第11章 ブラックポスト
次の日の朝学校へ行くと既に永司が登校していて、俺は抱擁されそのまま身体を持ち上げられた。朝っぱらからイチャイチャっぷりを発揮した俺達だが、ここに真田がいれば飛び蹴りだのマッハパンチだのが飛んできて一悶着あるだろうけれども有難いことに今の級友は俺達が何をしようがあまり気にしない。一部の女子生徒を除けば。
持ち上げられたまま足をブラブラさせながら頭を撫でてやると、永司は満足気に笑みを浮かべる。
「淋しかった?」
「これ以上なく」
「永司くん。お前、もしかして俺に惚れてるんじゃね?」
「まさか!」
「お前、もしかして俺のこと愛しちゃってるんじゃね?」
「そんな馬鹿な!」
永司は明らかに上機嫌だ。二人でクスクスと笑いあうと、とても親密な気分を味わえる。このままコイツの唇を舐めてそのまま舌を突っ込んでやりたいとも思えてくる。人を愛することの何が素晴らしいって、こうして相手を愛おしく感じるこの瞬間が素晴らしいと俺は思う。愛しいと感じるこの感情が、何よりも素晴らしい。
永司がようやく俺の身体を下ろすと俺は両手を上げて永司の頬を挟み、自分の目を見るよう、視線を逸らさぬようにと意思を伝える。永司は少しだけ目を細める。
「なんか俺に言うことある?」
真っ向から見据えてそう訊ねてみると、永司の瞳が少しだけ笑う。俺にはそれが、新鮮な驚きと知的な光のように感じた。しかし何も答えない。
「ある?」
重ねて問うと、永司は屈託なく笑顔を見せて言った。
「春樹が好き」
「いやそうじゃなくて」
俺はケラケラと笑いながらチョップチョップして、一度大きく背伸びをしてから席に着いた。
その日は昼にまた野球をした。暑くて嫌がる友人が多かったのでその辺で屯していた下級生を強引に引き入れようと勧誘したが、金持ち喧嘩せずを地で行くこの学校の生徒は確かに喧嘩はしないがコミュニティが基本的に閉鎖的で、実際に野球を始めるまで随分と手間取った。野球を始めてからもどうやら野球のルールを知らない奴等だったようで、敵チームの守備が10人になっていたのだが、まぁそれは気にしないことにした。それと、ベンチに戻る度に永司が友人達と喋っている俺のシャツを勝手に捲って勝手にタオルで汗を拭いてくれるのだが、これも気にしないことにした。
隙間なく良い気分でいられたその日の夜、風呂を沸かしながらゴロゴロしていたら久しぶりに母ちゃんから電話があった。
どうも現在母ちゃんの中では鰻が大ブレイクしているようで、美味い鰻を食べるために私は今生きているんだと断言していた。こっちには送ってくれないので俺には関係ない話だ。真面目に学校に行っているのか、仕送りは間に合っているのか、体調はどうだ、何か問題はないのか、などなど、母親として可愛い息子に訊ねるべき事柄はどれだけでもあるだろうに、母ちゃんは鰻の話を果てしなく一方的に語りまくった。
途中で隙を見てお小遣いアップの希望の旨をこっそりとさりげなく伝えてみたが、ああ、梅干送ってやるよ、と言われた。俺は梅干じゃなくて小遣いが欲しい。その後またもや鰻の薀蓄が始まりそうだったので慌てて話題を変えてみる。
「ねぇ、俺って子供の頃、どんな子供だった?」
『鰻の子供?』
「いや俺。オレオレ。鰻じゃなくて深海嘉湖さんの最愛の息子のハルコちん」
『アンタね、恐ろしい子供だったよ』
母ちゃんが俄かに声のトーンを落としたので、ちょっとドキドキした。お山のお池で亀を飼っていたような可愛い子供のはずなんだけど、何か不気味な部分でもあったんだろうか。
『よく鏡の前に座って、じっと自分に見とれてた。本当に恐ろしいナルシストだったね。アンタ、まだそんなことやってるんじゃないだろうね? 学校のトイレの鏡で自分にうっとりしてたら友達失くすよ』
