10月24日
「俺んちの屋根裏にゃ、シャイな忍者とその家族が住んでるんだぜ?」
今日隣の席の剛田君がそう言っていた。
彼は愛すべき人物である。
10月25日
母が劇場版パトレイバーの限定版DVDを食い入るように観賞していた。
炊事洗濯は言うに及ばず父を一家の主として信頼・尊敬し、常に三つ指をついて送迎を行い父に一家の家長としての、親としての誇りを持たせるだけでなく、子である僕に対しても時に優しく時に厳しく愛情を目一杯注ぎ込み、僕が幼少の頃から学習面での補佐をし続け、それでも決して口を出し過ぎる事をせず僕の悩める思春期を温かく見守るという、母親として完璧な至れり尽せりのシャドーワーク。
良妻賢母を絵に描いたような母だが、彼女がアニオタだという事実は変わらない。
また、彼女がDVDをネッチリと観賞したのち、僕に
「多奈稼、これはどうやって巻き戻しすれば良いのかしら?」
と、訊ねてきた。僕はその必要はない事を丁寧に教えてあげた。
10月26日
右の奥歯が虫歯になったようで、少し痛い。
実習時間に右頬を抑えてじっとしていたら、隣の剛田君が報知新聞を読んでいることに気付いた。普段、僕は真面目に授業を受けているので他人が何をしているのか興味もなかったが、思い返してみれば彼はよくこうやって授業中にも関わらず堂々と報知新聞を広げていたような気がする。
彼は報知新聞を読みながら、
「この男を見ていると、ドロップキックの練習をしたくなる」
と、呟いていた。
剛田君にドロップキックの練習をさせたくなる男とはどんな男性なのかと報知新聞を覗き込んで見たけれども、残念ながら僕はそれが誰なのか分からなかった。
10月27日
剛田君は今日もまた実習時間に報知新聞を読んでいたが、昨日のように物騒な言葉を吐く事はなかった。
それと、僕が剛田君と会話を交わしていると、碇君は大変辛そうな顔をしながら僕達の動向を探る。剛田君と碇君は男性同士でありながら互いを恋愛の対象としているので、僕は碇君に何か見当違いな疑いを持たれているのかも知れぬ。
本来ならばただの級友である僕は、日々世間の目や自身の道徳感等からの複雑な葛藤に悩む碇君にこれ以上負担を加重させるべきではなく、極力剛田君との接触を減らすべきなのであろうが、如何せん僕は剛田君に興味がある。
決して剛田君に恋愛感情を抱いているわけではないので、碇君はその辺りを理解して頂きたい。
10月28日
今日、体育の授業で持久走をしている時に、剛田君が下り坂で顔面を強打し怪我をした。彼は運動神経が発達しているのに不可解な事もあるものだと(多分ほとんどの級友達が)思っていると、昼食時に鼻に鼻紙を詰めた状態で保健室から戻って来た彼は彼の友人達に
「俺さ、閃いたわけ」
と口火を切り、それから何故彼が顔面を強打するような事態になったのか説明をしてくれた。
要点を掻い摘んで説明すると、剛田君は下り坂を走っている最中に「斜面に対し体を垂直にすれば、下り坂でも平面と同じように走れるはずだ」という彼特有の閃きとやらにとり憑かれ、それを実行したが、その結果速度が出過ぎて電柱に激突する羽目になったと言う事だ。
実際、僕も幼稚園児の頃にそう思いそれを実行した事がある。あれは重力を母に教わる切っ掛けとなった出来事である。
しかし、僕が幼少時に試した事を剛田君が高校2年になり実行したからと言って、彼は精神的に幼いのだと断定する要因にはならぬ。
僕の教室の後ろのロッカーは、授業中の暇潰しの為に一部の生徒達が持ち寄った結果、漫画図書館のように綺麗に漫画が並んでいるのだが、中でも右端下部にある「高志神コーナー」と呼ばれている剛田君秘蔵の青年漫画は絶大な人気を誇っている。以前に僕も表紙だけ盗視したが、まだうら若い少女が頬を赤らめ乳房を露にしている卑猥なイラストであった。
