夏休みの直前、その日も入来は真面目に授業を受けていた。
昨日は雨が降ったが今日は良く晴れている。しかし散々雨を吸い込んだ地面からは湿気が湯気のように立ち上り、それが人々の身体を包んで体力を消費させていた。
入来は古典の教科書を捲りながら楠田を見る。楠田は相変らず俯いていた。長い黒髪が美しく背中まで流れている。
――アタシは那馳が好き。
入来は楠田を見詰めながらそう思う。
楠田が何を思い入来を避けているのか分からない。真田に説明されてもイマイチ良く分からなかった。ただ、自分が楠田に欲情した事が大きく関係しているらしい。しかし真田は「それは悪くない」と言う。入来には良く分からない。
でも俯いている楠田を見ているのが辛かった。
一日の授業を終え、入来はさっさと帰る仕度をする。今日もバイトだ。
「入来」
良く知った声に顔を上げると、楠田が伏目がちにこちらを見ていた。
「どうしたの?」
入来が内心とても喜んでいたのは言うまでもない。
「今日、入来の家に行ってもいい?」
「勿論。今日のバイトは早く終わる。鍵は持ってる?」
楠田が小さく頷いた。
入来はいつ楠田が自分の部屋を訪れても良いように合鍵を持たせてある。入来はバイトで忙しいし、金のかかる携帯も持っていない。来たい時に来れば良いのだといつも楠田に言っていた。
「なるべく急いで帰る。腹が減っていれば先に何か食べてて」
そう言うと楠田はまた小さく頷いた。
入来は楠田にキスをしたくなった。この長い黒髪の女を抱き締め、この場で思う存分キスしたくなった。
バイトが終わると入来は全速力で自分のアパートへ戻る。もどかしいように自転車のペダルを漕ぎ、汗をかきながらアパートの階段を駆け上る。とにかく楠田の顔が見たかった。楠田が自分の部屋にいてくれれば、後はどうでも良かった。
「那馳!」
ドアを開けながら入来が叫ぶ。玄関に楠田の靴が揃えて置いてあった。自分も大急ぎで靴を脱ぎ、部屋に入る。
楠田は台所で飯を作っていた。
「おかえり」
「ただいま」
入来は大きく息を吐いた。
それから入来は風呂に入り、サッパリしたところで部屋に戻った。机の上には皿が並べてあり、カレーのいい匂いがする。楠田が冷蔵庫からサラダを出し、2人でそれらを食べた。人参が好きな入来は具の中の人参ばかりを食べ、楠田は笑ってそれに文句を言った。楠田はもう俯いてはいなかった。前のように真っ直ぐ前を向き、入来を見ている。
「入来、最近冷たくしてごめんね」
食べ終わった食器を片付けながら、楠田が真剣な声で言った。入来が振り向くと、楠田は食器を洗っていて表情が見えない。
「……那馳は悪くない」
真田も言っていた。楠田は悪くないと。
「私は最近とても自分が汚く思えたの。同性愛者である自分が、とんでもなく醜く思えたの。そして、入来にそれをうつしてしまった気がした。自分が力強い大木をも枯らしてしまう病原菌みたいな気がした。怖かったわ。怖かったの」
「何も怖がる事などない。那馳は悪くない」
布団を敷きながら入来は言う。
楠田がそんな事を悩んでいたのかと思うと、少し悲しい気がした。
楠田は怖かったのだと言う。
なぜその時自分が楠田の気持ちを宥めてやることができなかったのかと思うと、入来は本当に辛かった。
「入来はどうしてあんな事をしたの?」
食器を片付けた楠田が、タオルで手を拭いてこっちにやってくる。
あんな事とはどんな事だろうと入来は思った。しかし、すぐに自分が楠田に欲情して行為した事なんだろうと思った。
「アタシは那馳が好き」
入来は正直に答えた。隠すつもりはなかった。
「入来はノーマルなのよ。なぜ急に私を好きになったの?私の事が好きなんだと思い込んでいるだけじゃないの?私に変な影響された?」
楠田が布団に入りながら訊いて来る。
