俺の顔を見た同僚の配慮により、当分受付は休むことになった。綱手様にとやかく言われるのが怖かったし、そもそも綱手様と接触すること自体回避したかったのでとても有難い。
 重い足取りで帰宅すると、当然のようにカカシさんがいた。俺にはそれが影分身なのか本体なのか分からない。
「おかえり」
 カカシさんはニッコリと笑って俺を手招きした。逆らうことは許されていない。
「良い子だったねぇ。誰にも俺のことを言わなかった」
 やっぱり見張っていたんだ。
「アンタが良い子にしてれば、誰にも手を出さない。アンタにも優しくしてあげる」
 よしよしと頭を撫でられる。でもカカシさんの目は俺を憎んでいる。行き場のない狭い密室で轟々と燃え盛る、何もかもを燃やし尽くしそうな激しい憎悪の炎がある。灼熱の憎悪が。
 脱いで、と言われたので俺は大人しく服を脱ぐ。良い子だねとカカシさんは笑う。うつ伏せになってお尻をあげてと、カカシさんは優しい声で言う。俺はその通りにする。優しい声を出すわりに、カカシさんは解しもせず俺のそこを性器で抉じ開けようとする。悲鳴は出せない。うるさいと殴られる。泣いてもいけない。カカシさんは怒る。出血するとそれで何とか滑りが良くなる。
 そんな一方的な性交は俺に苦痛しか齎さないしカカシさんにも痛みを与えるから、カカシさんはなかなか射精せず俺は長時間耐えなくてはならなかった。だからそれが目的なのではないかと思う。これはこうして俺を長く痛めつけるための拷問なのではないかと。カカシさんの精神を奪っている奴は汚らわしいほどのサディストなんだろう。気持ちの悪い人間だと吐き気がする。
 一度射精するとカカシさんは「ごはん作って」と言った。シャワーを浴びて良い許可は出ていないので、のろのろと服をかき集める。メシまで作らねばならないのかと苦笑しかけたところで、何の前触れもなく腹に目も眩むような衝撃がやってきて俺の身体は吹き飛んだ。
「誰が服を着て良いって言った?」
 壁にブチ当たると、冷めた声が落ちてくる。髪を掴まれたまま頬を張られた。ブチブチと音を立てて何本かの髪が抜ける。
「ねぇ? 誰が服を着て良いって言ったの?」
 カカシさんは、優しい人だ。
 本当は、とても優しい人だ。シャイなところがあって人見知りをしてしまうけれど、気遣いのできる思いやりのある人だ。そして俺は、そんなカカシさんと友人になった。時間をかけて、とても良い友人になった。
「すみません」
 全裸のままで台所に立つ。買い物などしていないからロクな食材はなかったが、あるもので何か作らなくてはならない。米を研いで炊飯器のスイッチを入れ、冷蔵庫の中からしなびた野菜を取り出してまな板を濡らし、それを包丁で刻む。鍋に湯を沸かして出汁を作る。
 背後から気色の悪い視線を感じながら、俺はメシの支度をする。おぞましい。おぞましい。おぞましい。全身を穢れた軟体動物が這っているかのような視線がおぞましい。
 全身に鳥肌が立ち、カカシさんを殴りたくなる衝動に駆られても俺は歯を食いしばってそれに耐えた。生理的な悪寒を懸命にやり過ごしながら料理を続けていると、ふと尻からドロリとしたものが流れ出る。気持ち悪い。何もかもが気持ち悪い。
 カカシさんの視線がそこに釘付けになっているのが分かる。糸を引くような粘っこい視線が、精液を垂れ流す俺の尻に注がれているのが分かる。
 そこをでろでろと舐められているようだった。
 カカシさんが近付く。そして俺の肩に顎を乗せ、尻にぬるりと指を宛がった。
―っ」
 散々突っ込まれてたソコは簡単に指の挿入を許した。細く長い指が中を味わうように進んでいく。
「……やめ」
「続けなさいよ。料理」
 嗤っている。俺の尻から溢れた自分の精液を見て悦に浸り、そこを指で弄んで嗤っている。
 指を折り曲げられる。ぐちゅりと音がし、隙間からまた精液が漏れた。いたぶられた内部は炎症を起こして熱を持っているのに対し、カカシさんの指は馬鹿みたいに冷たい。だから余計にその指がどう蠢いているのかはっきりと分かる。
 指が反転する。何かを探すようにそれは動き回る。
「続けなさいって言ってるでしょ?」
 威圧的なその声に俺は従うしかない。尻を弄られながら料理を続ける。泣いたって仕方ない。カカシさんを乗っ取っているこのド腐れ変態の言うがままになるしかない。俺の屈辱くらい何だ。子供達の命に比べればこんなもの簡単に捨てられるんだ。俺は、俺の生徒達を想う気持ちがこんなものに負けるわけないんだ。
 尻を弄られる。指がうねうねと中を這いまわる。
 そしてその冷たい指が不意にある一点を掠めた時、俺の身体は反射的にびくりと震えた。
