一楽のラーメンはクリスマスにだってイルカを救う・前篇


 サンタを信じる子供は「今年の贈り物は何だろう」という期待及び「今年こそはサンタを目撃するんだぜ?」という抱負に目を輝かせ、サンタの正体を知る小賢しい子供は血走った眼でオモチャ屋の広告を凝視しては両親という名のサンタが必要経費として算出した金額を如何にギリギリのラインまで使わせるのか必死になって熟考し、思春期の少年少女は「あの…高田先輩、これ……」とか何とか言って手編みのマフラーを作ったり貰ったりするのに忙しく、子がいる大人は単なる年内行事をまぁそこそこ楽しみ、老人どもは孫達にクレジットカード扱いされるがまぁそれはいつものことでどうでも良く、それ以外の人間の多くは物凄い勢いで自分の股間を洗って勝負パンツを穿く日。
 一文が異常に長くなったが、天才忍者はたけカカシのクリスマスにおける認識はそういうものだし、その認識はあまり外れてはいないはず。だって俺、天才だし。
 そして木ノ葉のクリスマスもまた一般人と大して変わりなく、まぁ運悪くその日に殺伐とした任務に当たる場合もあることはあるが、それでも大抵はそういった、つまりは無垢な子供とか股間を物凄い勢いで洗う大人で占められている。はず。だって俺の周りにだけ股間を物凄い勢いで洗う人間がやたら揃ってるだけ、とは思えないし。
 だがしかし、今年の俺は去年までの俺とは違った。股間を熱心に洗って来た女どもをよりどりみどりして、あっちを喰いこっちを喰らい、さてさて一晩で何人の綺麗に磨かれた股間の間にズボズボできるかな?なんていう、去年までの俺とは違った。更に言うのであれば、木ノ葉の忍の多くがそんな健全なクリスマスを送ることができないでいた。
 語ろうではないか。
 ていうか聞いて。お願い聞いて。皆がどんだけ大変なことになっちゃってるか聞いて。
 そんで――何で俺が戦場を抜け出した挙句に写輪眼全開にして、今こうして一楽の屋根裏に潜んでいるか、聞いてよね!!



 世の中の人間がいかに浮かれていようとも、戦争ってのは勃発する時は勃発しちゃうものなんです。凄く迷惑だけど、火山がドッカーン!ってなっちゃうのを誰も止められないように、戦争もまたドッカーン!って勃発しちゃうんです。誰かのせいにするのはとても簡単だけど、とにかくそれは運命のようにドッカーン!となるのです。
 で、戦争が起これば俺達忍の出番。招集された俺達は年末に起こった国単位でのイザコザを一気に片付けてクリスマスには里に戻って磨かれた性器で性夜を楽しもうと、そりゃー気合いが入っておりました。やる気満々でした。主にクリスマスイブの夜に向けて気合い満々だった気がするけど、とにかく頑張って戦さ働きにも精を出しておりました。
 しかし戦争勃発から間もなくして、夜な夜な小さな子供が泣きながら戦場になっている野原をウロつくという噂が立ちました。怪奇現象です。でもまぁ戦場ではよくあることです。
 そういう場合、俺達忍は敵味方力を合わせて成仏できない霊を慰めてあげるのが通例になっております。だって大抵は俺達のせいだからね、ごめんね、成仏してねってちゃんと弔ってあげるわけよ。だから俺は敵方に話をつけて、一晩だけ休戦条約を結んで合同で弔いをしようってことにしたのです。その子供の幽霊がどっちの里の子か分かんないから、こういうのは合同でやっちゃった方が二度手間にならなくて良いからね。
 で、その晩に俺達木ノ葉の精鋭…主に霊的な意味で…と向こうの精鋭…主に以下略…がその噂の場所に行くと。
「ぶえええええ、どゎーめんんん! どゎあめんだべだいいいいい」
 って、確かに泣き喚いている子供の声が……。
 
 YES!はんぺいた!