「上村はノーマル?」
「ノーマルよ」
「ならばなぜ那馳は上村を好きになった?」
楠田は黙る。
入来は自分も布団に入ると、楠田の手を握り目を閉じた。
「那馳がノーマルの上村を好きになったように、ノーマルのアタシが那馳を好きになっても良いんだと真田に言われた」
隣で楠田が笑った気がした。
「私は由子ちゃんが好きなのよ」
「アタシは那馳が好き。だから那馳の恋が上手くいくように心から願っている」
楠田はここで、自分の「好き」と入来の「好き」は違っていると思った。入来のはきっと恋とか愛とかではなく、もっと友情的なモノだと。
入来が自分に対して行った行為は理解できないが、それでも今の入来の言葉はありがたいと思った。
「入来、ありがとう。私は明日もう一度由子ちゃんと話してみるわ。もう一度。今度もダメだったらキッパリ諦める」
楠田は自分に言い聞かすように言った。
入来が寝息を立てている。
「入来、私は自分の気持ちから逃げない。頑張ってみる」
楠田はそう呟いて目を閉じた。
「那馳は頑張って水門を開けた」
入来の変な寝言が聞こえた。
翌日、楠田は上村を呼び出した。
上村は俯きながらも楠田に付いて行った。誰もいない空き教室まで行き、教室内を確かめて中に入る。
正面の校舎からピアノの音が聞こえた。
「由子ちゃん、この前はごめんなさい。驚いたでしょう?」
自分が想像していたよりずっと冷静なのが分かった。
上村は真剣な目をして俯いている。
「私はずっと由子ちゃんが好きだったの。本当よ。フラれてしまった今でも好きなの。でも由子ちゃんが私の事を気持ち悪いとか汚いとか思うのだったら、今日すっぱり諦めるつもり。でも、もしそうじゃなかったら……もしそんなふうに思わないのなら、私は由子ちゃんを好きでいたい。好きになって欲しいって言っているわけではないのよ。
ただ、私は由子ちゃんを好きでいたい、それだけなの」
楠田は正直に自分の気持ちを言葉にした。ここでまた、「ごめんなさい」と言われたら諦めよう。そう思った。
自分の言葉が上村にとってどれほど答え辛いモノなのか充分分かっていた。しかし、ノーマルな上村相手に告白までしたのだ。もう隠す事などしたくない。自分の気持ちをぶつけたい。それだけだった。
「楠田さん、私はね」
上村がゆっくり顔を上げる。
目が合った。
「私はね、別に同性愛者の人を気持ち悪いとか思ったことはないの。でも、正直に言って驚いたわ。動揺して、混乱した。どうすればいいのか分からなかった。身体が勝手に震えてしまって、どうしようもなかったの。私はあの時、必死で自分の手の震えを止めようとした。なのに止めれなくて、楠田さんを傷付けてしまった。だから謝ったの。『ごめんなさい』と」
楠田はかなり驚いた。
あの時の「ごめんなさい」が、こんな理由だったとは。
「私はあれからずっと楠田さんの事を考えていたの。あの時の返事をちゃんとしなくちゃいけないと思って。でも、いくら考えても答えはでないの」
「由子ちゃん……」
「私自身、どうやっても答えがでない。楠田さんの事は好きよ。でも、それは楠田さんの言う好きとは違う」
「由子ちゃん、私と付き合いましょう」
楠田は真面目に言った。
上村は自分を嫌っていない。今は自分とは違う「好き」でも、もしかしたら……もしかしたら、自分と同じ「好き」になるかもしれない。
例えわずかでも可能性があるのなら、やれるだけやってみたい。もうウジウジ悩みたくない。頑張ってみたい。
――例え結果が駄目だったとしても、私は私。
「ちょっとでも可能性があるのなら、私はそれに賭ける。もし駄目だったら、その時話し合いましょう」
上村は、真っ直ぐ自分を見る楠田がとても美しく見えた。楠田なら好きになれるかもしれないと、本当にそう思った。
