――はたけ上忍は、その後現場に行っておられるはずです。そのことについて、教えていただけませんか?

 行ってない。俺はイルカを抱いてただけ。セックスしてただけ。誕生日を祝う言葉も口にせず、ひたすらイルカに突っ込んでグチャグチャにしてただけ。いつもみたいにイルカを力尽くで犯してただけ。そんでイルカを抱き潰して、アパートに戻ったの。
 あの日はそれだけ。

――隠し事をされると暴かなくてはならないし、疑いたくなくても「何故隠す必要があるのか」を追及せねばなりません。はたけ上忍は現場に行っておられるはずです。目撃者もおります。話して下さい。そこで何を見たのですか?

 行ってないって言ってる。いい加減にしてよ。殺すよ?

――貴方はうみの中忍を攫って現場から離れた。しかし異変に気付き、戻っている。何が起こっているのか、里の上忍として気になったのでしょう? それに生徒に何かあればうみの中忍が気になさるし、もし大事になったら現場を離れたうみの中忍の責任問題になりかねない。だから戻った。敵襲かもしれませんしね。そして現場に戻った貴方は何かを目撃し、何故かそれを見なかったことにした。恐らくうみの中忍のために。
 貴方はうみの中忍を愛している。心から愛している。貴方はまさしく、うみの中忍を中心として動いている。それは分かります。たったこれだけのお話を聞かせてもらっただけでも、貴方がどれほどうみの中忍を愛しているかは分かるのです。
 ですが聞かせて下さい。うみの中忍に不利なことでも、私が何とか致します。私はこの件に関して火影様に一任されております。多くの権利を持っております。決してうみの中忍に迷惑が掛かるようなことには致しません。
 そしてもう一度重ねて申しますが、目撃者がおります。貴方はあの場所に戻っているはずです。


 うるさいねアンタ。しつこいし。
 でもま、頭は切れそうだから話は早く済みそうだ。教えてあげる。
 アンタの予想は半分当たり、半分は大外れ。確かに俺は戻ったけど、本当にそこでは何も見ていない。いや、見たけどね、何かおかしくなってるガキどもを。でもそれは他のアカデミー教師達と一緒の光景だよね。
 俺が「見なかったことにした」理由は、イルカがさ。イルカが、怒るかもしれないって思ったから。怒るって言うか。
 アンタ、話聞いてて分かったと思うけど、俺とイルカはあんまり上手くいってない。イルカが教職に就いてから特に上手くいってない。つまり一年以上、俺とイルカは酷い関係にあるんだ。主な理由は俺なんだけどね。ま、もともと上手くなんていってなかったんだけどさ。
 イルカは俺が里から離れている間、せっせと手紙を書いてくれるんだ。吃驚するくらい長い手紙を書いてくれる。かなり情熱的なのもあれば、日々の生活を淡々と記した日記みたいなのもある。どれもこれも俺宛てだよ。そして必ず俺を好きと、愛してると書いてある恋文だよ。でも俺は信じられないの。イルカを信じきることができないの。だから忍犬に監視までさせてるわけ。口を開けば詰っちゃうから、イルカを苛めてしまうから、俺は何も言わないことにしてるんだ。「誕生日おめでとう」すら言わないの。俺。酷いでしょ? 言わないっていうか、言えないんだけど。
 でもイルカはそんな俺に強姦されるみたいに抱かれても、抵抗しないんだよ。これは本当。絶対抵抗しないし悲鳴も上げない。だから余計怖いわけ。いつか俺は呆れられるんじゃないかって。
 今回のこともそう。俺がいつものように仕事中のイルカを攫って強姦してる時に、何かあったわけじゃない? そんで、俺はそれに気付いちゃった。本当はあそこでイルカを解放して、イルカに事情を話してガキ達の元に返すべきだったんだろうけど。ほら、イルカは責任感強いし。でも俺、それしたくなかった。正直に言ってイルカを手放したくなかったってただの俺の我儘。だからさ、俺は何も知らない、イルカも何も知らない、これでいこう、知らぬ存ぜぬを通そうって思った。
 だってイルカに知られたら、今度こそ俺は見捨てられるかもしれなかったから。貴方が仕事中の俺を攫うからこんなことになった、貴方は事態の異常さに気付いたのに何もしなかった、貴方は俺にそれを知らせもしなかった。そんなふうに詰られて怒られて呆れられて、見捨てられるかもしれなかったから。
 ここまで正直に言ったんだ。アンタ、イルカには黙っててくれるよね?

