黒い瞳が熱を孕み、しっとりと濡れている。
汗ばんだ身体は完全に力が抜け、呼吸を繰り返す度に小さく胸が上下するだけだ。
「イルカ」
呼ぶと、焦点の合わないその瞳が揺らめく。
「まだ終わらないよ」
耳元で囁けば混濁した意識のまま嬉しそうにうっとりと笑みを浮かべ、これから訪れるカカシの愛撫に備えるように濡れた瞳を閉じる。
健気なイルカの様子にカカシは目を細め、その首筋に舌を這わす。耳朶に優しく歯を立て、指先でその身体を時間をかけてなぞっていく。既に充分味わったイルカの身体に愛撫は必要なかったが、カカシは初めてその身体を抱くかのように挿入することなく執拗にイルカを指先だけで昂ぶらせていく。
昔のようにイルカをガツガツと揺さぶるだけのセックスはもうずっとしていない。早く挿れたい、本能のまま犯し尽くしたいという欲望はあるが、長く焦らしイルカの理性を剥がして楽しむことを知ってしまってからはそれに夢中になっている。
それほど快楽に堕ちたイルカは良い。
「んっ」
鼻にかかった声でイルカが鳴く。
弛緩していた身体を小さく震わせ背を反らせて強い刺激を望むイルカに、カカシは手を止めた。
「まだ駄目だよ。まだ」
言い聞かせて唇を舐めてやれば、必死に舌を差し出して深い口付けをせがんでくる。そのあまりの愛しさと可愛さにカカシは笑みを零した。
イルカの意識が唇と舌に向き、その身体から力が抜けるとまた愛撫を再開させる。ゆるゆると時間をかけてその身体を弄ぶ。
イルカが悦ぶ場所はもう分かっている。どこをどう苛めてやれば声を上げ、身を捩り、歓喜の涙を流すのかも分かっている。どうすれば最も悦ぶのかも、どうやってイクのが最も好きなのかも知っている。だから時間をかけるのだ。イルカが悦ぶから。
中に指を入れてそこを擦りながら乳首で遊んでいると、イルカの身体が再度震えだす。動きを止めても指を咥え込んだ中をぎゅうぎゅうと締め付けて続きを強請る。太股の内側までをもぶるぶると震わせて限界を訴えているイルカを見て、カカシは指を抜いてイルカの両足を肩に乗せた。
「イルカ、力抜いて」
ペニスを宛がうとソコがいやらしくヒクつく。
「イルカ、欲しくないの?」
「…欲しい」
「なら力抜いて。挿れてもイったら駄目だよ」
肩に担いだイルカの膝の内側に口付けると、イルカの身体から無駄な力が抜ける。カカシが時間をかけそう躾けたのだ。これをすれば挿入する、これをすればもっと良いことが始まる。だから力を抜かねばならないと、その身体に教え込んだのだ。
そこはたっぷりと塗り込んでやった潤滑剤と先程カカシが出した精子でぬらぬらと光り、カカシを淫らに誘惑していた。じわじわと侵食するように挿入してやるのを悦ぶのは最初だけで、二度目からは一気に貫くことをイルカは望む。だからカカシはイルカの望むように体重をかけ、容赦なくペニスを突き刺した。
「ああッ――!」
甲高い声を上げながらイルカが射精する。中がヒクつきカカシのペニスをきつく締めあげる。
カカシが口元に笑みを浮かばせながらイルカが好む場所をペニスで擦ってやると、全部吐き出そうとイルカもまた喘ぎながら卑猥に腰を蠢かした。
「イったら駄目だって言ったでしょ」
イルカの腰をしっかりと掴み大きく掻き混ぜてやれば、顎を反らせ酷く艶めかしい声で鳴く。大きく、何度も鳴く。とても可愛い声で、たまらなく気持ち良いと。
「どこが良いの? 何をして欲しいの?」
「……する…あ、あっ…」
「何を?」
「ここ――…カカシさんここしてっ」