―アッ」
「みーつけた」
 カカシさんの楽しそうな声に身体が慄く。そこがどういう反応を齎すのか知識では知っている。そして、そこをカカシさんに知られた。だからこの後どうなるかも予想が付く。泣きたくなる。
「止…めてくだ……」
「続けろって言ってんでしょ、メシの支度」
 そこを強く押されて両手をシンクの縁に突いた。そこから湧き出る射精感に顔が歪む。でもカカシさんはそこばかりを責め立てる。指で擦って、押して、撫でて、指を震わせて刺激してくる。逃げるように腰を振っても指は離れない。それどころか俺の反応を喜ぶように更に指で掻き回す。
 下腹部から熱が広がる。
「何? お尻を弄られて感じちゃってるの?」
 クスクスと意地の悪い笑い声が耳に届く。カカシさんを乗っ取っている者が俺の反応に気を良くしているのが悔しくて、俺は包丁を握った。この包丁で刺してやりたい。でも肉体はカカシさんのもので、敵のものじゃない。もし敵のものだったら、絶対に殺してやるのに。泣き喚くまで痛めつけて殺してやるのに。このクソみたいな最低野郎を徹底的に痛めつけてその息の根を止めてやるのに。抗議の声を上げる代わりに包丁で野菜を刻む。馬鹿みたいだ。俺は、馬鹿みたいだ。
 指が増やされ圧迫感が増した。太腿の内側がぶるりと震える。俺の身体は俺を裏切り、もっと強い刺激を欲しがっている。もっと直接的で射精に繋がる刺激を。
「…んっ……ん…」
 熱が全身に広がり、足から力が抜けそうになる。身体を支えるためにまたシンクの縁に両手を突いた。
「もっと弄ってあげるから、お尻を突き出して」
 耳元で囁かれるその声は本当のカカシさんのように甘く優しく俺を誘う。そして俺の身体は強請るように尻を突きだす。とにかく、とにかくどうにかして欲しかった。そこばかりを責められてもう苦しい。息が上がってきている。それに俺が射精してこの人も射精すれば終わる。この屈辱的な姿勢からもこの馬鹿げた行為からも解放される。
 指が蠢く度に俺の身体が否応なしに反応する。情けないくらい声も漏れる。卑猥な音を立てながらそこを責める指が疎ましくも、それによって与えられるじっとりとした快感に負ける。
 カカシさんは長い時間をかけて俺を弄んだ。全身が汗ばんで足が震え、性器も勃ち上がり、我慢できずに催促するように再度尻を突き出しても射精に導くようなことはしてくれなかった。呼吸が乱れ、己の情けなさに何もかもが嫌になる。とにかく射精したい。何でも良いから早くこの馬鹿げた行為を終わらせたい。
 唇を噛んで自分の性器に触れようとすると、すかさずその手を掴まれた。
「誰が触って良いって言った?」
 嗤っている。カカシさんは俺を見て嗤っている。可笑しそうにクスクスと。
 それから指を抜いて俺の尻に性器を宛がう。これでこの人が射精すればもう終わるんだと、俺は無用な力を抜いてそれを待った。
 指とは比べ物にならない質量を持ったものが入ってくる。裂けて出血した箇所がまた痛み出す。けれどもうそんなことどうでも良い。早く終わって欲しい。そして、射精したい。
 根元まで挿れるとカカシさんは俺の腰を両手で持ち、ガツガツと犯し始める。性器は長く、太く、凶悪に俺の中を掻き乱す。何度も何度も繰り返し、それは俺の中で暴れ回る。
 圧迫感と苦痛で身体の熱が引く前に後ろから手が伸びてきて、その手が俺の性器を掴んだ。
「イかせてあげようか?」
 クスクスと嗤いながらカカシさんは性器を扱く。
「ア…っ」
 待ちわびた直接的な快感に、声が漏れた。カカシさんがまた嗤う。そして乱暴なくらい強く俺の性器を扱く。弄られまくった尻の中の一点が呼応するかのようにまたジンジンと熱を持ち、そこを性器で抉られる度に俺の意思とは無関係に俺の身体がくねる。早く、早く射精したい。頭の中がそれで一杯になる。もうどうだって良い。
 性器の先端を指で押され、身体が引き攣った。締まった尻の中で一点を強く抉られる。
―ああ!」
 身体中の神経が性器に集まり、そこから熱が放出された。その間もガツガツと俺は犯され、次にカカシさんが射精する。尻の中に、熱い精液が飛び散っては腸内にへばりつくのが分かるようだった。
 射精すると途端に嫌悪感で死にたくなる。
 何だこれは、この行為は。クソッタレなこの行為は。
「やっと、まともなセックスができた、ねー」
 息を切らしてそう言うカカシさんを殴りつけてやりたい衝動に駆られる。
 まとも?
 この変態じみた惨めなセックスがまとも?
 泣きたくなる。




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