第8章 絡みあった二匹の蛇
意識が戻っても、それが夢なのか現実なのか曖昧なままのようだった。
今まで何をしていたのかさえもよく思い出せない。
とにかく、酷く暑く酷く寒かった。
どっちだか分からない。身体の芯はジリジリと音が聞こえるほど真っ赤に燃え上がっているのに、身体の表面は鳥肌が立つほど冷たかった。
ぼやける視界がぐらりと揺れて、身体を起こされたのだと思った。
「一度シャワーを浴びようか。ベタベタしていて気持ち悪いだろう」
永司の声は相変わらず耳元で聞こえる。
意識がはっきりしない。
今日も言われるままにキッチンで自慰をしたのは覚えている。いや、キッチンでしたのは昨日だったかもしれない。今日はテーブルの上でした。……違う。それも違う。今日は………駄目だ分からない。
でも今日も今まで何かしていたんだ。
だってこんなにも身体が疼く。
今まで永司と二人で弄っていた身体が、これから始まることを期待して疼いている。
どこか遠い所から甲高い女のような声が聞こえる。甘ったるい声で何かをねだっている。
永司の嗜虐的な瞳がやけに色情をかりたてる。
身体を高ぶらせるために後ろ手に縛られた腕の痛み。いつまでも弄られている胸の突起の音の高い快感。卑猥な音を立てて性器を飲み込んでいる部分の音の低い快感と、そこから広がる濁った熱。
巧妙な罠にかかった虫がもがけばもがくほどその罠に落ちていくように、身を捩れば捩るほど身体を溶かされて食されていくようだった。
「もっと飲み込め。もっとむしゃぶりつけ。もっと掻き混ぜろ」
言われるがままに腰を振る。
前に倒れそうになると永司が腕の縄を掴んで引き戻す。
ゆらゆらと恍惚の海で揺れながら、自分の唾液が糸を引き永司の胸元に垂れていくのが見えた。
下半身に熱が集まりドロドロと蕩け、眩暈に似た絶頂感が訪れる。
身体のどこかずっと奥の方から、波の音が聞こえた気がした。
打ち寄せる波。
波間。
うねり。
「まだだ。まだイクな」
永司の声にまた意識が戻る。
そしてまた絶頂感すれすれの所で意識が薄れていく。
射精する寸前のあの快楽が強引に引き伸ばされるような感覚に恍惚としながら、波のうねりに巻き込まれていく。
俺の身体は永司に変えられたのだと感じた。
いつの間にか性器に触れられることなく射精できる身体にされ、そして「イクな」と言われれば射精できない身体に作り直されたのだ。
身体を元から弄られた。
それでも良い。
この快感を得られるのならばもう何でも。
永司は俺のたった一人の支配者だから。
黒くてグツグツ煮立ったようなモノが溢れていく。
蠢く俺と永司。
どこからが俺でどこからが永司なのか分からない。
どちらが挿入し、どちらが射精しているのかすら分からない。
暗闇の中で融合していく肉体。
DNAの螺旋構造。
絡みあった二匹の蛇。