12月25日 (猛烈に寒い)



12月25日 (猛烈に寒い)

 今日も任務で雪かきにいった。
 昨日の反省点を踏まえ、遅刻せずに集合場所に行ったのだが、三人は大いに驚いて「この雪はカカシ先生のせいだってばよ」とか「天変地異の前触れ? 大迷惑だわ」とか「……(←うさんくさい目)」とか、散々だったから、明日からは遅刻魔のカカシ先生に戻ろうと思う。
 でも、サンタカカシの書置き効果は抜群だった。サクラはいつも通りだったけど、ナルトとサスケがやたらと喋りかけてきたのだ。それはもう、アレコレアレコレとうるさいくらいに。うるさいくらいに、と言うか、甚だしくうるさかった。のんびりイチャパラを読めないくらい喋りかけられるとは思ってなかったから、とっても困ったし疲れたので、後半は「そうね」と「へー」としか返事をしなかった。今後もこの調子で読書の邪魔をされたらたまらないので、今度折を見て彼等の家に忍び込み「カカシ先生を除け者にしてはいけないけれど、もうちょっと放っておいても良いと思う。サンタより」って置き手紙を書いておこうと思った。
 子供達は今日も上機嫌で、今日も予定より早く任務を終わらせた。それに俺のプレゼントをよほど気に入ってくれたらしく、三人とも自分のプレゼントの自慢話ばかりしていてほほえましかった。サスケなんか、今日さっそく高級忍具を持って来て、さりげなく見せびらかしていたくらいなのだ。それで何気なく俺の持っている忍具を調べ、自分のと見比べて「フッ」って笑っていたくらいなのだ。俺と同レベルの忍具を手にしたんだから、更に励めよ、少年。
 サクラの親御さんもサクラが望んでいたものをちゃんと贈ったようなので、三人はとにかくご満悦だった。勿論サスケとナルトのサンタになった俺は彼等に負けず劣らずご満悦なわけだから、七班はかつてないほどご満悦集団となった。これからもこれくらいチームワークを発揮して、仲睦まじく全ての任務に励んでもらいたいものだ。
 任務を終えると報告書を提出しに行く。今日も揉めることなく三人で報告書を製作し、うみの中忍のところに並ぶ。
「いやぁ、今日はちょっと腰が痛くて! 俺、昨晩はほら、イブだったから! 腰が!」
 うみの中忍は今日も無意味に大声を出していた。昨日がイブだとどうして腰が痛くなるのか、俺にはよく分からない。あえてイブの翌日に主張することがあるならば、「今日はちょっと血臭が抜けなくて」じゃないのか? 臭くて悪いね、的な意味で。
「あ、アスマさんお疲れ様でした! アスマさんも今日は腰が痛いでしょうけど、俺も同じです! 俺も! イブ翌日的な意味で!」
「お、おう……」
 アスマの声が引き攣っていた。何かフォローする言葉を探したいけれど、そんなものどこにも転がっていなくて窮地に追い込まれている、みたいな声だった。すぐ後ろに並んでいた中忍が「イルカ、もう良い。もう良いんだ……」と泣きそうな感じで必死になって呟いていたのが、とても不思議だった。
 どうしてみんな、そんな痛々しい顔をしてうみの中忍から目を逸らしているのだろう。彼はイブの夜にサンタをやっただけだ。腰云々に拘っている理由は分からないけれど、多分一生懸命サンタをやりすぎて腰を痛めただけではないのか?
