「あー、やっと繋がった」
 大好きなカカシさんの声がした。
 俺はこの声が好きだった。カカシさんの声って本当に格好良いんだよね。低くて艶があってどこか色っぽいのに、人を安心させる強さみたいなものも持ってるの。俺はこの声で「イルカ」って呼ばれるのが大好き。
「イルカ」
 そう、そんなふうに呼ばれるのが大好き。キスしてもらって、ぎゅっとしてもらうのも好き。
 そう、そんなふうにね、うん。キスしてもらってぎゅっとしてもらうのが好きなの。俺、カカシさんのこと大好きだからさ。世界で一番好き。誰よりも誰よりも、俺はカカシさんのことが好きなの。泣いちゃうくらい好きなんだ。あんまりこの人のことが好きすぎて、この人のことしか考えられない「カカシ病」になったんじゃないかって思うくらいだよ。まさしく、お医者様にも治せぬ病気だな。アハハ。
「泣かないのー。おめめが溶けちゃうよー」
 だって好きで好きでしょうがない。
 愛してるんだ。
「おいイルカ、好い加減目ぇ覚ませや」
 それまで夢心地だったのにアスマ兄ィの声まではっきり聞こえたから思わずパチクリと目を開けると、そこには俺の顔を覗き込んでいるカカシさんとアスマ兄ィがいた。その向こうにはどこまでもどこまでも広がる青い空があり、視界の端には綺麗な花が見えて草原の匂いもする。どうやら俺は夢の中にいるらしい。そういやヤマブシん家で飲んでそのまま眠っちゃったんだっけ。
「カカシさん……」
 んー、と甘えた声を出しながら腕を伸ばすとカカシさんがすかさず抱き寄せてくれる。
「ん、寂しかったねぇ。イルカは寂しがり屋の甘えん坊なのに、こんなことになっちゃったもんねぇ」
 おでこやほっぺに大好きな人がキスの雨を降らせてくれるから、嬉しくてうっとりした。これはなんて良い夢なんだろう。こんな素晴らしい夢は見たことない。
「カカシさん、好き。好き」
「ん。俺もイルカが好き。大好きだよ」
 嬉しい。泣いちゃうくらい嬉しい。天にも昇るようだ……ってこれはもしかして天国? あ、俺、もしかしてヤマブシの腐海に飲まれて死んじゃったとか? それならそれで良いや。
「ところでイルカぁ。ミズキやナツは無事で、どうして俺はここに飛ばされたんだぁ?」
 アスマ兄ィのごもっともな質問を寄越した。まぁそれは俺もずっと謎に思ってたんだけど、多分。
「分かんないけど、多分うっかり。ついで、みたいな?」
「ついでだぁ?」
 すんませんほんとすんません。俺、アスマ兄ィのこと大好きなんだけど、こう、なんか。
 本当のことを言うと、ミズキやナツ達が向こう側に残ってるのはそれなりの理由があると思う。ホムラ様やコハル様、それにダンゾウ様は俺はあんまり知らない人だからノータッチで納得できるけど、ナツ達は恐らく……俺なりの当て擦りだったんじゃないかな。俺はお前達のせいでこんなに傷付いた。全部なかったことにしちゃったくらい傷付いたってことを、知って欲しかったんじゃないかな。アスマ兄ィは俺の心情的に「消したい人間」でもなければ「当て擦りしたい人間」でもなかったから、こう、何て言うか、まぁ。
 こっちで良いや! みたいな! あは。
 って、それより「こっち」ってなんだ? ここ、どこ? やっぱ天国なの?
「しかし時間がかかったな。親父がいたから何とかなったけど、俺達だけじゃどうにもならなかったぜ、こりゃあ」
「だーね。こっちに三代目、それから向こうにヤマブシがいたから何とかなったけど」
 ……三代目? ヤマブシ?
 何の話をしてるんだ? つか、ヤマブシ?