「分かったわ。こんな私ですが、どうぞ宜しくお願いします」
上村の言葉を、楠田は満面の笑顔で返した。
夏休みに入ったその日の夜、真田はフラフラと街を歩いていた。
ただ、フラフラと歩いていたのだ。真田は時折声を掛けてくる男達を無視して、気ままに街を散策する。
正直、とても暇だった。
夏休みには岬杜に会えない。大体岬杜は1学期の後半学校を休みがちだった。登校しても外ばかりを見ていた。屋上へは上がらないし、話し掛けても返事は勿論頷くとこすらなかった。
真田は大変不服だった。
それでも岬杜を見られるならばマシだ。これから2学期が始まるまで、どうやって暇潰しをすればよいのだ。
真田がフラフラと小さな公園に入ると、偶然そこに入来の姿を見つけた。
「よぉ入来。奇遇じゃねーか」
暇潰しの材料を見つけて、スキップで入来が座っているベンチまで行く。
入来は真田を見ても何も言わなかった。
「んだよ入来、シカトすんなや」
真田は笑いながら入来の横に座る。入来は何も言わない。
「シカトすんなって言ってんだろーが」
ここで真田はちょっとムっときた。それでも入来は何も言わない。
真田は入来を見た。
随分と長い間見ていた。
そしてやっと視線を外すと、赤いシャツの胸ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
暗い公園に、煙草の火がユラユラと揺れていた。
「……んで?楠田と上村は水門を開けたのか?」
公園に子供が2人入って来た。
大声で騒いで遊んでいる。すぐに大人が2人やって来て、花火が始まった。親子は楽しそうに花火をしている。
「那馳が水門を開けた。そして、上村もそれに続いた」
低い声で入来が言う。
「そうか。良かったじゃねーか」
「良かった。本当に良かった」
子供の楽しそうな声が聞こえる。
小さな公園の片隅で、色とりどりの花火が点いては消えていく。父親が小さな打ち上げ花火を点火した。
子供達の歓声。
パンッという音。
子供達の歓声。
何度かそれが繰り返された。
入来はじっとそれを見ていた。真田もそれを興味無さそうに見ていた。根元まで吸った煙草を揉み消す。
「入来、今日のバイトはどうしたんだ?」
「休んだ」
「ほう、珍しいな」
「休んだのは初めて…」
打ち上げ花火が終わり、最後にお約束の線香花火が始まる。4人が輪になって、笑いながら線香花火を持っていた。子供がクスクス笑っている。
父親の火種が落ち、続いて子供2人のが落ち、最後に母親のが落ちた。
最後の花火が終わると親がゴミを綺麗に片付け、4人揃って帰って行った。
公園はまた真田と入来だけになった。
「入来、楠田の恋が上手くいって良かったか?」
「良かったに決まっている。那馳は幸せそうだった。那馳はあんなに可愛く笑っていた。良かったに決まっている」
真田がまた、煙草に火を点ける。
「そうか」
「そう。アタシも本当に嬉しい。那馳が幸せなら、アタシも幸せ」
「そうか」
「そう」
真田がゆっくりと煙を吐く。蒸し暑い夏の夜空に、煙草の煙が消えていった。
「ならば、なぜお前は泣いているんだ」
その言葉に、入来が弾かれたように真田を見た。同時に両手で自分の顔を撫でてみる。
泣いてはいない。
「アタシは泣いてない。真田、嘘を吐くなっ!!なぜアタシが泣かなくてはいけない。変な嘘を吐くな!なぜアタシが……」
「泣いてるじゃねーか」
「泣いてない」
「泣いてる」
「そんなの嘘!!」
そう叫んでから、入来はもう一度自分の顔に手をやった。
「ほらみろ。泣いてるじゃねーか」
真田が煙草を吸いながら言う。
入来は泣いていた。
涙が頬を伝って、足元に落ちる。
ポトリと音が聞こえるくらい、大きな涙だった。
線香花火の火種みたいに