「イルカ先生、報告書だってばよ!」
 俺達の順番が来るとナルトが元気にそれを提出する。サスケがすかさず「新しい忍具だからまだホルスターに馴染んでないみたいで気になってるだけだぜ」みたいな顔をして高級忍具を取り出し、チラっと三代目とうみの中忍に見せつけて、すぐにそれを仕舞った。
「おう、お疲れさん。じゃあ、今日はやけに腰が痛い俺がそれをチェックするぞ?」
 うみの中忍が、意味のない言葉を挟みつつそれを受け取る。
 サスケがまた「俺の忍具って新品だからさ、ちょっとまだ馴染んでなくて気になってるんだぜ」みたいな顔でチラっと忍具を取り出す。そんですぐ仕舞う。うみの中忍はうみの中忍で、猛烈な勢いでチラチラと子供達の様子を見ている。何故か三代目もチラチラと、そんなうみの中忍と子供達を見ている。
 いつの間にか木ノ葉には「チラチラブーム」でも訪れているのだろうか。それとも俺が知らないだけで、イブの翌日は相手を注視せず、チラチラと他人を見遣らなければいけないという密やかなルールでもあるのだろうか。
 正直に言ってうみの中忍はチラチラが激しすぎて、ほとんど報告書を見ていない状態だ。それからサスケはその間に忍具を出したり仕舞ったりしすぎだ。三代目はチラチラと言うか、ほとんどガン見に近い状態になっていきている。何なんだ、この空間は。この緊迫感は何に起因しているものなのだ。
「ナルトはもうちょっと字を丁寧にだな……」
 うみの中忍は定型句に近い小言を口にし、それからゴクリと、受付中に響き渡るくらい大きな音で唾を飲みこんだ。
「そ、それから、な、な、ナルト」
「なんだってばよ?」
「さ、サスケもナルトも……さ、サンタさんは来てくれたかな? アハハ」
 妙に緊張したような彼の質問に、子供達が自慢気に答え始めた。
「俺ってば俺ってば、サンタさんに珍しい巻物をもらったんだってばよ! すげーヤツだってばよ! ちょっと難しい忍術がたくさん書いてあるし、お店ではなかなか見かけないヤツだし、使いこなしたらドシャー!とかババーン!とかってなる格好良い感じの術ばっかで、とにかく凄い巻物をもらったんだってばよ!」
「俺も忍具を貰った。今まで手が出なかった忍具だ。これ」
 サスケが意気揚々とそれを取り出すと(←散々チラチラしてたくせに、今初めて取り出すんだぜ?みたいな顔)、ナルトが負けじと自分の巻物が如何に素晴らしいのかを力説して、「俺も持ってこれば良かった」と、耳にタコができるくらい口にする。サクラだって楽しそうにプレゼントの内容を語る。
 三者三様、でも口々に「それが如何に素敵なプレゼントだったか」を捲し立てたので、俺は大変気分が良かった。天才エリート忍者である俺が、まるで初めてまともに上忍師としての仕事をしたような、そんな不思議な気分まで味わった。木ノ葉一の業師と謳われた俺は、木ノ葉一の上忍師でもあったのかもしれないと、新しい事実にちょっと戸惑ったくらいだ。
 しかし三代目がギロリと俺を睨んだところで、天井を突き抜ける勢いで伸びていた俺の鼻っ柱が若干引っ込んだ。子供達に見えないように「カカシ、グッジョブ!」って親指を立ててくれるならまだしも、どうしてギロリと睨まれなきゃなんないんだろうと動揺したのだ。
 俺は何か間違えたのだろうか。でも何を間違えたのか見当も付かない。
 ナイーブな俺は三代目のギロリに狼狽しまくり、「もしかして三代目も俺を除け者にするつもりなの?」と不安になった。三代目どころか他の里の仲間も「カカシってなんかウザくなぁい?」とか言いだすんじゃないだろうかと怖い想像をしてしまった。すると、みるみるうちに鼻が縮んで、あっという間にいつもの鼻の高さまで戻ってしまった。
 子供達はまだ勇んで自分たちのプレゼント自慢をしていた。
 俺は正しいはず……しかしそう再確認した直後、俺は気付いた。やっと、うみの中忍の様子がおかしいことに気が付いた。
 彼は顔を俯かせ、目を左右にキョロキョロ動かしながら酷くヘンテコな笑みを浮かべていたのだ。「よ、よ、良かったなぁ。アハハ」とか何とか言いながら、震える手でやけに必死に報告書を読んでいるフリをしていたのだ。
 人はどんな気持ちの時に、あのようなヘンテコな笑みを浮かべてしまうのだろう。
 俺には分からない。分からないけど、彼のヘンテコ笑いはとても、とっても……俺を落ち着かない気持ちにさせた。傷付いているのか泣きたいのか、怒っているのか痛がっているのか、それともその全部なのか、とにかく彼のヘンテコ笑いを見たら、心臓が変なふうにドキドキするくらい落ち着かなくなって、自分でも理解できないくらいの焦りを感じたのだ。
 本能的に、何か言わなきゃなんない!って思った。
 多分それは凄く大切なことだった。何かを、大切な何かを俺が言うってことは、何よりも重要なことだった。
