なんか良く分かんないけど、その場にいる者全員で荷物の点検が行われた。
敵はシオ上忍師と残り二人の荷物チェック。俺達ははんぺいたのリュックの中のチェック。
「早く探さないと、この上忍師の命がやばいんだからな!」
敵のリーダー格が自分の無能っぷりを棚にあげてそんなことを口走るもんだから、はんぺいたは焦ってしまってリュックの中をひっかきまわし始めた。ちょっと待って、はんぺいたはお荷物の整理整頓ができない子みたいで、ただでさえリュックの中クチャクチャだから、そんなことしたらもっとクチャクチャに!
「小僧、お前は大切なものを預かっているはずだ。それを俺達に渡すんだ。上忍師の命は今、お前が握っていると思え」
「シオせんせーっ! レンゲ、ネギ! 俺はみんなを助ける!」
焦るなはんぺいた! 泣くなはんぺいた!
それから、一度リュックの中を全部出そう? そうやってグチャグチャにすると俺達もちょっと中身の点検しにくいからさ。
「あった!! 俺の一番大切なものを渡すから、みんなを解放しろぉおお!」
はんぺいたはそう叫びリュックの中から一枚の紙切れを取り出すと、いかにも「最高潮に断腸の思いで手放すぞ!!」みたいな猛烈に悲痛な顔をしてそれをシュッと敵に向かって投げた。
って、巻物じゃなかったっけ?
「一楽ラーメン、半額券。なんだこれは?」
やっぱり!
もう超やっぱり!
「ねぇちょっと待って。怒らないで聞いて。この子色々ラーメンな子だから、俺達が巻物探すから、もうちょっと待っててくれない? あとその半額券、この子にとったらすっごく大切なものだから、破らないでね?」
「あった!! これは大切だから絶対これだ! シオ先生とネギとレンゲを返せ!」
いや、シュっと投げ渡す前に俺達が確認をぉおお!!
「一楽ラーメン、チャーシュー無料券?」
いやだから、今俺交渉するから! ちょっと待ってってば!
「一度リュックの中身を全部出してみよう。それから俺達が判断するよ」
兎、良いこと言った。はい、良いこと言いました。つかそれ、俺が言おうとしてたことだからさ!
焦るはんぺいたを宥め、混乱する敵を落ち着かせ、俺達は巻物を探す。
「おい、任務に『月刊各里ラーメンランキング』を持って行ってはいけないぞ?」
いいの! はんぺいたはいいの! ハゲは黙ってろ!
俺ははんぺいたのリュックから、おやつのラーメンスナックを取り出す。わ、おやつのラーメンスナックの数が多すぎ! さすが俺のはんぺいた!
「大切なもの、また出てきた」
焦りつつもどこか誇らしげにそう言って見せてくるそれは、勿論一楽のライス無料券。それ違うから。それ大切だろうけど、やっぱり違うから。ごめん!
「何故任務にラーメン雑誌を五冊も持って行くのだ。こういうものは、任務に持って行ってはいけないぞ」
「ごめんなさい……」
うっさいの。鳥は余計なこと言わなくて良いの。はんぺいた、しゅんってなっちゃったじゃないのこのばか!
