「イルカー、おはよー」
「ナツ、おはよう!」
 一日の始まりは清々しい挨拶からに相違ない。赤ん坊が生まれると同時におんぎゃーと「世界さんこんにちは! よろしくどもども!」と挨拶するのと同じで、挨拶がないと一日も人生も始まらないのだ。
「今朝さー、北の森一帯にチョコレートが降って来たって話、知ってるかぁ?」
「聞いた聞いた。ついでにバナナも降って来ればチョコバナナが作れるのにな」
 俺は鞄を下ろして椅子に座り、ナツの与太話に付き合いながら今朝配られた「木ノ葉復興事業の進行状況」に目を通す。雪が消えてから随分と里は回復したが、まだまだだ。人々の生活基盤がしっかりしてないと里の忍も安心して任務に集中できないからな、俺も頑張らなくては。特に北地区は復興が遅れている。
「カカシさんとはどうなんだ? 仲良くやってるかー?」
 それは愚問だぞ、ナツ。
「俺とカカシさんの仲睦まじさって言ったらお前、全人類羨望の的だぞ。目覚めのキッスからおやすみのキッスまで、いや夢の中まで、俺とカカシさんは互いを熱く熱く想い合い恋い焦がれ合っているんだからな。どこにいても貴方のことだけを想ってる、この心臓は貴方のために動いている、むしろこの心臓は貴方の心臓、貴方の心臓は俺の心臓。死ぬ時は一緒に死にましょう、死んでからも一緒にいましょう、未来永劫ずっと愛し合っていましょうね、みたいな。いやそんなこと口にしたことないけどね、互いの考えてることなんて手に取るように分かっちゃうわけ。俺達愛し合っちゃってるから、完全に互いの思考を読み切っちゃってるわけ。むしろ常にテレパシーを送り合ってる状態なわけ。そりゃまだインしたりアウトしたりすることは、こう、まだアレだが、それはカカシさんが俺を想ってだな、それにアレだ、手ではもう何度も、いやもうほんとすげーんだよね俺の王子様のフィンガーテクニックは。王子様っつか魔術師だからな、マジで半端ねぇから!」
「イルカ、閨のことまで報告しなくて良いから」
 俺だって報告するつもりじゃなかったけど、うっかり口が滑った。
 予鈴が鳴ったので立ち上がる。
「放課後にまた俺とカカシさんの伝説的仲睦まじさを教えてやるよ。俺達がどれほど硬い絆で結ばれ毎日アッチッチで火傷寸前なラブラブ生活を送っているのか、俺達がどれだけ激しくお互いを求め合い、あたかも燃え盛る炎の中に身を焦がしつつもあらやだ、ここって楽園なのかしら?みたいな生活を送っているのか等などお前に熱く語って聞かせよう!」
「分かったから教室行け」
「俺とカカシさんの愛は不滅。永遠に!」
「分かったから教室行け! ばか!」
 おっと、惚気すぎた。ナツには刺激が強すぎたかもしれないな。それにしてもカカシさんに遠く及ばずともナツだって結構良い男なのに、どうして彼女ができないんだろうか。いや、ナツも今は人生の待機期間。辛抱するんだ、ナツ。お前だって必ず運命の人はやって来る。俺だって今までずっと待機してたけど、運命の王子様が来てくれたんだからな!
 本人がいないところでナツを励ましながら教室に向かうと、今日は黒板消しじゃなくてカップラーメンが落ちて来た。見てみるとマジックで「イルカ先生の昼ごはん」って書いてある。有難う生徒達、遠慮なく頂戴するぞ。
 授業は暗号だったので俺は出席を取るとそそくさと教室の隅に逃げた。アズキが当然のように教壇に立ったので安心して物思いに耽る。
 カカシさんと恋仲となって半月、まだ一度も「インしたりアウトしたりするやつ」をやってない。俺の心の準備と身体のメンテナンスは完璧なんだけど、カカシさんは毎晩俺のチンポを握るだけでチンポコインしたお!行為はしてこない。それでも俺はあのマジックフィンガーによってトロトロにされてしまうからどこにも不満はないんだけど、不安は芽生えてくる。インしない理由が俺の身体にあるのではないだろうか、俺のあの穴は出す専用で挿れようとしたら呪いがかかるような呪いがかかっているのではないだろうか。カカシさんはこっそりその呪いを解除しようと実は毎晩四苦八苦しているのではないだろうか。なんてこった、そうだったのか。しかし呪いがかかる呪いは俺の貞操を守ろうとしているのか、はたまた単なる嫌がらせなのか。くそ、犯人は誰だ。俺の尻の穴に呪いをかけるなど余程の者じゃないと無理だぞ。そもそもチンポには呪いをかけず尻の穴のみに拘るという部分からして不可解、犯人はヤマブシのようにアヌスに拘りのある者なのか。
「て言うかむしろヤマブシだろ犯人! 俺の周りでアイツ以外に尻穴に拘る奴なんていねぇし!」
「イルカ先生、私語は慎むように」
 興奮したらアズキに叱られた。
 その日の帰りにヤマブシのところに行って奴が尻にかけた呪いを解いてもらおうと思ったのに、ヤマブシは珍しく外出中だった。エロゲの発売日以外にヤマブシが外出するのは非常に珍しく、アイツもやっと里のために働く気になったのかなと……いやいやそれはない。断じてない。
 しかしそのせいでカカシさんはその夜も俺にインできずに終わった。カカシさんもきっと不安になっているだろう。俺、イルカ先生にインしたいのにこの呪いのせいでそこに触れることもできない。でも解除出来ないなんて上忍の俺の口からは言えない。そんなこと言ったらイルカ先生に「カカシさんってたいしたことないんですね」とか思われるかもしれない。ああ、どうしよう。とか思ってるに決まってるんだ。
「大丈夫です! 明日こそヤマブシに呪いを解除してもらいますからね!」
 今日も白いヤツを手で出してくれた上にちゅっちゅしてくれる愛しい人にそう断言したら、カカシさんはポカンとしていた。きっと俺がカカシさんの不安に気付いているとは思ってもなかったのだろう。俺は中忍だからな。でも見縊ることなかれ。
「カカシさん、大好きです!」
「ん、俺もイルカ先生のこと大好きだよ」
 カカシさんは不安を隠し、楽しそうにもっと俺にちゅっちゅしてくる。どうしようこの人、どうしてくれようこの愛しい人!
「俺の方が好きです! でんぐりがえってのたうちまわって踊りまわって、そんで神輿担いでワッショイワッショイってやって、そんでそんでカカシさんの歌を作ってそれが全世界的に大流行して、うみのイルカとはたけカカシの愛は伝説となって、とにかくそんくらい好き! 好き!」
 カカシさんの不安を少しでも取り除こうと熱心に語ってみたら「貴方は本当に可愛い人だねぇ」と、カカシさんは優しく目を細めてゆったりと笑った。
 最近のカカシさんはこういう笑顔を見せてくれる。上手く説明できないけど、前みたいな掴みどころがない笑顔じゃなくなってきた。そして、そういう時のカカシさんの声は俺を凄くドキっとさせる。
 俺はそんな素敵王子様のカカシさんに腕枕をしてもらい、今日もぐっすりと眠る。




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