カカシさんは俺の家で生活するようになり、毎日のように俺を犯した。
俺はアカデミーから帰ると即座に裸に剥かれて突っ込まれ、そして全裸のまま生活をさせられる。メシも俺が作り、洗濯も掃除も全部俺が行った。酒が欲しいと言われればすぐに買いに走り、性器を舐めろと言われれば口に含んでそれを舐めた。目の前で自慰をしてみせろと命令されれば屈辱に耐えてそれを行い、自分で指を挿れろと言われればその指示に従った。何もかもカカシさんの言う通りにし、どんな格好でもしてみせどんな言葉も口にした。
奴隷だ。正に、奴隷。
いや、玩具か。
カカシさんも任務があるはずなのに、家に帰ると必ずいる。そして俺を使って遊ぶ。あれをしろ、これをしろ。俺が余計な言葉を発するとすぐに機嫌が悪くなり、すかさず俺を殴り飛ばす。足で踏みつけられ、謝るまで徹底的に暴力を振るう。
こんなのカカシさんであるはずがないのに、綱手様に言う機会がない。早くどうにかせねばと思うのに、何せ俺にはそれが影分身なのか本体なのか分からない。あの人は常に俺を見張っているし、ことあるごとに俺を脅すのだ。子供の命が大事じゃないの? 同僚の命は? リョウって子の命は? サクラやナルトが可愛くないの?と。
俺からどんな情報を聞き出そうとしているのか分からなかった。幻術でもかけるのかと思いきやそれを行っている様子もないし、何かを訊き出そうとしている気配もまるでない。まるで俺をいたぶることが目的かのようだった。
長くアカデミー教師として働いている俺は里外に出ることが滅多にないし、若い頃に戦場に赴いたこともあるけれど大した働きもしていない。人を殺めたことはあるけれど、もしその恨みであるならば何故俺という人間に的を絞ることができるのだと疑問が付きまとう。戦場では誰がどんな敵を殺したのかなんて分からないのに。勿論ここまで恨まれるようなことなど里内の者にした覚えもない。カカシさんを乗っ取っている者の意図が分からない。何故俺なのか。そして何故俺を殺さず、何の情報も訊き出そうともせずこうしてダラダラと俺をいたぶるだけなのか。
敵の本体もカカシさんを乗っ取っている間は無防備になるはずだし、こんなに時間をかけることは非常に危険なことのはず。一体何がしたいのか。カカシさんを乗っ取ればもっと好き勝手に暴れることができるのに、それもせず。
そうだ、カカシさん。
考えてみればカカシさんを乗っ取った時点で敵は木ノ葉に関する重要な情報を得ることができているはずだ。それこそ今更中忍の俺の情報などどうでもよくなるほど。それにカカシさんを乗っ取ったならもっと自由に動いてこの里の中央に潜り込もうとするはず。俺の身体で遊んでいる間に影分身を出してそうしているのか? 日中は「はたけカカシ」として任務をこなし、俺の見張りもして夜は情報収集をしながら俺を犯して遊んでいる? それはいくらなんでも……チャクラを無用に使いすぎる。カカシさんの肉体も辛いし、精神に入っている敵もしんどくなるはず。
敵に目的などないのでは?