次々にリュックの中から取り出される、はんぺいたのプライベート的持ち物を、俺達は綺麗に草の上に並べて行く。
ラーメン雑誌五冊。
おやつのラーメンスナック七袋。
おやつのラーメンを作るための鍋、食べるための箸。
その、おやつラーメン用の小さいインスタントラーメン。
コショウ・一味唐辛子・ごま。
着替え・歯ブラシ・歯磨き。
「あれ? またお箸が出てきたね」
「うん、万が一のために、ストックがあるんだよ」
「えらいねー。ストックをちゃんと持ってるなんて、えらいねー」
俺はそう褒めながらおやつのラーメンスナック八袋目を取り出す。
「このタッパの中身は、なんだ?」
「高菜だよ」
「そうか」
そうか。じゃないよ。もっと褒めなさいよ! 兎ってクールすぎてつまんないのよね。でもいいの。その分俺が褒めてあげるからね。
俺は兎を睨みつつ、各里人気ラーメン店セット応募ハガキを取り出す。
「これは、レンゲの乾きニンニクなんだ。レンゲは女の子だけど、ニンニクが好きなんだよ」
「そっかー。でも味噌ラーメンにニンニク入れると美味しいよね?」
「とんこつにも合うよね」
ほがらかな会話を繰り広げつつ、俺はリュックの中から『スーちゃんラーメンのスーちゃん人形』を取り出して草の上に並べる。まだまだ出てくるはんぺいたの四次元リュック。これは新しい術なんじゃないの?って思っちゃう。だってラーメンスナック九袋目が出てきたんだもん。
ああ、今度は『保存版! このラーメンが凄い』ってハンドブックまで出てきたよ。ああ、更にはラー油まで出てきちゃった。餃子に対しても妥協を許さないはんぺいたのその気概がすてき☆
「大切なもの、またもや出てきた!」
えっへんえっへんと胸を張って差し出してくるはんぺいたの目からは、もうすっかりシオ上忍及びその他二名のことは消えてしまっている。
この子はあれだな。自分のリュックの中に何が入っているのか自分でもちゃんと把握してなくて、今こうして、ザクザクとお宝が出てくる自分のリュックの点検が楽しいんだな。綺麗に草の上に並べられる自分のお宝が誇らしいんだな。ああ、手拭まで一楽の手拭だ。すごいすごい。
因みに今はんぺいたが見つけた「大切なもの」は、やっぱり一楽の「半熟たまご無料券」だった。大切だねー。
「まだか? こちらにはないようだが」
「もうちょっと待っててー」
敵忍に返事をしつつ、リュックの点検を続ける。うわ、兵糧丸ラーメン味ってなにこれ。ちょ、粉末ラーメンスープの素が大量に出てきたぞ! うわ、今度は全国ラーメン博覧会のチケットの半券。ああ、各里のラーメン屋のレシートや箸袋までも。ああ、記念なんだねぇ。
「ないね」
リュックの中身を全て草の上に出し終えた兎が、疲れた声でそう言った。
「リュックの横ポケットは?」
「生ネギが突っ込んであったぞ。あとは簡易まな板だ」
頭皮に浮かんだ汗を拭いつつ鳥がそう答える。
「反対の横ポッケは?」
「砂の里、お土産用じゃりじゃりラーメン三食だ」
お土産買ったんだね。と、兎の返事に俺は頷く。
「ねぇ、巻物、ないかな? シオ先生から、預かってないかな? さっき、俺持ってるかも!って言ってたじゃない? あれ、どこにあるか、覚えてないかな?」
俺が優しく優しくそう訊ねると、はんぺいたは腕を組んで小首を傾げた。ちょっと唇を尖らせて、目線を斜めに上げて、コテンっと小首を傾げるはんぺいたは、多分世界で一番かわいい。多分じゃなくて絶対世界一かわいい。
「……分かんない」
「そっか。じゃあ仕方ないよね」
仕方ないよね。分かんないんだもん。俺のはんぺいたが分かんないって言うんだもん。
「おい、いい加減にしろ! この男を殺すぞ!」
敵がシオ上忍師の首元にクナイを突き付けたので、和やかにリュックチェックを行っていた俺達に緊張が走った。
「シオせんせーに手を出すな!」
はんぺいたの悲痛な声が森の中にこだました。くそ、巻物はどこだ! はんぺいたを泣かすなこの馬鹿!
「巻物はどこだ!」
「シオせんせーから手を離せ!」
「巻物を出さないとこの男の命はない!」
「シオせんせーーっ!」
「この、一楽ラーメン半額券も、破り捨てる!」
「ドゥッたらすんだウガボんぐぐぐぐぼがぁあああァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
はんぺいたの魂の叫びに、敵忍すらも一瞬怯んだ。
でもなに言ったのかよく分かんなかった!
「い、良いのか! 早く巻物を渡さないと、この一楽ラーメン半額券が破れて無効になるぞ!」
「ドゥッどルゥどぐヮァアアッッッ!!!!」
「はんぺいた! とりあえず意思疎通可能な言語で喋って!」
全身全霊で地団太を踏んで抗議するはんぺいたにそう言ったけど無視された! しかしそれにはめげず、俺は鳥と兎に目配せをする。巻物見つからないし、シオ上忍の出血はやばいし、このままでははんぺいたの半額券が危険だ。半額券にもしものことがあれば、はんぺいたは何をしでかすか分からない!
暗部三人で頷き合ってよし動こうとしたその時――
「ドゥアーメン半額券ガエせえええええええええ!!」
一楽ラーメン半額券の危機に激昂したはんぺいたが特攻をかけた!