線香花火の火種みたいに
大きくて熱い涙が浮かんでは落ちた。
「……本当だ。アタシは泣いている。那馳が幸せなのに、アタシは泣いている……」
「別に楠田が幸せでも、お前が泣きたかったら泣けば良いんだ」
「そう?」
「そうさ」
真田は煙草の灰をトントンと指で弾いて、それからまた深く煙を吸い込む。
「アタシは今日、那馳の話を聞いてから不思議な気分だった。那馳が幸せならアタシも幸せなのに、なぜか不思議な気分だった。そうか。アタシは泣きたかったのか」
入来は淡々と語りながら泣いていた。
別にしゃくり上げたりせず、静かに涙を溢しながら。
「でもなぜ泣きたかったのだろう。アタシはなぜ辛いのだろう」
真田は何も言わなかった。
黙って煙草を吸っていた。
それから入来は真田のマンションに強引に連れて行かれた。
真田の部屋は入来のアパートとは違い、新しくて広かった。部屋が3つあって、キッチンと一緒になったリビングには大きなテレビがあり、周りにゲームが沢山転がっていた。もう1つの部屋は物置みたいになっていて、入来が見たこともないようなモノが足の踏み場もなく乱雑に積まれてある。両方の部屋ともビックリするほど汚くて、何故かそこらじゅうに戦車や飛行機や戦艦のプラモデル、モデルガン、どこから持ってきたのか戦国時代の甲冑らしきモノ、木刀と鉄パイプ、工事現場に置いてある赤い三角錐や「ご迷惑をおかけします」の看板まであった。テーブルの上にはビールの空き缶が散乱し、灰皿にはどうやって積み上げたのか分からない程の煙草の吸殻が山になってある。
「お前は今日、ここに泊まっていけ」
部屋を見ていると、真田がそう言いながら服を脱ぎ始めた。
しなやかな身体だった。全体的に贅肉がまるで無い。長めの首は美しい鎖骨に続き、あまり大きくない胸、細くて強そうな腰、足と腕には引き締まった肉が付き、特に脹脛には驚くほどの綺麗な筋肉があった。女とは思えない。
入来は自分の身体に自信がある。バイトで培われた身体は普通の女子のそれとは一線を画していた。しかしそれは無理をして作った身体だ。力を入れて腕を曲げれば二の腕には力瘤ができる。まるで不自然なボディービルダーのように。
しかし真田の身体は本当に自然に見えた。それが当たり前のようにパワーが漲っている。
「私は風呂に入る。お前は後な」
真田はそう言って浴室へ向かう。なぜ脱衣所で服を脱がないのだろうと思っていると、浴室の方からやたらと大きな水の音がした。
ふと覗いて見ると、ドアが開きっぱなしだ。
「真田、ドアを閉めないと水が飛ぶ」
入来の声は聞こえていないようだ。真田は泡と格闘している。
分からん女…と思いながら入来は部屋の中を見ていた。漫画が沢山ある。少女漫画から少年漫画、成人向けのエロ漫画まである。
「出たぞ。次、お前入れ」
振り向くと真田が水浸しで立っていた。あまりにも早過ぎる。カラスの行水とはこの事だ。
「真田はどうしてドアを開けたまま風呂に入るの?」
「私の実家の風呂は広かったんだ。
だからこんな狭い風呂に入っていると息が苦しくなりそうでな」
真田が言いながら身体を拭いている。水がボタボタ床に落ちていた。
入来は、本当に真田は変な女だと思いながら自分もシャワーを浴びた。
浴室から上がると、まだ値札が付いているままの新しい下着と、Tシャツと短パンが置いてある。それを身に付けるとリビングに戻った。
真田はビールを飲みながらテレビを見ていた。なぜか部屋の電気が消してあり、暗い部屋にテレビだけが光っている。
「お前は寝室で寝ろ。私はここで寝る」
「なぜ?真田が寝室で寝れば良い」
「ならば一緒に寝るか」
真田のハスキーな声が低く聞こえた。
それは入来には理解できない、真田だけがもっている何かで自分に話しかけているようだった。犬笛とか、蝙蝠の超音波みたいに。