昂ったイルカが自分の下腹部を手で押さえた。そこの奥にはイルカが最も好きな場所がある。イルカはそこを責めろと言う。そこだけをペニスで抉れと言う。焦らされるのが何よりも好きなイルカが、ずっとそこだけを責めろと請い求めてくる。固くなった乳首を指で擦れば、眉根を寄せて「そこも」と強請る。濡れそぼった唇を撫でてやれば舌を出して指を舐め「もっと」と強請る。
触れてやれば触れてやるほどイルカは乱れる。快楽の海を漂い、カカシの思うがままになる。こうなればイルカは何でもする。理性が残っている時にはしない格好もするし、どんな言葉も口にする。強い媚薬を使った時のように、イルカはカカシの思うがまま貪欲に快楽を求める。飽く事も知らず、ただひたすらに。
「今日は一杯可愛がってあげるよ。だって今日は――」
最終的には泣きながら悲鳴を上げて果てることになるイルカを愛おしそうに眺めながら、カカシは舌舐めずりをした。
そして、今自分がどれだけ卑猥な顔をしているのだろうかと想像し、密やかに笑った。
「イルカせんせー!」
元気の良い声にイルカが振り返ると、両手を後ろに回した三人の子供が目を輝かせて駆け寄って来た。
今イルカが受け持っている生徒達の中でも特に腕白で、イルカによく懐いている分しょっちゅう悪戯を仕掛けて来る三人組だ。言わずもがな、後ろに隠しているその手に今も何か仕込んでいるはずだ。
「まーた何か企んでるなー。先生はそう何度も引っかからないぞー」
「万年中忍のくせにー!」
ケラケラと屈託なく笑いながら三人が飛び付いて来る。一人は正面から胸に、一人は右腕にぶら下がるように、最後の一人は腰にしがみ付く。イルカが後ろによろけながらも三人の子供達を抱き止め、正面から飛びかかって来たリーダー格の子供の頭に手を乗せると、グイっとベストとアンダーの襟を引っ張られて背中に何かを入れられる。ぬめった冷たい感触が走ると同時にそれが背中で暴れた。
「抑えろ! イルカ先生に蛙まみれの刑だ!」
「蛙まみれの刑だ!」
「刑だー」
イルカが暴れ出すと予想した子供達が全身に力を込めてしがみ付きその身体を拘束すると、ポンと音を立ててイルカの身体が丸太になる。「え?」と間抜けな声を出して落下する子供達を、イルカは仔猫を持ち上げるように背後からヒョイヒョイと掴んで宙に浮かせた。
「身代わりの術だ!」
「万年中忍だけど身代わりの術を使ったぞー」
腰にしがみついていた黒髪の子供だけはイルカの腕が足りなかったので片足で尻を持ち上げられて落下を防がれている状態だったが、それでも嬉しそうに「だぞー」と言って笑っている。
「お前等なー。俺がいつ刑に処せられることをしたんだー」
子供達を下ろしてから、イルカは軽く拳骨を喰らわせた。身代わり術に使った丸太の周りには蛙が七匹、のたのたと動いて辺りを見渡している。
「先生いつ身代わりの術使ったの?」
「お前等が飛びかかって来るス・ン・ゼ・ン」
「全然気付かなかった」
「あったりまえよ! 俺は中忍だけどお前達の先生だぞ!」
拳骨が落ちてもケラケラと笑いイルカに纏わり付く子供達の目には、信愛と尊敬の念があった。口には出さなくてもその顔には常に書いてあるのだ。大きく、はっきり、イルカ先生が大好きだと。
「大体なぁ、何か仕掛ける時に両手を後ろに隠してるってどうなんだ? お前等それでも忍の卵か? 俺はいつも口を酸っぱくして言ってるだろう。そういう時はまず」
「イルカせんせーの小言が始まったぞ! 逃げろー!」
「イルカ先生の小言は長い! 逃げろー!」
「逃げろー」
騒ぎながら駆けて行く子供達を、イルカは腰に手を当て見送る。それから空を見上げて気持ち良さそうに胸一杯に空気を吸い込んだ。