「してねぇよ!」
『私は心配してよく響湖に相談したもんだよ。春樹は大丈夫だろうか、あの子はちょっとアレじゃなかろうか、自分は世界一可愛いという妄想は止まる所を知らないようだがまともに育ってくれるだろうか』
「世界一可愛いのは妄想じゃなくて事実。ていうか春樹の笑顔は国家予算を超える値打ちっていっつも言ってたのは母ちゃん」
『梅干送るよ』
「いらねぇよ!」
『お風呂沸いたから入る。じゃあね』
ケラケラと能天気に笑いながら母ちゃんは電話を切った。そういえば俺も風呂を沸かしていたんだと慌てて風呂場に急行したが、湯加減は丁度良かった。
梅雨が明けてから一気に太陽が気合を入れてきたので、日中はじっとしているだけで汗が出る。学校にいる時はクーラーが利いているので寒いくらいなのだが、外に出るとそのギャップでかなりキツイ。しかしそもそも夏は好きだし汗をかくのも好きだから、俺は登下校の自転車こぎこぎや屋上でのんべんだらりんやなんかをとっても楽しむし、そうやって汗をかくから夏場に風呂に入るのはとても気持ちが良い。
つまり俺はそういう気分で風呂に入り、爽快な気分で風呂あがりのビールを飲み、テレビをダラダラと見て永司に電話をして日記を書いてクーラーを利かせてベッドに潜り込んだ。
懐かしい曲が聞こえた。
テレビをつけっ放しで眠っていたらしい。室内の温度が低すぎて体温が下がっていたので、重い腕を伸ばして枕元のリモコンで温度を調整し、テレビも消した。
今何時だろう。気になったけれども、確かめる気にはなれない。目を閉じてうつらうつらとしていると、誰かの声が聞こえてきた。外からじゃなく、内側から。俺はその声に耳を澄ましている。
「お前は全部知りたいんだろう」
何かの拍子で再生ボタンを押してしまったかのように、それは突如始まった。
いつだったろう。7歳になったかならないかくらいか。
その時住んでいた家は俺が暮らした家々の中でも三本の指に入るほど古い日本家屋で、その上鼠やらイタチやらタヌキやら猿やらが毎日顔を出して平気で庭をうろつくような集落からかなり引っ込んだ場所に立っていた。家の右手には山があって、その山の麓には小さな墓地があった。陰の多い山だったが、それは嫌悪感を抱く陰ではなく、俺にしてみればただどこか古い匂いを感じさせるものだった。姉ちゃんはこの山をあまり好んではいなかったし、母ちゃんも好きではなかったと思う。
俺はある日、一人でそこに登っていた。どういう理由でそんな所をうろついていたのか覚えてない。田畑を横断して麓の墓地に行くと、そこには脇に地元の人が使う山道があって、そこを何らかの理由があって、もしくは何の理由もなしに登って行った。丁度今くらいの季節だったろう。蝉の声が頭上から降ってきて、随分と騒がしかった。
自分で持ってきた麦茶が入った水筒をぶらさげて登っていくと、途中から徐々に山道が細くなって獣道のようになる。坂は急で何箇所かは手を付き岩にしがみついて上るほかはない。汗が目に入る度に服の裾を捲って額を拭き、喉が渇いてしょうがない。それでも俺は黙々と進んでいく。
途中で何度か休憩したが、まるで目的を持って行進を続ける昆虫のような純粋さで俺は山を登って行き、そしてついにそこに到着した。
そこは天狗岩と呼ばれていた巨石だった。かなり離れた場所からも見えるほどの大きさで、山の中腹にある。何故か誰も近寄らず子供達でさえそこの話題は避けたし、もしかしたら俺も危ないから近寄らないことと、母ちゃんから注意を受けていたかもしれない。
