「イルカー、おはよー」
「ナツ、おはよう、おはよう、そしてまた、おはよう!」
 一日の始まりは清々しい挨拶からに相違ないよねそうだよね。俺ってばもう断然朝の挨拶派! おはよう世界! おはよう、おはよう、おはよう! なんだなんだ、みんな元気だな! おはよう、全ての生きとし生けるもの! 生きてないものもおはよう!
「今朝さー、木ノ葉全域にハチミツが降って来たって話、知ってるかぁ?」
 おっとそう言えばアカデミーに出勤する時、妙に足元がネバネバ……ってそんなことあるか! あれは多分、サンダルの裏にガムでもひっついてたんだな。
「聞いた聞いた。ついでにレモンも降って来ればレモネードが作れるのにな! 元気溌剌レモネードC! うわ、俺ふっる! 古いけど良い。そこが良い。うみのイルカ参上! トウ!」
「何だよイルカ、よっぽど良いことあったんだな?」
 それは愚問だぞ、ナツ。愚問と書いて愚かな問い。人の為の善と書いて偽善。キハムダと書いて松田! おはよう全国の松田諸君!
「良いことって言うか何て言うか。まぁちょっと言い難いことなんだけど聞いてくれるか? 実は昨日俺とカカシさんはついに」
「いや、言い難いことなら言わんで良いし、あんま聞きたくねぇな」
「もう何ての? 俺とカカシさんは何ての? うっはーー! 待て待てナツ。慌てるな。まだ慌てるような時間じゃないぜ?」
「慌ててないし、別に聞きたくないぞ。あ、俺このプリント作っちまわないと」
「カカシさんと俺は遂にだな。ひゃっはー! そう、あえて言うならカカシさんは俺をイルカと呼び捨てするようになったと。まぁ聡いお前ならそれで全てを分かってくれるだろう。分かったからみなまで言うな、みたいなな。でもみなまで言っちゃうぜ? 俺は全部ゲロっちゃうぜ?」
「分かったからみなまで言うな。うん」
 つれないな、ナツ。でもお前に彼女ができたら俺はお前の惚気を一から百二十まで全部聞いてやんよ! だから俺の惚気を聞いてくれよ! あ、でも全部喋ってナツがもし「やだ、カカシさんってそこまで素敵なの? 俺も抱いて欲しいかも……キュンキュン」とかなったら困るな! 大いに困るな! 駄目だ駄目だ。ナツよ、カカシさんは俺の運命の王子様。お前には絶対に渡さないぜ。
「カカシさんは俺のだぞ! そんで俺はカカシさんのなの。昨日言われた!」
「良かったなーイルカぁー」
 もう何て言うか。昨日は凄かった。
 ……。
 きゃーー! ばか! 俺のばか! うみのイルカよ、アカデミーでそんな破廉恥なこと思い浮かべるんじゃありません!
 いやでも凄かったから、昨日。アレが本当のセックスなのね。今までやってきたことはお遊戯みたいなものだったのね? みたいなー。三代目。俺、ひとつ大人になりました。うっは!
 しかしカカシさんは凄いなぁ。もう俺、女の子みたいな声出してたもんね。しかも途中から自分が何を叫んでたか分かんないもんね。白いのなんか出しまくっちゃって、最後ら辺は白いのじゃなくて透明になっちゃってたもんね。キモチ良すぎてわんわん泣いちゃったもんね! それにカカシさんもいっぱい白いの出してくれたし。うはは!
 カカシさんがあそこをずっとやってくれたもんだから、俺はメロメロのとろんとろんになっちゃったしさ。あの人ってマジで魔法使いなんじゃねぇ?
「メロメロだ。俺はカカシさんにメロンメロンだ!」
「はい予鈴鳴りました。教室へ行きましょう」
「これからはメロンパンナのイルカと呼んでくれ!」
「分かったから教室行け! このばか!」
 天にも昇るような気持ちでスキップしながら教室に駆けて行くと、今日も上からコツンと何かが落ちて来た。拾ってみればそれはコショウだった。何故コショウ! 俺の生徒は意味不明!
「おはよう諸君、やぁおはよう。もひとつおまけにやぁおはよう! がはは!」
「イルカせんせー、今日空からハチミツが降って来たって話、知ってるー?」
 知ってる知ってると返事をしながら元気に出席を取る。出席が終わると今日は体術の授業だ。今日は俺が先生役をできるぞ! アズキやコムロウのむつかしい授業を受けなくて済むぞ!
 そうやって俺は元気に生徒達と時間を過ごし、「きょうのうみのくんのにってい」を全部終えるとカカシさんのマンションに戻って、またいっぱい可愛がってもらった。