――うみの中忍の耳には決して入れません。ご安心を。

 イルカに知られたら、アンタ殺すから。必ず。

――分かっております。それでは、その時の話を詳しく教えていただけますか?

 黒髪のガキが逃げるように走って行くと俺は勝利の咆哮を上げるみたいに滅茶苦茶にイルカを犯しまくった。自分でもよく分からない、妙な昂揚感があった。んで暫くイルカの身体を嬲りまくってると緊急用の口笛が聞こえたんだ。俺にぐちゃぐちゃにされてるイルカは気付かなかったけど、俺には聞こえた。そして俺はその口笛でガキがいるあの場所で何か異変が起こっていることに気付き、戻ったんだ。イルカを犯すことは止めたくなかったから、影分身を出してね。アンタの予想通り、何が起こっているのか里の忍として気になったし敵襲かもしれないと思った。それに生徒に何かあればイルカが気に病むし俺を恨むかもしれない。だから戻った。影分身で、だけど。
 あ、思い出した。目撃者ってあのオバハンかー。

――決して彼女に手は出さないように。彼女は私にありのままを報告しただけです。そこに悪意はありませんし、義務を果たしただけです。貴方が彼女に何かしたら、私も黙ってはおりませんよ。

 あー、はいはい。ま、良いよ。しかしあのオバハンは案外目が良いね。
 何はともあれ俺は、俺の影分身はあの場所に戻って、アレを見た。ガキね。ちょっとおかしくなってる子供達。何か一生懸命何か探してたよ。色々見て回ったけど、ほんと、異常だったねアレは。
 多分その時、アカデミー教師達と俺の影分身は同じ行動を取ってたと思う。まず、敵忍の襲撃かどうかの確認。視覚、聴覚、嗅覚に働きかける不審なものはないか、不審な気配はないか、周囲は正常なのか、そういったものの状況確認。次に子供のそれが忍術によって引き起こされているのかどうかの確認。それから子供のチャクラの流れを見て、瞳孔を調べて、何らかの中毒症状が出ていないかチェックしていった。一応忍犬を口寄せしたよ。俺の忍犬は全て口寄せした。子供がいる以上敵忍がいたらやっかいなことになるからさ。でも俺の忍犬は俺と同じく、子供の様子以外に異常は見つけられなかった。
 あまりにも状況を把握できなくて、俺の影分身はどうするべきか悩んだ。忍術じゃないのは確かだったよ。俺は何度も子供の身体に触れてチャクラの流れを確認したから。でもそうすると、その状態を引き起こしているものが何なのか分からない。敵忍の気配はなかったけど、それが忍術ではなく一種の集団催眠みたいなものだったら気は抜けない。俺の影分身は万が一の事態に備え忍犬達と一緒に暫く様子を見ることにした。
 そうこうしてると、子供達が泣き始めた。
 そして、時を同じくしてイルカも泣き始めたんだ。

――うみの中忍も?

 そう。俺も影分身の記憶を回収して吃驚したんだけどさ、恐らく子供達が泣きだしたのと同時じゃないかな。
 その時俺に酷い抱き方をされてたイルカの意識は半分飛んでて、痛みからか快楽からか分からない涙を既に流してたんだけど、それが始まった時の涙はそれはそういうものとは全く違ってた。
 何かね、そこに涙の理由がなかったの。そこにって言うか、俺が抱いてるイルカの身体に、その涙の理由がなかったの。酷いことをされている、痛い、苦しい、気持ち良い、そんな涙じゃないの。あえて言えば、飛んじゃってるもう半分の意識の方で何かとんでもないことがあったみたいな感じ。
 俺は驚いて、イルカの名前を呼び頬を叩いた。イルカはすぐに正気に戻ったよ。