「いいよ」
入来はよく分からないが、そう答えた。
それから2人でテレビを見た。真田は何も言わなかったので入来も黙っていた。眠くなったのでうつらうつらしていると、隣から真田が吸っている煙草の匂いがした。
入来は煙草の匂いが苦手だ。
でも、その時は何も思わなかった。
「入来、寝るか?」
真田の声がする。入来が頷くと寝室へ連れて行かれた。
そこに入って、入来は寝惚けた頭で少し驚いた。
さっきまでいたリビングとチラッと見た物置のような部屋とはまるで別人が住んでいるが如く、その寝室には何も無かった。大きな窓の下に綺麗なエンジ色のシーツが被せてあるベッドと、その足元に何冊かの大き目の本が転がっている。全て山の写真集のようだった。
部屋にはそれしかない。ベッドと、山の写真集が何冊か。
分からん女…入来はまた思う。
真田が先にベッドに入った。入来もそれに続いてベッドに潜り込んだ。自分の部屋にあるシングル布団と違い、見たこともないような大きなベッドだった。
目を閉じながら入来は楠田の笑顔を思い出した。「付き合うことになったの」そう言う楠田の顔は幸せに満ちていた。入来は嬉しかった。楠田の笑顔は本当に輝いて見えた。
そして眠りかけた時に、その手に気が付いた。
自分の太股に伸びてくる手。
「真田?」
真田は返事をしない。
手は足を這い、腰に伸びてくる。
「真田、なに?」
入来は不思議だった。
真田の手はそのまま自分の身体を上に這い登っていく。そして入来の乳房でその手は止まった。薄いシャツの上から感じるその手は、そこで何事もないように止まっていた。
入来はまた目を閉じる。
すると真田の手が少しだけ動いた。
指で乳首を擦る。
微妙に。
しかし僅かに力を込めて。
「真田。オマエどうしたの?」
「うるせーお前は寝てろ」
真田の低い声が聞こえた。その声に含まれるモノを入来は理解できない。
真田の手は動いているか動いていないのか分からない程ゆっくりとしている。しかしその手は明らかに入来の身体を反応させる。
張り付いた指が乳首を挟んだ。
「真田は同性愛者なの?」
「……私はバイセクシャルだ」
入来にはバイセクシャルの意味が分からない。混乱してどうしようかと思っていると、真田の手がまた少し動く。手を退かそうかと思っていると、もう1つの手が下半身に伸びて来た。
「止めて。アタシは那馳が好き」
真田は止めなかった。服の上から下半身を刺激する。
「真田止めて」
入来が手を掴むと、そこでようやく真田は止まった。
「お前は寝てればいいんだよ」
不機嫌な声がする。
入来は少し怖くなった。
「なぜこんな事をするの?」
「欲情したからに決まってんだろ」
「なぜ欲情するの?」
「そんなんにイチイチ理由はねーんだよ」
真田が入来の手を振り解き、行為を再開する。
「アタシは那馳が好き」
入来は独り言のように呟いた。
「だから何だ。イヤだと言っても私は止めん。お前は黙って寝てればいいんだ」
真田は低い声で言う。
入来は上がってくる自分の呼吸が信じられなかった。
初めて他人に身体を愛撫され、その感触が入来の思考と身体を麻痺させていた。
真田は指で淡々と入来を責め、手馴れたようにコトを進めていく。
「…ど…うして……」
入来は喘ぎながら真田を見た。
抵抗できない身体を恨めしく思いつつ、真田の突然の行為がいまだに理解できないでいた。
「お前は暫く私と一緒にいればいいんだ」
真田の声が遠くから聞こえた。
真田は下着の上から淡々と入来を責めながら、じっと汗を浮かべる彼女の顔を見ていた。
指以外、入来の身体に触れなかった。
入来は真田の指によって初めてエクスタシーを覚える。
真田は入来が寝てしまった後も、彼女にキス1つしなかった。