付く音だけが耳に付く。心臓が早鐘を打ち俺に危険を知らせる。だが、どうすることもできない。
悪夢のようだった。
「さ、服を脱いで」
その手が伸ばされ、俺の腕を掴んだ。
モットマシナ方法デヤロウト思ッタケド、面倒クサクナッタ。
本当に、そう言う意味なのか。本当にこの人はそれが目当てで俺に近付いたのか。俺の身体目当てで、こうして奴隷のように尽くさせようとして、毎晩玩具のように遊ぶ身体が欲しくて、俺に近付いたのか。
「なーに泣いてんの? さっさと服、脱ぎなさいよ」
オカシイと思ってたんだ。何でロクに接点もない中忍の俺に近付いたんだって、ずっと不審に思ってたんだ。それでも俺は信じた。アンタはシャイなんだろう、人見知りをするから友人も少なくて寂しかったんだろうって。だから一生懸命アンタを楽しませようと思って頑張った。一杯頑張った。アンタを理解しようと本当に努力した。そして、誰よりもアンタに近い存在になろうと思った。固い絆で結ばれた親友になろうと。
アンタが心を開ける、唯一無二の存在になろうと。
俺は、アンタを信頼して。そうやって、ずっとずっと、ずーーっと、アンタを信頼して頑張って、馬鹿みたいに玩具にされても耐えて、耐えて、これは本当のアンタじゃないって、だから我慢できたしアンタが戻って来るのを待っていられた。だって俺はアンタを信頼してたから。
信頼してたから。
アンタは俺の誇りだったから。
「裏切ったのか」
「裏切った? まぁ、そうだよね。今更なに言ってんの?」
「俺の信頼を裏切ったのか!」
掴まれた腕を振り払い、拳を握って殴りかかった。でも俺の拳は簡単に避けられて逆に腕を捻りあげられる。
涙が止まらない。涙で視界が歪み、俺の心も醜く歪んでいく。
この人が憎い。
俺の心を、絶対に、一番裏切って欲しくなかったこの心を、絶対に、一番裏切って欲しくない人が裏切った。信じてたのに。信じてたのに。信じていたのに!
「だから最初に言ったじゃないの。なに聞いてたの?」
身体を捻りながら飛び腕の拘束から逃れ、嘲笑うそいつに蹴りを入れようとした。でも俺の足が届く前に逆に蹴り飛ばされた。
壁にブチ当たって脳震盪が起きる。グラグラと揺れる視界の中で服が切り裂かれていく。
身体か。結局それか。
アンタは性欲を処理する身体が欲しかっただけか。いくら吐きだしても妊娠しない、多少無理をしても壊れない、遊び甲斐のある都合の良い身体が欲しかっただけか。そりゃ俺が憎くもなるだろうさ。あれだけ時間をかけても俺はアンタに惚れなかったんだからな。つまらなかっただろう、頭にきただろう、その顔が通用しないことが腹立たしかっただろう。
ざまあみやがれ!!
「なにその顔」
カカシさんは嗤いながら俺の身体に手を這わせる。俺はその手を払いのけ、また殴りかかる。抵抗する。暴れに暴れて抵抗する。何もかもが上忍様の思い通りになると思うな。俺を思い通りにさせられると思うな。アンタなんかに屈服してたまるか!
伸びてきた腕を両手で掴み寄せて思いっきり噛んでやった。殴られても殴られても抵抗した。他の者に危害を及ぼすと脅されても抵抗した。我慢ならなかった。俺を裏切った「はたけカカシ」が、我慢ならなかった。
それでも俺は犯された。いつものように。
ワイヤーで両手首を縛られ、後ろからケダモノに犯された。