 一体何の話をしているんだとカカシさんの首に両腕を引っ掛けて身体を起こすと、漸くこの天国の全体像が見えた。
 空はどこまでも続く青い空…は、さっき言ったな。そんでここは草原でその中央付近に古そうな建築物が幾つか見えて、草原を取り囲んでるのは真っ白な雲。もくもくと流れている雲。こういうの、どこかで見たことあるなぁと思っていると、向こうの古い建物の傍に誰かいるのに気付いた。
 目を凝らせば、それはヤマブシと三代目だ。
「やっぱ天国か! 俺、ヤマブシの腐海に飲まれて死んじゃったんだ!」
「いや、天国ってわけじゃねぇんだな、これがよ」
 アスマ兄ィの言葉にカカシさんもニッコリと微笑んだ。
「ここはね、イルカが作った結界の中みたいなんだ。俺とアスマ、それから三代目の魂はここに閉じ込められていたんだよ」
 ちょっと待てちょっと待て、これは夢でもなけりゃ天国でもないと言うのかカカシさんはそう言うのか、じゃあこれは……現実世界?
 混乱する俺を抱っこして、カカシさんは草原を歩く。そして草原を取り囲む雲の前まで行くと、「下を見てごらん」って言った。下とはなんぞや、草を見てなんかあるんかいなと思ったけど促されるまま下に視線を遣ると。
「あんぎゃあああああああああああっ!」
 悲鳴を上げてカカシさんにしがみつくと、カカシさんがクスクスと笑いながら雲に身体を傾かせた。
「おち、おち、おちおちおち、落ちる!」
「落ちないよ。いっそ落ちて下に戻りたかったんだけどここはイルカの結界に守られて、外に出られないようになってるの」
 雲は確かにぽわわんとカカシさんの身体を支え、幾ら身体を傾けてもカカシさんとカカシさんに抱っこされている俺は下に落ちるようなことはなかった。
 下。
 そうなのだ。流れる雲の隙間から見えるのは、正に朝日に照らされる木ノ葉の里!
「ラピュタだ! ラピュタは本当にあったんだ!」
「あったって言うか、イルカが作っちゃったんだけどね」
「俺?」
 戸惑う俺に、カカシさんはおでこをコツンと当てる。
「そう。イルカはね、俺達三人をここに閉じ込めたの。この空間は特殊な結界が張られていて俺とアスマは戻りたくても戻れないし、三代目の魂なんてあの世から強引にここに呼び寄せられたみたいだし、俺達は凄く困ったよ。イルカは寂しがり屋の甘えん坊だからとっても心配したしね。でも、三代目が結界を通してヤマブシに接触することができたんだ。ヤマブシって物凄く特殊な結界を作るらしいね? 三代目曰く、アイツは宇宙の真理が見えてるんじゃないか、だって」
「アイツに宇宙の真理が見えたら、宇宙の真理ってものの立場がなくなっちゃうと思う」
 宇宙の真理ってヤツに代わり、俺が真剣に抗議しておいてやった。だってヤマブシはエロゲとリムリム姫大好きなだけであとはなーんにも考えてないし、任務だって腹痛って嘘ついてサボるし、風呂には入らないし歯もあんまり磨かない。そりゃ結界に関しては凄い腕持ってるみたいだけど、宇宙の真理とやらは見えてない。見えてたら困る。宇宙が!
「うん、そうかもね。でもヤマブシは結界を使って時空どころか人が持つカオスの部分を繋げたり外したりできるみたい。そこに三代目が目を付けて結界を通してヤマブシの精神に語りかけてたんだ。ま、ヤマブシはずっとそれを夢だと思ってたみたいだけどね。今日はたまたまイルカがヤマブシの結界の中で眠ってくれたからイルカのカオスにも三代目がアクセスできて、それでこうしてここに」
「おはなし、ちょっと、むつかしいかもしれない」
「ん、ちょっとイルカには難しい話かもしれないね」
 カカシさんが少し笑って俺の頬にちゅっとキスをする。一緒に楽しく暮らしていた時みたいに、ちゅっちゅって。
「三代目は?」
「イルカが作ったこの結界をどう解除するか、ヤマブシと話しあってるみたい。相当高度で複雑な話だから、俺もよく分からなかったよ」
 そっか。そうだよな。ここは俺が作ったらしいけど、どうやって作ったのか自分でも皆目見当がつかない。俺の気紛れ能力の解除を待つより、ヤマブシにやってもらった方が早い。
「ちょっと待って。ってことは、ヤマブシって毎晩ここに来てた?」
「来てたよ。いくら説得しても『オウフ、夢の中! リムリム姫を探すでござる。うは!』としか言わなかったけど。それどころかアイツ、今もまだ夢の中だと思ってるよ。三代目がリムリム姫を探すゲームをしようって持ちかけて、上手く騙しながら結界解除に話を持っていってるだけだもん」
 役立たずなのか凄い奴なのかイマイチ分からない男、ヤマブシ。流石だぜ。揺るぎねぇぜ!