――正気に戻ったんですか。

 うん、イルカはすぐに戻った。でも、涙は止まらなかった。
 すっごい量の涙を零すのよ。ボロボロと泣くの。そんで、自分でもその涙の理由が分からないらしくて、俺に謝るの。カカシさんすみません、カカシさんすみませんって。涙が止まらないって。
 さっきも言ったけど俺とイルカは上手くいってなくて、俺はイルカに信じられないくらい多くのことを我慢させてる。だから、何かの切っ掛けで留め金みたいなものが外れたのかもしれないなって思った。その時は影分身の記憶はまだなかったし、何だかどうすれば良いのか分からなくなって、その涙の量が怖くて、俺はまたイルカを揺さぶり始めた。俺、結局それしかないんだよね。突っ込んで揺さぶって、うやむやにすることしかできないの。でもその時、かなり嫌な予感がしたんだ。俺の勘は当たるから、早くイルカの意識を飛ばしてしまってその涙を引っ込めさせて安心したかったわけ。
 元々半分意識が飛んでるところまで行ってたからね、イルカのイイところを力任せに突き荒らしてやればイルカはすぐに落ちた。俺は悪い予感で鳥肌まで立ってて、意識を失ったイルカを抱えて逃げるように帰宅したんだ。
 俺の影分身はあの場に留まり警戒を続け、暗部が到着した時点で俺に戻って来た。その間も子供以外に異常はなし。
 気味が悪いくらい、子供以外はどこも異常はなかった。

――何でも良いです。はたけ上忍が少しでも気になったこと、心に残っていることなどはありませんか? 子供達が口走った言葉や、何かを探しているその様子が何かに似ていたとか。

 うーん。気味が悪かったことくらいしか。
 ああ、一人だけ印象に残ってる子供がいる。「探してなかった子」とでも言えば良いのかな。
 最初に周囲の状況確認をした時に、たまたま見かけたんだ。他の子供はみんな這い蹲って必死の形相で何か探してるのに、その子だけ突っ立ってるの。

――顔写真を見ればその生徒を特定できますか?

 分からない。悪いけど、後ろ姿しか見てないんだ。黒髪だったのは覚えてるけど。あ、もしかしたらイルカが俺に犯されてるの見た子と同じかもしれない。
 そんで、子供達が泣きだしてから俺の影分身はもう一度周囲の警戒をしたんだけど、その時もその黒髪の子を見かけて。ま、同じ場所に突っ立ってたんだけどさ。
 泣いてたかどうかは分からないけど、何かその後ろ姿が印象的だね。あんな後ろ姿をしてる時って、人間はどんな顔をしてるんだろう。

――他に何かありますか?

 ないね。早く帰りたいから洗いざらい全部ゲロった。聞いてて分かったでしょ?
 アンタほんとに、イルカに余計なこと言わないでよ? イルカ、面接まだでしょ? 絶対に余計なこと言わないで。あと、あの人セックスの話とか猛烈に恥ずかしがるから気を付けてあげて。それから絶対にイルカを責めないでよ? イルカは俺に犯されてた被害者なんだから、少しでもイルカを詰るようなこと言ったら殺すからね。
 ああ、それから俺が報告義務怠ったこと内緒にしといてくれない? 始末書書くの猛烈にかったるいんだよね。
 
――了解しました。全てをお話くださったことを心から感謝しております。今の話はうみの中忍の耳には決して入れませんし、私はうみの中忍を絶対に責めません。報告義務怠慢の件も私が何とかします。

 頼んだよ。

――最後に、この件に関するはたけ上忍の所感を述べていただけますか?

 所感? アンタ面白いこと言うねー。
 ……そうだなぁ。アンタ敵忍以外の人間殺したことある? 一般人とか。

――ありません。

 そっか。じゃあちょっと説明し難いんだけどさ。
 俺は子供のああいう目を、今までに数回見たことがあるんだ。泣きだす前の、全員が何か探してた時の目ね。どこに心があるのかよく分かんない目。
 それは大抵、子供の前で親を殺した時に起こる。
 そんなところ見せたくないんだけど、何かしらのアクシデントが重なると運命みたいにそういうことが起こっちゃうの。子供の目の前で、親を殺すことが。
 俺達暗部が手を抜くわけじゃない。それでも考えられないような偶然が幾重にも重なって、本当に、運命みたいにそれが起こっちゃう時がある。
 そういう時に、あの目を見るよ。
 失われたもののあまりの大きさに、魂が真っ二つに裂けたような感じかな。不思議なものでそこまでいくと痛々しさもない。ただ虚ろでもなく正常でもないその状態は、どこか人間じゃないみたいで相当気味が悪い。
 俺はあの時何があったのか知らない。
 でも、誰か親が目の前で殺されたのかもしれないよ。




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