 でも俺は焦っていて、その言葉を見付けだすことができなかった。
 彼はほとんど泣きそうな顔で子供達の話を聞いていた。そんな彼を見ていたら俺はもっと落ち着かなくなって、もっと焦って、自分が大きな過ちを犯してしまっている気がして、ちょっとだけ「怖い」とさえ思った。
 内心はすごくオロオロしていて、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたんだけど、それでも俺は他人事みたいな顔でそれを見ていることしかできなかった。
「ナルト、サスケ。主らはその他にも、サンタに何かもらったのではないか?」
 三代目がそんな俺に助け舟を出すように、それを言ってくれた。俺をギロリと睨んだ時とは全然違う、優しい声だった。
「あー。俺ってば、一楽ラーメンの半額券をもらった」
「俺も、各種トマトの盛り合わせをもらった」
 子供達が素っ気なく答えると、うみの中忍の顔が瞬く間に真っ赤になる。俺は酷く動揺し、子供達と三代目とうみの中忍の顔を順繰りに見た。見たって何も変わりはしないんだけど、何か言わなきゃなんない!って思って、その答えを探そうと思ったんだ。
 けれどやっぱり俺には見つけることができなかった。
 俺が言わなきゃならなかった何か。多分、ほんのちょっとの心遣いとか気配りとか、そういったもの。でも凄く重要だったこと。
「それらとて、サンタさんが心を込めて贈ったものなのじゃよ」
 三代目が馬鹿な俺の代わりに言ってくれた。
「そうだ! 全くその通り!」
 俺は三代目がそれを言ってくれたことで心が軽くなり、これで何もかも大丈夫だと嬉しくなって、ニコニコ顔で勇んでそう言った。
 それなのにうみの中忍は、真っ赤な顔を更に真っ赤にして俺を睨んだ。それは直球で「お前なんか大嫌い」と言われたようなものだった。
 俺は一から十まで間違えた気がしていたたまれなくなり、子供達を置いてそっと受付を後にした。


 夜になると雪が降り始めた。
 うんざりするくらい寒いって思っていたら、どうやら寒波がやってきていたらしい。
 良いことをしたはずなのに何から何まで間違えて、うみの中忍に「カカシ先生って最低ですよねマジ勘弁して欲しいですよね、俺はアイツ大嫌い」って直球で言われた(←言われたんだよ絶対。心の中で)俺は、塞ぎ込んで自室の布団の中で丸くなっていた。どうせならこのまま虫さんのように布団の中で丸まって生きていきたい、せめて春がくるまで冬眠してしまいたいと思った。
 別にうみの中忍に好かれるためにサンタをやったわけじゃないし、子供達だってあんなに喜んでくれたんだから気にしなくても良いのかもしれないけど、心の中のモヤモヤは大きく膨れ上がるばかりで俺は小さくなるばかりだ。それなのに、迷える子羊の俺を誰も救ってくれない。
 パックンとブルは布団の中で小さくなっている俺を完全に無視しているし、他のみんなも基本的に俺に優しくしてくれない。ウーヘイだけが俺をチラチラ見ているけど、それはきっと今日がチラチラデーだからだ。まったく、サンタとかプレゼントとかチラチラとか、なんて面倒なんだろう、イブもクリスマスもこの世からなくなっちゃえば良いのにって思った。
 小さくなって春まで冬眠しかたっかんだけど、冬籠りの準備はしてなかったので腹が減った。何も作る気にはなれなかったから、カップラーメンを食べてまた布団に戻った。ウーヘイ(←チラチラ)が、「風邪でもひいた?」と訊ねてきたけど、心がささくれ立っていた俺は「放っておいてよ!」って思春期の女の子みたいなことを言ってしまった。
 クリスマスなんか早く終われば良い。そうだ、もう寝てしまおう。寝て起きたら、もうサンタもプレゼントもチラチラも関係ない、いつも通りの日々が戻って来るに違いない。俺はそう思ってベッド脇のサイドテーブルから日記を取り出した。
 頁を開くと昨日の日記が目に入る。

 ・俺はちょっとばかり何かを間違えなかったか?(←どこか分からない。考えたけど分からない)
 ・俺は何か、やり残してないか?(←これもサッパリ分からない。けれど、結構重要なことをやり残した気がする)

 最後のこの二行だけ、やけに目に入る。
 ・俺はちょっとばかり何かを間違えなかったか?(←どこか分からない。考えたけど分からない)
 ↑これに関してはもう何も言うまい。何も言うまいよ……そもそも俺は間違いだらけの人生なのだから。ああそうだともそうだとも、俺は一から十まで間違いだらけだとも。もう知るもんか! 大体サスケもナルトも喜んでくれたんだ、もう知るもんか! あほ! あほ中忍! ばーかばーか! 三代目もギロっとかしてんじゃないよ! もう知らないんだからね!