 俺、鳥面、兎面は即座にはんぺいたに駆け寄り、無事その身柄を確保したんです。敵方にも「すんません。うちの下忍でした」って謝って、迷惑掛けたから菓子折り包ませてそれを渡しましてね、事なきを得たのです。
 その後シオ上忍の元まで彼を連れて行って話を聞いてみると、俺のはんぺいたは手持ちのインスタントラーメンが底を突き、毎日泣き濡れているってことが判明しました。これはいけません。俺のはんぺいたは無類のラーメン好きですし、彼の内臓はラーメンを食べるためにそこに納まっているのだし、そもそもはんぺいたの成分の約80%はラーメンで出来ているのだし、このままでは俺のはんぺいたはラーメンが足りなくて瀕死になって俺も瀕死になって木ノ葉は壊滅して地球が爆発します。地球の危機!
 俺は上忍及び暗部を招集して緊急会議を開き、俺、鳥、兎の三人がかりで如何にあの子にラーメンが必要なのかを滔々と語り、インスタントラーメンを是非早急に支給するよう手筈を整えてくれと嘆願しました。全ては俺のはんぺいたのため、木ノ葉のため、地球のため!
 しかし戦場から木ノ葉へ「至急、ラーメン求む」って式を飛ばしても、すぐにはやって来ません。木ノ葉は遠いしここは戦場です。どうしても時間はかかるのです。
 はんぺいたはラーメン欠乏症が酷くなり日に日に己を失って行きました。様子を見に行ってもいつものような可愛い笑顔は見られません。ぼんやりとした目でへたり込み、「おっちゃん、ラーメン一丁。大盛りで」とか「今日は一段と良いダシが取れてるねぇ」とか「ギョウザサービスしてくれんの? やったぁ」とか、ぶつぶつと呟いているだけなんです。見ていられませんでした。
 それだけではありません。「今日はどこのラーメン屋に行こうかなぁ」って言いながら夜な夜な戦場をうろついては見回りの者に保護され、時には「お宅の下忍、またこっちまで来ちゃってたよ」って敵忍に送られる始末。俺達木ノ葉はその度に「毎度ご迷惑をおかけします」って菓子折り持って行く始末。
 でもね、あまりに不憫に思ったのか、一度敵方がインスタントラーメンを作ってやっちゃったのよ。はんぺいたは大粒の涙を零しながらそれをたいらげたらしいけど、それからが酷かった。
 ラーメン欠乏症で正常な判断ができなくなっているはんぺいたは、あろうことか、敵陣のずらーっと並んでるテントを、全部ラーメン屋だと思い込んでしまったのよ!!
 とにかく、腹が減ると敵陣に行こうとする。止めても止めても、「いや、俺ラーメン食べに行くだけだから」ってほがらかに笑って取り合ってくれないの。セツコ、それラーメン屋とちゃう!って皆で止めても行こうとするの。はんぺいたにとって敵陣は魅惑のラーメンランドみたいにインプットされちゃったの!
 敵も敵で「あの子、うちに欲しいな」とか言いだすし、はんぺいたを見掛ける度に「ラーメンあげるから、こっちにおいで」とか言いだすし、はんぺいたはホイホイ付いて行こうとしちゃうし、本当に大変だったんだから!



 それでもね、こっちにラーメンが届くとはんぺいたも若干の落ち着きを取り戻しました。
 様子を見に行っても元気にラーメン雑誌を読んでいたり、元気にラーメンを食べていたり、元気にラーメンが入った支給箱を漁っていたり、元気にチョロっと働いていたり、元気に持参のラーメン丼を洗っていたりしてました。だから俺達も安心して戦争してました。戦っている時に「あの子、最近見ないけど元気?」とか訊かれたりしちゃったけどね。て言うか俺のはんぺいたを狙う奴が多すぎ! 俺おかんむり!
 でも、そんな日々も長くは続かなかったの。
 ある日の夜、またやって来たのよ。敵が。泣き喚くはんぺいたを抱っこして。
「なんで俺のはんぺいたをそうやって抱っことか俺もしたことないのにちょっと止めて止めて俺のはんぺいた!」
「カカシ落ち着け。それよりまたその子がご迷惑をおかけしたようだな」
 兎面がそう言ってさりげなく敵からはんぺいたを貰い受ける。のは良いけど何でお前まで抱っこ! ぶっ殺す!!