しかしその時、俺はそこに行った。巨石は太い注連縄で囲まれており、俺はそれを眺めながら巨石脇の獣道で迂回して登りその上へ立った。山に入ってから余程時間が経過していたらしく、日が沈もうとしていて辺りは重く黄昏ていたが、巨石の上からは夕日に染まった村がよく見えた。西の空は印象的なほど赤く、東の空は駆け足で暗くなろうとしている。
「お前は、海から来たのだろう」
低く歪んだ声に振り向くと、木々の向こうに乞食のような格好をした大男が立っていた。大男というよりは二足歩行の痩せた獣のように見えた。
「お前は俺の顔を思い出せないだろう」
記憶の中のソレが言う。俺は懸命にソレの顔を思い出そうとしているが、確かに思い出すことができない。西の空の美しさは鮮やかに脳裏に浮かび上がるというのに、旋回している鳥達の数さえも思い出せるというのに、山の陰に覆われたソレの顔は暗くてよく見えない。
俺は何か言う。ソレはゆっくりと木々を抜けて俺の方に近付く。注連縄を超えて巨石に足を踏み入れ、俺の隣まで来る。それでも顔は分からない。まるでそこだけ霧に包まれているようで、どうしても見えない。
そして二人で下界を眺める。
「お前は思い出しているだろう」
と、ソレは言う。そして今の俺は、停止ボタンがない装置のように記憶を再生し続ける。
ソレは俺に語りかけ続ける。一方的に、脈絡のないない言葉ばかりで。
俺は何か返事をしたかもしれないし、していないかもしれない。俺の声は全て消去されている。まるで不必要だと言わんばかりの完全さで。
俺達は巨石の上に座り込み、黄昏た世界を眺めている。
世界はどこにも所属しない時間帯に迷い込んでいる。
「お前は何もかもを知りたがっているだろう」
「してないよ」
今の俺が言う。
「お前は分からないことを全部知りたいんだ。不完全な記憶も様々な歪みも」
ソレは立ち上がり、去っていく。
入れ替わりに母ちゃんが息を切らしてやって来る。酷く青ざめていて、汗だくになった身体を緊張させてゆっくりと近付き、俺を強く抱き締めた。母ちゃんの体温をハッキリと感じた。
記憶はそこで停止する。
俺はベッドの中でぼんやりと暗闇を眺めている。
高校最後の夏休みがやってくると、俺は早速バイトを始めた。苅田の親父さんに頼んで肉体労働をしたわけだが、途中から変なバイトもさせられた。
リュックにクソ重い何か入れられて指定された場所をチャリで走り続けるというなんとも怪しげなバイトだった。誰かにモノを渡すわけではないので運び屋ではないみたいだが、とにかく怪しげなので一日目が終わった時点で断ったら、今度は指定された店に行ってふくよかで年配の女性とお茶を飲むというバイトをさせられた。一回一時間半で日に4人もしくは5人とデートらしきことをするのだが、これがまさに天職と思えるくらい楽しかった。俺はホストに向いているのかもしれないと思ったのだが、確かに楽チンだし楽しいし美味いケーキを食えるが、ふくよかで年配の女性に幾度も幾度もホテルに誘われるうちに嫌になった。彼女達は常に極めてふくよかで金持ちで、コチラが軌道修正をかけないと直ぐに愚痴っぽくなるし、自慢話と噂話が大好きだ。放っておくと金の話と他人の噂と愚痴と自慢だけ、まぁたまに思い出したかのように自分の不幸話を延々と喋りまくる。が、コチラが何か他の話を振れば、なかなか面白いことも言う。
中には不思議で楽しい人が幾人かいた。一般人がするような趣味を一通りしたけれどどれにも興味が持てず、最終的に蛸の生態を研究することを趣味にした人や、若い男の子の爪を熱心に集めている人や、ゲームは一切やらないのにゲーム攻略本をひたすら集めている人など。
それから、ブラックポストと名乗る女性。