 カカシさんはもう一度俺のおでこにコツンと自分のおでこを当てた。顔が近くなるとカカシさんに抱っこされている今の状況を初めて意識して、心臓がドキドキする。見詰め合うのが恥ずかしくて瞼を伏せると、カカシさんはぎゅっと抱きしめてくれた。
 カカシさんの匂いがする。
 カカシさんが好き。泣いてしまうくらい好き。
「あ、まーたイルカは泣く。そのうち溶けたイルカのおめめを食べちゃうぞー」
 食べてもらえるなら本望だ。そうしてくれたら俺はカカシさんの一部となって、この素敵すぎる人のために白血球とか赤血球とかそういうのを沢山作ってあげるんだ。そうしてちょっとでもこの人の役に立つんだ。
「カカシさんが好き。好きです」
「ん。俺もイルカが好き」
「好き。本当に好き」
「俺もイルカが本当に好き」
「でも、貴方は俺の恋人だったわけじゃなくって、恋人役だったんでしょう? 里から言い渡された、S級任務だったんでしょう? 俺を……監視するために、近付いたんでしょう? 俺が、変なものを、空から降らせないように!」
 それはカカシさんのせいじゃないって分かってるのに、俺は泣きながらそう詰った。泣きすぎて言葉は詰まるしヒックヒックってなるし、詰ってると感情が昂ぶって声は裏返るし、みっともないって分かってるのに「こうなったらヤケクソだ!」って思って、最後には声を上げて泣いた。
 だって俺は悲しかった。
 言葉になんかできないくらい、こころなんてなくなってしまえば良いって思うくらい、絶望的に悲しかった。
「イルカ、そのことだけどさ」
 カカシさんはその場に腰を下ろして俺を膝の上に乗せる。それから俺の背中を優しく撫でながら、とても真剣な声で言った。
「イルカは、どうだったの?」
「何が? 俺はカカシさんが運命の王子様だって本気で信じてた。カカシさんは俺が好きなんだ、俺にメロメロなんだって思って、馬鹿みたいに浮かれたよ! 知ってるだろ! 実際は俺だけがカカシさんにメロメロになってただけなのに!」
 悔しくって拳を握ってそれをカカシさんの胸に叩きつけてやった。でもそうしたらもっと悔しくなって、何度も何度も叩きつけてやった。
 愛してるのに。
 俺は本当に貴方のことを愛してるのに!
「違う、そのことじゃなくってさ。イルカ、自分の時はどうだった?」
 カカシさんは俺に殴られても怒りもせずに、やっぱり真剣な声でそう問う。
「自分の時って? 俺は誰かの恋人役なんてやったことない!」
「ナルトの時だよ。イルカは最初、監視役としてナルトに接触したでしょう?」
 ナルト?