今日は雲ひとつない晴天で、昼のうちは青い空がただっぴろく広がっていた。空は季節を雄弁に告げる。気温や花と同じように青い空は季節を人々に教える。初夏なのだと。イルカが最も好きな季節なのだと。
しかし昼はあんなに青かった空も今は優しくその色を変え、校舎の塀にかかった夕日が里を赤く染めていた。一日が終わるのだ。
三人の子供達の影が長く伸びそれが視界から消えて行くのを見て、イルカは宿題忘れるなよと声を掛けるのを忘れていたと苦笑した。腰にしがみ付いていた黒髪の子はちゃんとやって来るだろう。だが残りの二人は怪しいものだ。
「イルカ先生は相変わらずだなぁ」
楽しげなその声に振り向くと、若い三人組みが仲良く寄り添いイルカに向かって会釈する。
「帰って来たのか!」
「ええ。さっき」
中央に立つ黒髪の青年が誇らしげに答え、残りの二人が嬉しそうに頷く。
黒髪の青年の右側には、長身の、いかにも力自慢といった感じのガッシリとした体躯を持つ金髪の青年。左側には、二人と同じくらいの年齢の赤い髪の女の子が少し照れたように頬を赤らめて笑っている。
「今報告書を出して来たところです。それで帰りにイルカ先生に会いに来たら、相変わらず子供達にからかわれてるんだもん」
黒髪の青年が可笑しそうにそう言うと、すかさず赤い髪の女の子が「イルカ先生は人気あるから」とフォローをする。それに同意するように長身の青年がうんうんと頷く。
「怪我は? かなりの激戦だったと聞いていたけど、お前等怪我は?」
「ないです。三人とも無事」
両手を広げて自分の身体を見せる黒髪の青年をイルカは思わず抱き締めた。青年もイルカを抱き締め返し、残りの二人もイルカを囲うようにその身体を抱擁する。三人は本当に帰って来たばかりなのだろう。泥と埃にまみれ、汗の匂いがした。長く戦地にいた者特有の火薬の匂いと血の匂いもそこに混じっている。
「俺、イルカ先生と同じくらいの身長になった」
ガッシリとイルカを拘束する黒髪の青年がクスクスと笑いながらそう言う。
「俺はとっくに抜かしてる」
長身の青年はイルカより随分背が高い。女の子だけがむっと頬を膨らませたが、それでも「私だって色々成長したんだよ」と、イルカを見上げて訴えて来た。
「三人とも成長してる。うん、そろそろ上忍になって俺の上司になったりするかもなぁ」
「なるなる。そしたら俺、イルカ先生コキ使ってやる」
「私もー」
「俺は優しくする」
口々にそんなことを言う三人の頭に、イルカは手を乗せて行く。アカデミーを卒業し何年経とうが彼等はイルカの生徒であったし、イルカは彼等の先生のままだった。イルカを見詰める彼等の眼差しには昔と何も変わらない信愛と尊敬が含まれている。きっとどれだけ月日が過ぎてもそれは変わらない。その証拠に、口には出さなくてもその顔には常に書いてあるのだ。先程イルカに飛び掛かった小さな子供達と同じように、彼等がアカデミー生だった頃と同じように、今の彼等の顔にも大きく、はっきり、イルカ先生が大好きだと書いてあるのだ。
「よーし今日は俺の奢りだ! お前達が無事に帰還したお祝い!」
「イルカ先生の奢りってことは、ラーメンだな」
からかうように言う黒髪の青年の言葉に、残りの二人が笑いながら頷く。
「当たり前だ。でもチャーシュー大盛りにしてやる」
「ギョーザとチャーハンは?」
「勿論付けて良し。しかしおかわりは一回まで!」
イルカの身体を離し、黒髪の青年が「イルカ先生の財布は相も変わらず淋しいねー」としみじみ言うと、残りの二人が「万年中忍だから!」と口を揃えてそれに応えた。