彼女は俺が会った客達の中で、最も興味深い人だった。ほとんどの客が不必要に脂肪をつけていたにも関わらずこの人だけは随分と痩せていたのだが、あまり良い痩せ方ではなかった。年齢はよく分からないが、それでも他の客達より比較的若いことは確かだった。真夏だと言うのに黒地の薄い長袖のシャツを着ていて、白い手袋をはめていて、品の良い黒色のクロッシュの帽子を目深にかぶっていた。
彼女は他の客達のようにお喋りではなかった。自慢話も愚痴も自分の不幸話も一切しなかったし、そもそも彼女は自分の話をしなかったのだ。きっと自分から発言するのを好まない人なのだろうと思い、俺はとにかく勝手気侭に色々なことを語った。主に学校生活と隣人の小さな友人について語ったように思う。
彼女とだけは三回会った。そしてその三回目に、彼女はとても印象的な話をした。
病的な孤独についての話だった。
「ソレは病みたいなもの。友人がいない、お金がない、愛情がない、幸福がない、理解されない、疎外感。そういう類のものとはまるで違う。ソレはいつも自分の中で自分を見つめている。何をしてもどういう場面でも、自分は決定的に、宿命的にソレを抱えている」
彼女は毎回エスプレッソを頼んだのだが、最後までそれに口をつけることはなかった。アンティーク調の店内の奥には随分と年季の入った良い音を出すスピーカーが置かれてあり、そこからモーツァルトのプラハが流れていた。
「何故生きなくてはならないか。君はその答えが分かる?」
「分からない。答えになる言葉は無限にあるような気がする」
「君はそういう答えを出している。しかし人によっては、もっと確実で納得できる言葉が欲しくなる。でもそんなもの誰も教えてはくれない。誰かがポンと投げて寄越してくれるものではない。本や映画の中から、または人の言葉に耳を傾け、または多くの経験から、様々な言葉を探し出そうとする。その中から答えを見つける人もいる。見つけることができない人もいる」
俺は彼女の話をゆっくりと頭の中に浸透させていく。彼女の声はあまり大きくはない。
彼女は低くて静かな声で続ける。目深にかぶった帽子のせいで目がよく見えない。
「しかし私はそういう人たちと根本的に違っている。私の中に巣食った孤独はそれらを全て消去していく。言葉や経験を、深遠な暗闇が無に帰してしまう。ソレはただ静かに無にしていくだけのもの。何かを経験したとしても誰かの言葉を大切にしようとしても、私の身体の中に入った途端にそれは無機質なものとなる。その意味や温もりは全て失われている。
私は自分以外のものと交じり合うことができない。意味のあるものも意味のないものも消去されてしまうが故に、私はそれらに対して確かなレスポンスをすることができない。周囲の無理解を恨むこともできない。ただ黙って耐え続けることしかできない。孤独は恐ろしく静寂で、確実に生きる糧を消滅させていく」
彼女の話はそこで終わった。
それから、自分の孤独について他人に語るのは初めてだとつけ加えた。夫にも息子達にもこんな話はしていないと。
俺はできるだけ慎重に彼女の孤独について考える。
カランと小さな音がして来客を告げ、イギリス映画に出てきそうな品の良い店内に一瞬だけ外の空気が入り込んだ。そして、まるでこの店にそぐわぬという理由で断固として拒否されたかのように、生ぬるい空気はすぐに消えた。
「孤独によって他者だけじゃなく、あらゆるものの繋がりを失っていく」
俺は彼女の話を注意深くまとめて口に出してみる。
彼女はゆっくりと頷き、帽子を取って俺を真正面から見据えた。
どこかで見たことがあるような顔立ちだった。とても整っていて美しい人ではあるのだが、どこにも表情や感情がなく、威厳のある貴婦人の肖像画を見ているような錯覚を覚える。