どこぞの抜け忍がカカシさんを乗っ取ることに成功し、カカシさんの身体を使って遊んでいるだけなのではないだろうか。それならば分かる。毎晩行われる馬鹿げたお遊びもそれに続く酷い強姦も、敵が戯れに行っているのであれば。
「今日からアヤメ先生は暫くお休みすることになりました」
上司の声にはっと顔を上げた。朝の会議中に考え事をしてしまった自分を戒め、頭を振って思考を切り替える。
「どうかなさったんですか?」
スズメ先生が訊ねる。
「怪我をなさって入院しておられます。左腕と肋骨を骨折なさったようです」
何があったんですかと誰かが訊いたけれど、上司は分からないと言った。こういう場合は詮索してはいけない。任務に関わることがほとんどだからだ。
しかしこれで少しは気が楽になった。アヤメ先生の名前はカカシさんの脅迫に頻繁に使われるが、病院は里の中でも特に警備が厳重なので、何か不穏なチャクラや気配があればすぐに暗部が駆けつけてくれるだろう。安全な場所なのでアヤメ先生にはできるだけ長く入院していて欲しいと思った。
その日は放課後に高尾に呼び出された。卒業試験及び下忍試験に関しての不満なら時間が立ち過ぎているし、アゲハのことなら高尾は人に、ましてや俺に相談などしないはずだ。いつものように淡々としている高尾にその他の相談事があるようには見えない。とにかく珍しいことがあると俺は高尾に付いて行った。
廊下の窓が開いていて、外から子供達の元気な声が聞こえた。久し振りに顔を出した太陽はまだ沈む気配はなく、梅雨が明ければもう夏がやってくることを人々に予告している。夏が来るんだ。間違いなく夏が待ち構えているんだ。それでも心は晴れない。夏が来る前に、今日も家に帰れば馬鹿げた行為が俺を待っているから。
「ここにしようか」
高尾が資料室の前で立ち止まった。てっきり空き教室でも使うのかと思っていたので俺は少々困惑する。資料室でも問題はないのだが、ここはたまに教師が訪れることがあるので俺は生徒の話を聴く時は空き教室を使うのが常だ。それは高尾も知っているはず。一瞬何か調べたいことがあって手伝って欲しいと言われるのかと思ったが、高尾に限ってそれはないなと思い直した。この子は何でも自分一人の手でやり遂げるということに強い拘りを持っているから、そういった類のことで他人の手を借りることは絶対にない。
「空き教室じゃないのか?」
「イルカ先生はそっちが良い?」
「どっちでも良いけど、落ち着いて話すんだったらその方が良いんじゃないかな」
高尾は頷いてまた歩き出す。俺はまたトボトボとその後を付いて行く。どんなの話があるのか分からないけれど、何となく高尾の後ろ姿が普段よりも大人びて見えた。
空き教室のドアを開けて中に入る。普段使われないそこは埃っぽいし、連日の雨のせいで空気が湿っていたので窓を開けるかどうか逡巡したが、結局そうしなかった。スイッチを入れるとパチンと音がして数度電燈が点滅し、薄暗い教室が少しだけ明るくなる。少し肌寒い気がした。
高尾が足を止めたので、俺は話を聴くために近くの椅子を引く。
そして椅子に腰を下ろした途端、高尾が言った。
「今日はここでしようよ」
意味が。
「今日はここでしよう。服、脱いで」
――泣くな、俺。
「……高尾…は?」
「心配しなくて良い。朝からずっと屋上で寝てる。それよりも早く服を脱いで」
冷えた高尾の瞳が揺らめき、そこからあの炎が現れる。俺を憎悪している激しい炎が轟々と燃え盛る。何故そこまで俺を憎んでいる? 俺が一体何をした? 殺したいなら殺せば良い。早く殺せば良い!
「アカデミーという神聖な場所で貴方は何をす――ッ!」
言いきる前に殴られた。口の端が切れて血の匂いが口内に広がり続いて胸倉を掴まれ締めあげられる。
「高尾の命はアンタが握ってる。意味、分かるね?」
高尾の口端がゆっくりと持ちあがる。それから高尾は俺を突き飛ばし、右足を大きく上げてそれを俺の腹に落した。
息が止まる。
腹を抱えて身体を縮めると背中を蹴りつけられる。ガツガツと背中に衝撃が走り、その度に俺は呻き声を上げる。髪を掴まれて顔を上げさせられ、そのまま壁に投げつけられた。
「殺せ! 俺が憎いなら俺を殺せ! それで手を引け!」
「ハァ? 何でアンタを殺さなくちゃなんないの? 中忍如きの命に何の意味があると思ってんの?」
高尾が印を結ぶと、そこに冷えた目をしたカカシさんが現れた。カカシさんは嗤う。いや、敵が嗤う。そして俺に近付き、俺の顔を力一杯足で踏む。ガツリと音が鳴って頭が揺れた。
「脱げって言ってんでしょ。早く服を脱いでよ。俺は今日、ここでしたい。その神聖なアカデミーとやらで」
高尾、殺しても言いわけ? そう続けられて俺は覚悟を決めた。
泣くな、俺。
高尾の命に比べれば、こんなことどうってことない。あの子はいずれこの里を背負う優秀な忍になる。それに比べ俺なんてただの中忍だ。ケツを差しだしてどうにかなるのなら、ヤってやろうじゃないか。泣くな俺。敵の拷問など、堪え切ってみせる。俺を見くびるな!
「あ。やば」
悔しさで震える腕を上げてベストに手をかけた時、カカシさんがそう呟いて天を仰いだ。そして。
「ざんねーん、今日はお預け。すぐに戻るからアンタは大人しく良い子でいなさいね。俺はいつでも見張ってるよ」
そう言い残してカカシさんは俺の前から消えた。