 俺の大好きなナルト。九尾が腹にいるからってみんなから疎まれて憎まれていたナルト。孤独だったナルト。みんなの気を引きたくて悪戯ばっかりしてたけど、でも本当は心根の優しい良い子のナルト。一緒に一楽でラーメンばっか食べてた。
 俺の大切なナルト。
「ただの監視役だった? イルカはずっと、本当の愛情をナルトに向けなかった?」
「そんなわけない! 俺のナルトに向ける愛情ったらそりゃ半端なくて、ナツとかにも『おいイルカ、お前好い加減にそのナルト贔屓止めろよな』なんて言われるくらいのナルト馬鹿で、マジで俺、ナルトのことになると目がないっていうかもう何ていうか、とにかくナルトだいすき!」
「ほらごらん」
 カカシさんはとても可笑しそうに笑ったけど、俺にはその「ほらごらん」の意味が分からなかった。
 ポカンとしてるとカカシさんが俺の目にキスをしてくれる。魔法のキスだ。これをされると俺の涙はピタっと止まっちゃうんだ。
「どうやって出会ったにせよ、好きになる時は好きになる。愛しちゃう時は愛しちゃうんだ。最初は里からの依頼だったことは認めるけど、すぐにイルカのことが本当に好きになった。こんなに可愛くて愛しい人はいないって心の底から思うようになったんだ。何度も言ったでしょう? 好きって。それは全部俺の本当の気持ちだったよ。全部本当の心だったよ」
 じゃあ。じゃあ、もしかして。
 そりゃ出会いは仕組まれたものだったとしても。
 いやその仕組まれた出会いすら含めて。
「じゃあ、カカシさんは本当に、俺の運命の王子様?」
「勿論。イルカは俺の運命の天使だよー」
 なんてこった。
 なんてこった。
 なんてこった!
「これぞ奇跡! 俺はカカシさん大好き! あいしてる! らヴ! 百万回言うけど大好き! もう駄目もう駄目俺しあわせすぎてどうにかなりそうもう駄目もう駄目大好き! きゃーーーー!  うがーーーー! キスーーー! キスしろおおおお!!」
「暴れないのー。キスできないよー」
 駄目だ俺もう駄目、幸せすぎて頭が変になりそう。馬鹿じゃないの俺、なんでカカシさんを信じきらなかったんだ? マジ、馬鹿じゃね? ああそうとも馬鹿だとも! いやでも良いの、馬鹿でも良いの。そうそう、良いとも、馬鹿ばんざーい! うみのイルカここに死す。バタリ。死因幸福すぎ。うは! いや、ちょ、ホントどうしよう! きゃーーー!
「カカシさん好き! 好き! もっとキス!」
「はいはい」
 カカシさんはクスクスと笑いながら俺にキスをしてくれる。鼻先にもおでこにも瞼にも頬にも、勿論唇にも。たくさんたくさんキスしてくれる。ぎゅってしてくれるし髪も撫でてくれるし、ペロペロ舐めてくれる。「好きだよ」って囁いてくれるし「愛しいよ」とも言ってくれるし、それに「イルカ」って何度も何度も俺の名前を呼んでくれる。
 どうしようまた泣けてきた。くそ、こんなに俺を好きにさせやがって。覚えてろ!
「俺をメロンメロンにしたように、俺もカカシさんをメロメロにしてやるからな!」
「これ以上俺をメロメロにしてどうするつもり?」
 なんという素敵で無敵な殺し文句!
 でも俺なんかメロンパンナのイルカって呼ばれても良いくらいなんだからな。だからカカシさんも、メロンパンナのカカシって呼ばれるくらい俺にメロンメロンのメロンパンナちゃんにするんだからな!
「イルカー、そろそろ結界解除できるみたいだぞー。親父に挨拶しとけー」
 アスマ兄ィの声に我に返った。
 そうだ、三代目!
 でも何て言えば良いんだろう、何を言えば良いんだろうって思って躊躇っていると、「行っておいで」カカシさんが優しく背中を押してくれる。そうだな、とにかく行かなくちゃ。あの時は急で別れの挨拶もできなかったんだから、今度こそちゃんと。
 広々とした草原を歩いていると三代目と過ごした日々が脳裏を過る。
 三代目はとにかく俺を可愛がってくれた。父ちゃんと母ちゃんがお星様になって寂しかったけど、三代目がいてくれたから俺はこうして元気に育ったんだ。毎年誕生日を祝ってくれたし、猿飛の家のクリスマスパーティーにも呼んでくれた。釣りに連れて行ってくれたこともあるし、一緒にお風呂に入って百まで数えたし、すき焼きだって食べさせてくれた。トランプだって花札だってしりとりだって数えきれないくらいやった。
 寂しがり屋で甘ったれな俺の傍に、三代目はいつもいてくれた。
「イルカ」
 呼びかける三代目の前に立つと、本当に三代目は死んじゃったんだってハッキリと理解した。だって三代目の姿は、ほとんど透明に近かった。
「イルカよ、わしを恨んでおるか?」
 恨んでる?