 でも次の
 ・俺は何か、やり残してないか?(←これもサッパリ分からない。けれど、結構重要なことをやり残した気がする)
 ↑これは、今日になってもまだ俺の心にしこりを作っていた。
 サクラにもプレゼントを渡すべきだったんだろうか、それとも他の孤児達にも渡すべきだったんだろうか、お世話になっている三代目にもお歳暮代りに渡すべきだったんだろうか、一体どれを俺は「やり残し」と感じているのだろう。それともプレゼントとは全く関係なくて、年賀状をまだ書いてない件とか、犬用シャンプーをまた買い忘れた件とか、そういうの?
 うんうん考えながら、それでも俺は今日の日記を書こうとした。だって考えても分からないんじゃ仕方ないって思ったんだ。
 12月25日 (猛烈に寒い)
 でも↑を書いた時、もう一度昨日の日記を読み返してみた。それは、昨日と今日の子供達の態度の変化を比べてみようと思ったからだった。読み返して、「ほら、こんなに良いことをした。俺は良いことをしたんだよ」って楽しげに回想して、岩戸に引き籠った俺の心をおびき寄せようとしたのだ。
 その作戦は成功し、俺の心は随分軽くなった。軽くなったどころか、昨日の日記を最後まで読み終えた時。
 ―…分かったのだ。
 やっと分かったのだ。俺が昨日、やり残してしまったことが。



 雪が降りしきる夜の里を、俺は必死で駆け回った。顔に雪が当たって辛かったし、耳は取れてしまうんじゃないかって思うくらい痛かったけど、それでも俺は頑張った。だって早くしないと今日が終わってしまう、サンタの日が完全に終了してしまうんだ。
 そして雪の中を駆けずり回った俺は、パンパンに膨らんだスーパーの袋を右手に、パンパンに膨らみすぎて破れそうな紙袋を左手に持って、うみの中忍のアパートに行った。
 両手が塞がっているから頭突きをしてドアをノックする。袋を持っている指も、耳も鼻も、頭突きしたオデコも、なんだかそこらじゅうが痛かった。俺のことを嫌っているうみの中忍に会うからなのか、寒空の下で走り回っていたからなのか、何だか胸まで痛くて苦しい。拒絶されたらどうしようって緊張する。
 ガチャリとドアが開けられて、うみの中忍がひょっこり顔を出した。彼は俺を見て、すごくビックリしていた。
「あのですね、えっと」
 何から言えば良いのか分からなくて焦る。しかし焦れば焦るほど言葉は俺の口から出るのを嫌がって、変な沈黙を作ってしまう。変な沈黙は、「また俺は間違いをしでかすんじゃないだろうか」と俺を臆病にさせて、更に俺を焦らせる。そして以下略的ループが始まってしまう。
「はたけ上忍?」
「あ、はい。俺は、はたけカカシです。ナルト達の……七班の上忍師をやっています。えと、今日は、いや昨日は……いやいや今日も昨日も」
 うみの中忍の顔を見ることができなかった。俺は俯いてこれ以上変なことを口走らないよう、ちょっとだけ頭を働かせた。こういうのは経験上、ズバっと用件だけ言って速攻でオサラバした方が良い。