「イルカー、おはよー」
「やぁ、おはようございます。ああ、世界って美しいですよね。今の俺はあわよくば悟りを開いちゃうかもしれない感じ」
 一日の始まりは清々しい挨拶からに相違ないことに気付いていることからしても、俺が悟りを開くのは時間の問題。くそ、俺は更なる進化を遂げてしてしまうのか。愛、おそるべし! カカシさんらヴ。
「今朝からさー、木ノ葉全域に薔薇の匂いが漂ってるって、知ってるかぁ?」
 え、そうなの? 今って薔薇の季節なの? それともどこかのくノ一が、薔薇の香水を木ノ葉全域に振り撒きながら練り歩いたの? 何でも良いけど問題ないじゃないか。ああ、俺は問題ないね。むしろ俺の気分にぴったりですわ。オホホ!
「聞いた聞いた。木ノ葉の里は今日から薔薇の里だ。優雅だね、気品があるね、おほほほほ。一句詠んでみました。かしこ」
 はい、今日も鞄を置いてナツの与太話に付き合って、教室行って上からミカンジュースが落ちてきてアズキとコムロウに叱られて、アカデミーが終わると復興お手伝いしてそれも終わったらカカシさんのマンションに帰って。
 カカシさん大好き。大好き!
 今日もたんまり愛してもらいました。まる!

「イルカー、おはよー」
「ナツ、おはよう! 今日も一日爽やかな一日が始まりましたね。希望の朝です。新しい朝ですねこれは。おお、新しい朝! おお!」
 一日の始まりは清々しい挨拶からに相違ないんだぜ? 希望の朝なんだぜ?
「今朝さー、木ノ葉全域の花という花が全部咲いてるって話、知ってるかぁ?」
 花だってちょっと季節が違う時に咲いてみたくなる時があるってもんよ。あたし、遅咲きガールなの。みたいな気分になる時だってあるってもんよ。俺なんてつい最近まで人生待機中だったんだぜ? 花の気紛れくらい許してやろうよ。がはは!
「聞いた聞いた。全木ノ葉お花会議ってのがあってな、ちょっとしたサプライズよ、サプライズ。サプライズパーチーよ」
 今日も今日とてナツの与太話に付き合って、教室行ったら上から花束が降ってきて、授業してお手伝いしてカカシさんのマンション帰って。
 ああもう、何でこんなしあわせなんだろう。
 カカシさんが好き。カカシさん大好き。カッコイイし優しいし、非の打ちどころもないくらい完璧な俺の運命の王子様。
 そんな王子様がこんなに愛してくれる。
 泣けるくらいしあわせ。

「イルカー、おはよー」
「ナツ、俺は幸せだよ。こんな幸せなことってあるんだろうか。夢だったらどうしよう。そしておはよう」
 一日の始まりは清々しい挨拶と己の幸福を噛み締めることから始まるのだな。うん。
「今日さー、木ノ葉をまたぐような虹が七個もあるんだけど、知ってるかぁ?」
 珍しく与太話じゃない!
「見た見た! あれすっげーよな! 俺感動した!」
「俺も感動したけど……なんか変じゃね? どうしてあの虹、消えねぇんだ?」
 ナツの奴、意外と細かいな。虹だってな、消えたくない気分の時だってあらーな。察してやれよそういうの色々とさ。俺は察するよ? あの虹さんとあっちの虹さんは愛し合っちゃってるんだな、だから消えたくないんだな、おやおやあっちの虹達は三角関係だぜ、お、あそこは全員片想いの切なく甘酸っぱい青春ラブストーリーなんだな。みたいな!
 今日も一日元気に働きました。おうちに帰るとカカシさんが待っててくれて、今日も俺は、すっごく、すっごく愛されました。キスだって数えきれないくらいしてもらえました。白いのも「もうでない。ゆるして」って言っちゃうくらい出してもらえました。愛してもらってる時に「イルカ」って何度も何度も呼んでもらえました。俺は怖いくらい幸せで、いっぱい泣きました。
 カカシさんが好きです。
 俺はカカシさんが好き。
 どうしようもないくらい、すき。

「イルカー、おはよー」
「ナツ、おはよう。今朝は何が降ってきたんだー?」
「色とりどりのマシュマロ」
 教室に行くと上からマシュマロが落ちてきて、生徒達もマシュマロいっぱい持ってた。そんで食べてた。授業して働いて家に帰って、カカシさん。俺のカカシさん。
 俺の運命の王子様。
 愛してる。

 愛してる。
 心から愛してる。

 愛し愛される日々が続いている。
 でも俺は誓えるんだ。
 これを当たり前だと思う日は決して来ない。俺は毎日幸せで泣く。これからもずっとずっとずーっと、泣きながら自分の幸福を噛み締める。カカシさんと俺がこの世に生まれた奇跡、カカシさんと俺が出会えた奇跡、愛し合える奇跡に感謝する。こんなに素晴らしい人に愛されることが起こるなんて、今も信じられないくらいなんだ。多分これからもずっと「これって夢なんじゃないか?」って自分のほっぺを抓ることになるだろう。
 それくらいの奇跡なんだ。はたけカカシという名の素晴らしい人が俺を愛してくれることは。
 愛してる。
 心から愛してる。
 俺達は強く愛し合っている。

 ある日、いつものように愛し合おうとベットでキスをしていると呼び出しの鳥がやってきた。カカシさんは素早く身支度を整え、俺に三回もキスをしてくれ「すぐに戻る」と言って出て行った。
 しかし、朝になってもカカシさんは戻って来なかった。




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