 恨んでる……わけがない。 
 こんなに、こんなに愛してくれた人を、恨んだりするわけがない。だって俺とカカシさんが愛し合っちゃったように、俺と三代目も大好き同士だったんだ。たとえ三代目が俺に近付いた最初の理由がなんにせよ、三代目が俺を大好きだったことなんて俺が一番よく知ってるんだ。
「三代目、だいすき」
 腕を伸ばしてその身体に抱きつきたかったけど、三代目の身体には触れることができなかった。
 けれど俺は、父ちゃんと母ちゃんがくれたのと同じくらい深い愛情に満ちた視線を受けることができた。
「わしも、イルカが大好きじゃよ」
「知ってる」
「カカシと仲良く暮らすのじゃよ?」
「勿論!」
「すき焼きの肉は逃げん。慌てて喰うでないぞ?」
「それは約束できないかも……」
「明日のアズキのテストは古代イテラン文字と古代忍文字を使った複合換字式暗号じゃ。相当難しいから赤点は覚悟しておくのじゃぞ?」
「ちょ、なんで知ってんだ!」
「それから、いつも健やかにあれ」
 三代目はそう言ってにっこりと笑った。三代目個人の人生の重みと、人の命と様々な業を背負い続けてきた里長としての重みが深い皺となってその顔に刻まれる。
 けれどそれは、とてもあたたかい笑顔だった。
「三代目、大好き」
 俺はもう一度、真心を込めてそう告げた。




 目覚めと同時に飛び起きて「グースカ」と言うよりも「ぐおおお! りむりむー」っと鼾のようなものをかいているヤマブシの太っちょな身体を乗り越え外に出た。目覚めてから外に出るまでの時間はおよそ一秒半。いや、分かんないけどそんくらい早かったの!
 とにかく外に出て屋根に上ると、朝陽を浴びた清々しい里を一望した。そして。
「よっしゃ、戻ったああああああああああ!」
 火影岩を見て俺は叫ぶ。
 それからドキドキしながら空を見上げていると、まずアスマ兄ィが落ちてきた。「うおおお、死ぬぅううう!」とか叫んでたけど風遁を使って上手く落下速度を緩めていたし、ドカーン!ってアスマ兄ィの家の屋根に落っこちちゃってたけどまぁあのくらいなら大丈夫だろう。
 それよりカカシさんだ。
 心臓がドキドキする。手に汗もかいてる。でも俺は笑顔でカカシさんが空から降ってくるのを待つ。
 あれは……鳥だった。残念。あれは……違った、目の錯覚。
 あれは? キラキラ光ってるよ、銀色だよ。
 銀色だよ!
 ああ、来た!
 降って来てくれた。ラピュタ風に言えば、「親方、空から俺の運命の王子様が!」ってところ!
「カカシさん!」
 俺は手を振ってカカシさんを呼ぶ。
「カカシさん!」
 くっそー、また涙が出てきたぞ。俺はどんだけ泣き虫なんだ。
「カカシさん、愛してる!」
 アスマ兄ィよりスマートに風遁を使って実に格好良くヒラリと俺の前に舞い降りると、カカシさんは俺を抱き締め、これでもか!ってくらい濃厚なキスをしてくれた。
 俺は目を閉じカカシさんの濃厚なキスを受ける。
 愛してる愛してる愛してる。こころから、愛してる。
 ああ、こころを失くさないで良かった。こんなにカカシさんを愛せるし、こんなにカカシさんから愛してもらえる。こんなにしあわせを感じることができる。どんなに辛くっても、こころを失くさないで本当に良かった。
 今、俺が感じているしあわせをできるだけ多くのいきものに分けてあげたい。生きているものだけじゃなくって、生きてないものにも分けてあげたい。少しでもみんながしあわせになれるように、少しでもみんなが優しい心でいられるように。
 今、世界の幸福を祈りたい。
 今、世界に感謝したい。
 今、世界を祝福したい。
 
「イルカ、愛してる」
 カカシさんの声に目を開けてそれに応えようとした俺の目に映ったものは、俺の運命の王子様のとっても優しい微笑み。
 それから、空から次々と舞い降る色とりどりの花だった。




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