そして、最も印象的なのは瞳だった。なんとなく予想はしていたことだったが、彼女の瞳は恐ろしく深かった。濁りもゆらめきもない。それは彼女が抱え込んだ孤独を具現化したもののように思えた。そして俺は、その瞳をどこかで見たことがあった。
お盆に入るまでに少し遊び、お盆に入ってからもう一度何かバイトを斡旋してくれと苅田の親父さんに頼み込むと、「高校生活最後の夏休みにするバイトとしてふさわしいバイトだ」とか言いながら苅田拳骨は、心霊スポットとして有名な県境にあるダム湖の畔に泊まりこんで本当に幽霊がいるのかどうか調査をするという、もう本当によく分からないバイトを斡旋してくれた。
調査は三日間。寝起きは湖畔のコテージ、夜に最低一度は近くのトンネルを調査すればあとは何をしても構わないという、給料を貰うのを躊躇ってしまいそうになるバイトだったのだが、まぁ楽しそうだったので引き受けた。誰かを呼んでも構わないとは言われたのだが、苅田と緋澄は揃って海外、砂上は夏期講習、真田は帰省中、暁生は依然行方不明なため、結局最後まで一人きりだった。人里離れた山奥のコテージで永司と二人っきりで夜を過ごすことは、今の俺にはまだできないからだった。
給料分は働こうとトンネル調査には日に3度赴いたが、まぁ多少は不思議なことはあるにはあったが、幽霊が出てきて嫌がらせをされたり泣かれたり大説教されるということはなかったので、これと言って特に報告はしなかった。
そのバイトが終わると、悔いの残らないよう精一杯遊んだ。
まず、帰省中の真田の部屋に忍び込んで、部屋中鉢植えの朝顔で一杯にしてやった。元々の真田のコレクションである「工事現場にある物」…カラーコーン・立ち入り禁止テープ・危険物標識ステッカー・非常口標識・安全標識…等やエロ本やなんかが散乱しているので、真田の部屋は大変なことになった。だからとても楽しかった。真田はモグラさんの絵がついた工事現場看板が好きなようでそれを好んで集めているようなのだが、俺も欲しくなったので一個勝手に貰って帰った。
それから「青少年更正委員会」という腕章を永司に作ってもらい、それをつけて夜の街を徘徊するという行為が俺の中で2日間ほど大ブレイクした。とにかく徹夜で若者が多そうな場所を徘徊しまくり、喧嘩が起こったら止めに入るという遊びだった。これは楽しかったのだが、永司が物凄く嫌がることと、思ったよりも喧嘩の現場に立ち寄れるチャンスが少なかったことが原因ですぐに止めてしまった。
高校野球決勝戦の日、俺は久しぶりに一人だけで永司のマンションへ行った。部屋の中は何も変わっておらず、俺は猫と遊びながら高校野球を見た。室内の温度は丁度良くて、ビールは冷えていて、永司は俺の隣にいて、夏の日差しが差し込んでいて、蝉の声が聞こえて、猫が背伸びをしていて、問題なんて全然なかった。
でも何だか泣きそうになった。何故かは分からない。
「永司はどっちを応援してる?」
俺は涙ぐんだまま自然な口調で、隣で高校野球を見ている永司に訊ねてみる。
「深海春樹と俺」
と、永司は言う。
俺は笑う。
「春樹はどっちを応援してる?」
と、永司は言う。
「岬杜永司と俺」
と、俺は言う。
永司は楽しそうに笑う。
夏休みが終わるまで俺達は健全に遊んだ。毎日永司と会い、毎日どこかに行き、毎日汗をかいて毎日自分の部屋に戻って日記を書き一人で眠りについた。
クタクタになるまで遊ぶのは楽しかった。明日は何をしよう、明日はどこに行こう、そういう計画から楽しかった。
ただ、時々無性に泣きたくなった。永司は隣にいる、永司は隣にいる、永司は隣にいる。毎日毎日俺は永司の隣にいるし、永司は俺の隣にいる。
腹の底から何か叫びたい。
でも何を叫べば良いのか分からない。