今までの人生、他人の惚気話ほどキツイものはなかった。ヤマブシの場合は良い。「昨晩、拙者はリムリム姫のアヌスで三発抜かせてもらいましたぞ。フヒ」って自慢してきても、それはエロゲとオナホの話だ。違う意味でキツイが、慣れればどうってことない。でも他の人間の普通の惚気話ってのは本当にキツかった。純粋に羨ましいって思ったし、なんで俺には恋人ができないんだろうって哀しくもなった。だからもし自分に恋人ができても惚気話はしないようにしようって思ってた。
しかしあまりに極上すぎる俺の王子様について、どうしても誰かに聞いて欲しかった。それに、友達なら隠し事なんてする必要もないな、て言うか王子様と俺の関係については別に誰に隠す必要もないじゃないか!と思い至り、翌日、俺はアスマ兄ィとナツに全てを打ち明けた。
最初は実に何気なく余裕を持ってさらっと「俺、カカシさんと恋人になった」で済ませようと思ったんだけど、とてもじゃないけどそんな一言で終わらせることなんてできなくて、拳を握り締め滔々と王子様の素晴らしさを語ってしまった。ナツは自分のことのように喜んでくれた。ナツは良い奴だ。今度一楽奢ってやろう。アスマ兄ィは「そりゃあ良かったな」って頭を撫でてくれた。嬉しかったのでこれまた一楽を奢ってやるんだ。
午後からはどうしても人手が足りないと言うので受付に行く。予定されていた任務に欠員が出てその補充をしなくてはならなかったのだが、木ノ葉崩しからこっちスケジュールが滅茶苦茶になってしまっているので手隙の者を探すのも一苦労だった。「代わりに俺が行こうか?」と名乗り出たいけどそれは我慢する。「受付は里の中央の機密に触れやすいから、無闇に里外に出てはならぬぞ」と、ずっと三代目に言われ続けていたからそれを守るのだ。俺はおりこうさんです、三代目。
受付が終わると久々に時間が空いたので、その足でヤマブシのアパートに行った。木ノ葉崩しで里内は壊滅に近い状態だったのに、ヤマブシのアパートだけ何故か無事だった。
「ヤマブシー、腹の調子はどうだー!」
コイツの家は鍵などかかってなくて、ヤマブシの結界のみで守られている。ヤマブシの煩悩を凝縮し一週間煮詰めた上で図式にしたようなその複雑怪奇な結界の張り方は、俺から見ると「さっぱり意味分かんない」だけだが、以前ここにナツを連れて来た時にナツは「ヤマブシって実は宇宙の真理でも垣間見えてるんじゃね?」なんてことを言っていた。ヤマブシに宇宙の真理が垣間見えたら、宇宙の真理ってものの立場がなくなると思うんだけどな。
とにかくその結界はヤマブシ本人とアイツの親友である俺のチャクラにのみ反応しないようになっているのから、俺はそのままドアを開けて中に入ることができる。足を踏み入れ……る場所は相変わらずないな。積み上げられたエロゲの山と使用済ティッシュの山、食べ散らかされた弁当とペットボトル、ここは正に腐海の底と呼べる場所。そのうちオームでも発生してくれると良いのだが、この部屋に積まれた樹木のような積みゲーの山はヤマブシ腐海を浄化などしない。だからオームも現れてくれないし、キツネリスもいないぞ。残念!
「ヤマブシー、腹の具合は良くなったのかー?」
毎度のことながら、屋内に入るというのにサンダルを脱ぐことをここまで躊躇わせるこの部屋は凄いと思う。勿論悪い意味でだ。
「イルカ氏少し黙ってて欲しいでござる。今、イベントが発生……オウフ! フヒ」
想像通りヤマブシは急病などではなかった。いつもの通りズル休みしてただけだった。お前のせいで今日は大変だったんだぞ、お前の補充手配のせいで受付はてんてこまいだったんだぞ! と怒ってしまうのはニワカ。コイツと付き合いが長ければ長いほど「いや、ヤマブシに任務をさせようとした方が悪い」となる。三代目はその辺りをしっかり理解していた。
でもヤマブシは俺と同じく中忍。ふしぎ!