「俺は、謝らないです。俺も子供達のためを思ってしたことだもん」
「そんなの当然です。謝罪される謂れは俺にだってありません」
 うみの中忍は怒ったような声を出した。顔を見る勇気はなかったけれど、実際に凄く不愉快な顔をしているだろうって思った。
 俺は間違ってしまう。何もかも、いつだって。
「でも、俺は少しだけ気遣いみたいなものが足りなかったって思う」
「そんなことありません」
「そんなことないのかな……。情けない話だけど、俺には良く分からないんです。でもきっと、俺はちょっとばかり」
「そんな話をしに来られたんですか?」
 ピシャリと遮られて、俺はもっと俯いた。確かに謝る気がないならこんな話を続けても意味なんかないんだ。でも、本当はもうちょっと話し合ったりして、俺の気持ちやうみの中忍の気持ちを理解し合えれば良いなって思った。そうすれば来年はもっと上手にサンタができると思うし、うみの中忍にヘンテコ笑いをさせなくて良くなるんだから。この人はあんなヘンテコ笑いをせずに、俺と一緒に「良かったなぁ」って子供達が喜ぶ様を、俺と一緒に、ニコニコしながら見守ることができて、だから。
「ご用件は、それだけですか?」
 うみの中忍は、酷くつっけんどんな声を出す。本当はとてもおおらかで優しい人だから、よほど俺のことが嫌いなんだろうなって思った。それは俺にとって、七班の子供達に嫌われるのと同じくらい哀しいことのように思えた。
「俺は、昨日やり残したことを、やろうと思って」
 ボソボソと言いながら、俺は俯いたまま両手に持ったスーパーの袋と紙袋を差し出す。
「なんですか。何のつもりですか」
 うみの中忍の声があまりにトゲトゲしくて挫けそうになる。でも俺はこれを渡さないと、これから一年ずっと後悔したままになってしまうんだ。正月だって気持ち良く迎えられないんだ。だから何が何でもこれをうみの中忍に渡さなきゃいけないって思ったんだ。
「クリスマスプレゼントです。サンタからの」
「いただく謂れはありません。帰ってください」
 物凄い速さで拒絶されて泣きそうになった。でも俺は。
「もらってよ。だって俺はサンタなんだ。日付が変わるまでサンタなんだ。サンタは良い子にプレゼントを渡さなきゃなんないのに、俺は昨日アンタにプレゼントを贈ることができなかった。アンタ、良い子なのに。アンタは木ノ葉で一番良い子なのに」
 どうせこれだって間違ってて、俺はうみの中忍からもっともっと嫌われることになるんだ。
 でも、それでも、これだってきっと正解なんだ。サスケやナルトに贈り物をしたのと同じくらい、正しいことなんだ。俺は馬鹿だからよく分からないけど、正解と間違いは凄く近くにあって、これでもっと嫌われても俺はそれでも良いって思ったんだ。
 だってそうだろう?