ほとばしるラーメンへの熱き想い! 熱い! 相変わらずはんぺいたは熱い! って俺、感心してる場合じゃない!
シオ上忍の首元にクナイを突き付けている敵忍に手裏剣を放ち、俺は瞬身を使って一気に距離を縮める。鳥と兎も動き、瞬時に敵忍を二人を倒した。ていうか最初からこうしてれば良かったんじゃ……みたいなツッコミが俺の脳内を駆け巡ったが、そんな今更なこと言ったって仕方ないデショ!
俺も一人倒す。しかし最後の一人が、突っ込んで来るはんぺいたを捕獲しようとした。
「はんぺいた、伏せて!!」
俺はそう叫んで火遁の印を結び、術を発動させ……ようとした。
「え?」と、立ち止まるはんぺいた。
「え?」と、はんぺいたのキョトンとした顔につられた敵。
「え?」と、更にそれにつられた俺。
はんぺいたはキョトンとした顔のまま周囲を見渡し、ちょっと不思議そうな顔をしつつ手でメガホンを作り、後ろを振り返って言った。
「はんぺいたさーん、伏せてーー!」
ちょ、ちょっと意味分かんない!
術を発動しようとしたままおよそ五秒くらい固まっていた俺は術をどこに放ったら良いのか思案した挙句、とりあえず空に向けて火遁を出した。なんというチャクラの無駄遣い!
しかしすぐさま兎が最後の一人を倒したので、事なきを得た。ラーメン半額券も鳥が無事に取り返していたので、はんぺいたが暴れることもなかった。
シオ上忍も出血を止めれば何とかなりそうで、残りの二人もただ失神してるだけだった。
俺、あんまり活躍できなかった気がするけど、天才エリート忍者のはずなのに、なんかイマイチだった気がするけど、でも「最後の火遁凄かったね」ってはんぺいたに言われたから良しとする。「天に放った火遁にどんな意味が」と鳥に突っ込まれたけど、俺は笑って鳥の貴重な髪の毛を二本抜いてやっただけという寛大な処置に終わらせた。
はんぺいたが無事ならそれで良い。
里に戻るとシオ班の三人を病院に連れて行き、俺達は一楽に行った。
話を聞くと、今回のはんぺいた達の任務は、やはり巻物のお届けだった。その巻物の行方が分からないんだけど、シオ上忍が目覚めたら訊いてみれば良いだけのことだよね。
はんぺいたがへろへろの式を寄こしたのは単に焦っちゃっただけみたいで、彼に大した怪我はなく、とても元気にラーメンを食べていた。奢るよって言ったら大喜びでラーメンの替え玉もしていたし、ギョーザにライスもつけていた。大きな口を開けてもりもりとラーメンやらギョーザやらを食べるはんぺいたは、世界で一番かわいかった。
世界で一番幸せなのは俺です!って顔をしているはんぺいたは、本当に世界で一番かわいかった。
「ごちそうさまでした!」
店を出ると彼は元気に挨拶をする。
なんて良い子なの! ぺこんと頭を下げて俺に向かってそんな笑顔を向けるとかもう駄目。俺、毎日でもはんぺいたにラーメン奢っちゃいたくなるっ。
しかし、ぺこんと頭を下げたはんぺいたの懐から、巻物がひとつ零れ落ち、コロコロと転がった。
「おっと危ない危ない。俺、今回の任務でシオ先生にこれ預かってたんだ。そろそろお前達も一人前の忍者として扱ってやるからなーって。これ、失くしちゃいけないものだから、ちゃんと持ってないといけないんだって」
へへっと笑ってはんぺいたはそれを拾う。そしてまた懐の中にしまった。
俺と兎と鳥は、もう何て言って良いのか分かんなかった。
「暗部さんたち、奢ってくれてありがとう! んじゃ俺、帰る。ばいばーい」
機嫌良く手を振るはんぺいたに、俺達は慌てて手を振り返す。
「はんぺいた、またな」と、鳥。
「はんぺいた、気を付けて帰るのだぞ?」と、兎。
「はんぺいた、ばいばーい!」と、俺。
するとはんぺいたはキョトンとした顔のまま周囲を見渡し、ちょっと不思議そうな顔をしつつ手でメガホンを作り、後ろを振り返って言った。
「はんぺいたさーん、ばいばーい」
最後までちょっと意味分かんない!
でも俺ははんぺいたが大好きなのです!