俺だって好き好んで天才やってるわけじゃない。と思う。多分。
仕方ないデショ。俺の父親ははたけサクモよ? 木ノ葉の白い牙と恐れられた天才忍者が父親で、尚且つ色々あって写輪眼持ってて、あまつさえ師は四代目火影。もう天才でもしょうがないじゃない。天才じゃなかったら逆におかしいじゃない。
なーんて俺は思ってるわけですが、そんな俺が気に入らない連中もいるんだなこれが。
例えば目の前のこの人たち。
「エリートだか何だか知らねぇが、調子に乗るなよ」
知らねぇって言われても、俺は実際エリートです。自分で言うのも何だけど、本当のことだからしょうがない。
「他人の写輪眼で天才気取るな」
写輪眼なくても天才なんだけどね。ほら、6歳で中忍だし。
里までもう少しなのに何でこんなことやってんだろうなとか、今晩は秋刀魚食べたいなとか、あ、シャンプー切れてたなとか。ま、そんなことを考えていたわけ。
そんな俺の態度を見て、ますます怒りを露わにしてる目の前の人たち。
暗部。
先輩。一応ね。
そりゃ気持ちは分かる。十代の若造にコケにされたら誰だって頭にくる。だが残念なことに、今回の任務は実際俺の方が正しかった。そりゃ勝手な行動取ったけど、俺がいなけりゃアンタたち死んでたじゃないの。
助けてやったのにこの仕打ち。なにそれありえない。
俺はふかーーく溜息を吐いて、辺りを見渡した。七人。囲まれちゃったなー。味方に。
天才ですけどまだまだ若造だし、七人の暗部相手に一人で太刀打ちして無傷でいられる程の実力はまだない。多分ね。
しかし猿面。
いや猿面と猫面か。
この二人、いつも隙あらばと俺のケツ狙ってくる奴らだから、大人しく制裁を受ける気にもなれない。
困ったね。やるしかないかな。でもそうすると、ここにいるみーんな、俺を含めたみーんんな、揃って医療班の世話になって火影様にド叱られるハメになるんだけど。
良いのかなー?
と、そんなことを思っている時、その式はやって来た。
へろへろ、へろへろ、と。
へろへろ、へろへろと、随分不細工な鳥が里の方に向かって行く。不細工というよりもあまりに悲壮なそれは、里方面へ飛ぼうと必死で、たまたまその通過点にいた俺の方へやってきた。
まるで俺に向かって飛んでくるようなそれを、俺はひょいと捕まえる。
例え下忍でもここまでは酷い式は作らない。
こんな悲壮な式を飛ばしているということは、チャクラが上手く練れない、もしくは印が上手く結べない状況にある、という証拠。かなりヤバイ状態ですということ。
「あのー」
「随分余裕だなカカシ」
「里の仲間のピンチだーよ」
「自分の心配をしたらどうだ?」
何を馬鹿なこと言ってるんだ。
印を結び式を読み解くと、俺は駆けだした。
が、すぐに囲まれる。
「いやだから、仲間が助け待ってるって。この式見れば分かるデショ?」
はーーと深い溜息を吐いて、頭をガシガシと掻く。
馬鹿なの? と言いそうになったけど、それは我慢した。
「ねーちょっと。俺への不満はまた後で聞くからさ、まずは里の仲間を助けよーよ」
一応提案してみたけど、先輩達はジリジリと間合いを詰めてきた。
えー、見捨てるの?
この式飛ばして来た子、見捨てるの?
ちょっとムっとしていると、またやって来る。
へろへろ、へろへろ、と。
その式の悲壮さったらなくて、一応里に向かって飛んでるんだけど、本当に里へ無事に着くかどうか分からないくらいだ。
式を無視する猫面の横を通り過ぎ、それはへろへろとまた俺の元に飛んでくる。いや別に俺に向かって飛んできたわけじゃないだろうけど、とにかく何故か俺の所にやってくる。
またひょいと捕まえると、その隙を狙って三人が飛ぶ。
ま、俺は印を結んで式を読み解きながらそれを躱すわけですけど。
「カカシィイイイ!!」
「はいはい」
俺はかるーく返事をしながら移動を始める。
ふたつの式に酷い字で、班名、敵忍と遭遇、シオ先生がやられた、はやく医療班を、などと書いてある。あとは場所。ここからだとかなり近い。
先生、とあるから、この子はきっと下忍だ。DランクかCランクの任務の帰り、もしくは行きに運悪く会敵し、上忍師がやられたのだろう。上忍師が敵忍を殺したかどうかは書いてないが、どっちにしろこの式からするとこの子も相当マズイ上、この子の式しか飛んでこないということは、最悪、生き残っているのはこの子だけかもしれない。
移動しても囲まれる。
うざいので印を結んで口寄せして忍犬達を呼び寄せた。
「ありゃ? カカシ、敵はどこじゃ」
「パックン、悪いけどこの先輩達どうにかして?」
そう言うと、パックンはさっきの俺みたいにふかーーく溜息を吐いた。
俺は悪くないんだけどねぇ。
森に入るとカンカンと音がして手裏剣が足元の枝に突き刺さる。止めてよね危ないなぁ。当たらないけど。
パックン達のおかげで囲まれずにはすんでるけど、腐っても暗部、七人揃ってぞろぞろと追ってくる。
パックン達、誰か一人でも良いからまともに足止めしてくれないかなぁ、なんて思いながら俺はスピードを上げる。
「カカシィイイイ!!」
「はいはい」
暗部の馬鹿達の馬鹿デカイ声が森の中にこだました。
先輩達、たまには役に立つじゃない。
敵忍がまだいてこの式の子がまだ生きてて隠れてたら、この馬鹿達の声で敵忍の意識はこの子から逸らされる。馬鹿がそれぞれ俺の名を呼ぶので、複数だと分かるはずだ。警戒もするだろう。
「カカシィイイイイ!!」
「はいはーい」
俺は律儀に返事をしつつ、へろへろ式の子の元へ向かう。