「木ノ葉崩しって知ってるかー?」
「うひょー! これはナイスイベント。ああ、あれは大変な騒動でしたな。コレクションしたフィギュアとエロゲが粉砕されたら堪らんと、このヤマブシも必死で結界を張り続けましたで候。フヒ」
「三代目が亡くなったよ。この里を守るために」
「オウフ! 某がフィギュアとエロゲを守っている時にそんなことが」
オウフ!って一応驚いてるけどヤマブシの視線はテレビから離れないし、エロゲは止めようとしない。この辺りがヤマブシがヤマブシたる所以。
「ヤマブシ、これは彼女ができるチャンスだと思わないか? お前がここでキリっとした顔で熱心に働いたとする。するとどうだ、やだ、あのちょっと小太りで脂ぎった顔の人、すごく素敵! あたし、今日はあの人にハンカチを差し出しちゃうんだからっ。みたいな女の子がやって来て、あの、これ……使ってください!って言いながらその場でパンティ脱いで渡してくれるかもしれないぞ? あまつさえ、あたしのヴァギナも使ってね、くぱぁってやってくれるかもしれないぞ?」
かなり魅力的な誘い文句を口にしたのに、ヤマブシは哀しそうに首を振った。そうか、お前はそれでも任務に行きたくないのか。健康な木ノ葉の忍、いや全世界の忍の中でお前ほど働かない忍っていないと思うぜ。
「拙者、アヌス派ですから」
お前、本当に揺らぎねぇな。
まぁ良い、そろそろ本題に入ろう。ヤマブシに任務をさせることができたのはこの世で三代目だけだったのだから。その三代目だってヤマブシの性質を知っていて、たまにしか任務をさせてなかったみたいだしな。
「ところでヤマブシ、そんなお前に伝えたいことがある。俺はついに、恋人を得た」
「オウフ! この前貸した『輪姦巫女』がついにイルカ氏のツボを突いたのですな? フヒヒ、おふっ、ザンビアたんはリムリム姫に匹敵する萌えキャラ! おほ、ウフ、しかしリムリム姫は拙者の嫁!」
「いや違うから。エロゲの女の子じゃないから。俺、カカシさんと恋人になったから」
キッパリと誇らしげに伝えると、ヤマブシはポカンと口を開けて俺を見た。俺があの、天才忍者で王子様のはたけカカシの恋人になったんだから驚くのも無理はない。無理はないが事実! 事実無根! いや無根じゃないけど事実!
「……はたけ氏もアヌス派だったということでござるか?」
「は?」
そう言えば男同士って。
あ、いや待て待て。男同士だからって全員あの穴を使うわけじゃないって聞いたことがある。
いやでも、一度くらいは使うべきか? え? どっちが?
あ、いやちょっと待て。いやいやちょっと待て別に怖気づいてるわけじゃないぞ断じて違うぞ! 俺はカカシさんの恋人だから万が一そういう立場になってもそのくらい妥協できる度量は持っているぞ? 俺の愛は底なしの蓋なしだからな。
いやでも待て。カカシさんは望んでいるのか? 俺がヤル方なら余裕。あの人綺麗だから本当に余裕。でもいや待て。待てってば!
カカシさんはそっちに手を伸ばしてきたことはないぞ。そういうセックスはしたくない? いやいや俺達は恋人。きっとアレだ。カカシさんは優しいから童貞だった俺のことを思って徐々にこう、アレしてコレしてとか順序良く攻めて来るに違いない。あの人は俺にアッチッチだから、本当はヤりたくて仕方ないのに上忍の精神力と忍耐力を駆使して我慢しててくれてるんだな! さすが俺の王子様!
「そんなコトが好きだ! カカシさん大好きだああ!」
「アヌス派のところがですかな?」
「違うわ馬鹿モン!」
カカシさん、俺はもう心の準備が整いました!
いつでもセックス可能、本日からメンテナンスも怠りませんからね!