 うみの中忍は木ノ葉で一番良い子なんだから、サンタがプレゼントを渡して何が悪い? この人は大層寒い夜に、誰に言われたわけでもないのに子供達にプレゼントを贈りるために奔走していた。一人で頑張ってた。
 そんな良い子にプレゼントがないなんて、ありえないじゃないか。
「良い子には、プレゼントがあるんです」
 うみの中忍が黙りこくってるから俺は俯いたままもう一度そう言って、袋を持っている腕をグイと突き出した。それでも彼は受け取ってくれなかった。
 ああ、やっぱり怒ってるんだなぁって思った。サンタが俺じゃ駄目だったのかもしれない。三代目にお願いして、三代目から彼に渡してもらった方が良かったのかもしれない。でも時間がなかった。日付が変われば俺の贈り物は、お歳暮的なものや、年末の挨拶的なものになってしまうかもしれない。
 もらって欲しいって懇願するような眼差しとともに、俺はちょっとだけ顔を上げてうみの中忍を窺った。
 うみの中忍は……やっぱり怒ってた。
 顔を耳まで真っ赤にして大激怒していた。
 でも思いっきり「への字」にしている口は、ちょっと下唇が突き出ていて怒っているそれとは違ったし、それにどうしてか今にも零れ落ちんばかりに目に涙を浮かべていた。
「俺は……良い子ですか」
 うみの中忍はそう訊ねて、大きく鼻を啜りあげる。
「良い子です。木ノ葉で一番良い子です」
 だから貰ってと、俺は腕をもっと差し出す。
「……返しませんよ。俺は良い子なんだから、全部貰っちまいますからね!」
「勿論です。これ、全部うみの中忍のものだもの」
 勇んで答えると、うみの中忍はひったくるように俺から袋を受け取った。
 そうして、昨日やり残してしまったことを、俺は今日、なんとかやり遂げた。

 うみの中忍は何度も何度も鼻を啜りながら、その場で袋を開けて中身を検分した。俺はうみの中忍に何を贈れば良いのか分からなかったし、夜遅くだったから開いているお店も少なかったから、ろくなプレゼントを用意できなくて彼に何度も怒られた。「こんな高価なものをこんなにたくさん買い込んで!」とか「こんなにたくさん食べきれません!」とかって。
 ケーキを何個も買っちゃったからそれについても怒られた。だって俺は彼が「生クリーム派」なのか「チョコレート派」なのか「バタークリーム派」なのか分からなかったから、全部買ってきてしまったんだ。本当に俺は失敗ばかりしてしまう。
「腐らせたら勿体ない。はたけ上忍も責任とって一緒に食べてください」って言われたから、俺は彼の家でケーキを食べることになった。ケーキとか鳥のもも肉とか、俺は確かに買い込みすぎていたんだ。
 ワインも一緒に飲んだ。ワインは腐らないけどなって思ったけど、一度封を開けると風味が落ちるってことに気付いて、遠慮なく飲むことにした。
 うみの中忍は俺にたくさん文句をつけた。
 それなのにどうしてか、繊細なはずの俺の心は全然ダメージを受けなかった。
 それどころか、凄く心があったかくなったんだ。



 うみの中忍が酔い潰れると彼をベッドで寝かせ、片付けをして俺は家に帰った。
 そして今、俺はこうやって日記を書いている。
 まだ心がポカポカしているし、何だか妙に嬉しくてたまらない。来年も再来年も、その次もその次も俺はずっとサンタをやろうって思ってる。子供たちのサンタに、それから里一番の良い子である彼のサンタに。
 でも問題は山積みだ。
 うみの中忍にヘンテコ笑いをさせないために、今後はもっと仲良くなって話し合って、お互いの気持ちを分かり合えるようにならなきゃいけないし、来年は叱られないよう彼の趣味も把握しとかなきゃなんない。何を贈ったら喜ばれるのか、ちゃんと知っておかないと。
 それから彼が今日も「俺は寂しくない」って何度も何度も口にしていたことも引っかかってる。どうやら彼は極度の寂しん坊みたいだから、それもどうにかしなくちゃ。だって俺はうみの中忍にも笑っていて欲しい。だから里一番の良い子である彼が、イブの夜に屋台のおでん屋で「寂しくねぇ!」って一人喚くことのないように。
 うみの中忍ともっと仲良くなりたいな。もっともっと仲良くなって、「あなたは良い子です」って頭を撫でてあげたいな。色々と彼のことを知って、俺がその寂しさを埋めてあげられたら良いな。
 もっと親しくなるために、どうすれば良いんだろう。
 そうだ、明日は思い切って俺も子供達みたいに「イルカ先生」って呼びかけてみようか。それから一緒に飲みに行きませんかって誘ってみようか。俺はシャイな写輪眼ボーイだし、断られるのは怖いけど、どうしても仲良くなりたいもん。

 俺は馬鹿だから、これからもたくさん間違いをおかしてしまいだろう。あの人のことを傷付けることもあるかもしれない。
 それでも頑張りたい。
 来年のイブを、素敵な夜にするために。



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