「今回はラーメンを作ってやっても泣きやまなかった」
「はて、どういうことであろう」
「ところでお前等の里には禿げに効く薬はあるか?」
「いじらぐー、いじらぐー、と言って泣いている。いじらぐ、とは何だろうか」
「うむ、それなら一楽のことだ。この子が好きなラーメン屋だ」
「あるにはある。しかし完成品ではないぞ。持って来てやろうか」
「そのラーメンを恋しがっているのか。憐れな」
「ここは戦場だし、一楽のラーメンを再現するのは不可能だろう」
「是非持って来てくれ。今すぐ!」

 若干話が意味不明になっているのは、鳥面のせいですからあしからず。
 そんな会話を繰り広げ、俺達ははんぺいたを受け取って今度どうすべきかを協議しました。夜な夜な戦場をうろつき、一楽を求めるはんぺいたは見るに堪えないという見解は一致しておりました。それに毎日インスタントラーメンではいくらなんでも身体に悪いという意見も一致しておりました。
 で、その協議の結果。

 俺達ははんぺいたのために、ラーメンを作ることになったのです!!!

 お仕事ですから戦争しなくてはなりません。しかし戦っている時以外はラーメン作りに専念しました。敵方は主に麺を担当です。製麺です。小麦粉からです。特殊な術を使って真冬だと言うのに小麦を育て、鶏を飼って卵の確保に勤しんでおりました。戦っている時も「はんぺいた畑」と看板が掲げられた畑には侵入しないように条例も作りました。勿論そこにいる鶏も獲ってはいけません。そうやって麺を作り、麺を作ってははんぺいたに「湯切りが甘い」とブツブツ文句を言われておりました。
 俺達木ノ葉はスープ担当です。ラーメンのスープなんて作ったことはないから、と言うかそもそも豚の確保が難しい。イノシシでスープを作ったら「けものくさい!」ってはんぺいたに叱られるし、ちょっとでも味が濃いと「濃厚なスープとただ味が濃いだけのスープは一緒ではない!」って説教されるし、本当に大変でした。
 もうわけが分かりません。戦場は混乱を極めました。皆が皆、性夜までにどーのこーのとか言う当初の目的など遥か彼方、しかもやや後方にすっ飛ばしておりました。
 そして五度目のラーメン試食会の時、兎がこう提案したのす。

「これでは埒が明かぬ。カカシ、ちょっと一楽に行って写輪眼でスープの作り方をコピーして来い」

 ナイスアイディア!
 兎、良いこと言いました。今コイツ、良いこと言いました!

「幸いもうすぐクリスマスだ。クリスマスプレゼントとして一楽のラーメンを贈れば、はんぺいたも喜ぶぞ」

 鳥面も良いこと言いました! はいコイツも良いこと言いましたよ! 今日日記に書いておいてやるよ!
 因みに鳥面は禿げに効くという敵方の未完成の薬を使い、今はアフロです。未完成品だったから仕方ないんだけど、あろうことかアフロです。しかもテッペンが若干凹んでる、アフロにしてもやっぱ禿げなんじゃん!って突っ込まざるを得ないアフロです。でもそっとしておいてあげて。今の鳥面は頭部に関しては猛烈にナイーブになっちゃってるから、そっとしといてあげて。


 とにかくそんなこんなで、俺は一度里に戻ったのです。
 そして昨日から一楽の天井裏に潜み、こうしてずっと写輪眼を全開にしているわけなんです。


 写輪眼で一楽のスープの作り方をコピーし、豚を確保して戦場に戻る。そして一楽のラーメンを再現し、はんぺいたにそれをクリスマスプレゼントとして贈ってあげる。
 きっとはんぺいたは喜ぶよ。泣いて喜ぶよ。もしかして俺に抱きついちゃうかもしれないよ! それどことかホッペにチュってしてくれるかもしれないんだからね! うっとりとした目で俺を見上げ、そっと瞼を閉じるかもしれ……いやいや違う俺それはいきすぎ、妄想いきすぎ。落ち着け俺、ほっぺにちゅ、までは良い妄想だけどその後は駄目。はんぺいたは男の子。
 俺は何故か妙に興奮しながらも、写輪眼を回し続ける。テウチさんには悪いけど、大体のことは分かった。あとは豚を背負って戦場に戻り、はんぺいたにチュってしてもらうだけ!
 はんぺいたのチューが待っている! 俺を待っている!!!
 うおおおお、持ってて良かった写輪眼!!!


 novel  next