そうなのだ。剛田君は自慰行為をする際に参考にするらしいそれらの卑猥な青年漫画を、溢れんばかりに所持しているらしいのだ。しかも級友達の話によれば、剛田高志秘蔵コレクションは男性限定であるにせよ万人に支持される程の品揃えと質の高さを誇っているのだと言う。
そう、「高志神」と呼ばれる程に。
そんな剛田君に比べ、女人の乳房等に強い興味があるものの、書店でそれら卑猥な漫画や雑誌を買う勇気も度胸も気概もなく、また自慰行為について図書館で調べるも今ひとつ勝手が解らず未だ自慰行為を行った事がない僕。
嗚呼…。
10月29日
昨晩自慰行為について思案したせいか、今日は二度勃起した。しかしすぐに元に戻った。
直ちに通常の状態に戻るので生活に支障があるわけではないのだが、僕は自慰行為に興味があるのだ。
10月30日
今日、漢詩の授業を受けている最中に教師が剛田君に感想を求めた。剛田君は立ち上がり
「漢詩って事は、結局詩なんだろ? あれだな。あれ。ようは、ポエミィだな! ポエム・ポエミィ・ポエミストだろ、ようは」
と、感想のようなものを述べた。
とりあえず、僕は碇君を羨ましく思う。性別問題云々があるにせよ、剛田君が恋人ならば誰でも人生が楽しいだろう。
10月31日
自慰行為に挑戦してみたい。
11月1日
自慰行為に挑戦してみたい。
11月2日
今日は日直だったので出来るだけ早く学校に行ったのだが、驚くべきことにまだ誰もいないと思っていた教室に剛田君がいた。彼は僕の後ろの席の押井大君の席に座り、無我夢中になって何かをしていた。僕の学校では頻繁に盗難事故が起こるので、僕は(まさか剛田君は押井君の机の中を物色しているのではあるまいな)等と思った。
しかし思い切って声をかけて見ると、剛田君は顔を真っ赤にしてこう言った。
「違うんだ多奈稼! 俺は決して押井の箸やアルトリコーダーを舐めてたわけじゃねえ!! 違うんだ違うんだ信じてくれ!!」
剛田君の思考は僕には計りかねる。だが、彼は盗難を試みたわけではないようなので安心した。むしろ彼を疑った自分を恥じた。
結局剛田君が早朝から何をしていたかと言うと、学校に置きっ放しにしている押井君のノートや教科書類を全て机に並べ、名前欄の「押井大」を「押丼大」に書き換えていただけであった。
剛田君はその為だけに早朝に登校したようだ。彼の行動力には驚かされる。
それに比べ、僕はまだ自慰行為を成功させることが出来ない。何をどうすれば良いのだろうか。何か必要なモノはあるのだろうか。
11月3日
昨日から押井君は「オシドン」と呼ばれている。
それと、明日思い切って剛田君に自慰行為について必要事項と実践方法を訊ねてみようと思う。
11月4日
剛田君に
「女の子のデリケートな部分のようにデリケートな問題だから、ちょっと明日まで待ってろ」
と、言われたので、大人しく明日まで待っていようと思う。
それと、碇君が凄まじく殺気を帯びた視線を放ってくるのだが、僕は剛田君に興味を持っているものの、それは決して恋愛感情を伴う物ではないと言う事を是非とも理解して頂きたいのである。
11月5日
今日は記念すべき一日だった。
学校で剛田君に自慰行為の仕方を教わり、また自慰行為専門資料も大量に頂戴することが出来た僕は、ついに。
ついに。
とりあえず、陰茎が暴れだしそうだったと明記しておく。
11月6日
今日も自慰を行った。僕はどちらかと言うと、巨大な乳房よりもほとんどないに等しいような小さな乳房に興奮するようだ。
それと、碇君の殺気を帯びた視線が気になってしょうがない。あの視線を文字で表現する事は困難なのだが、とりあえず僕を見る碇君の目は、プーチン大統領や石破防衛庁長官と同等レベルの恐ろしさである。
11月10日
自慰行為に耽り、日記を書く暇もなかった。
11月15日
剛田君に貰った自慰行為専門資料はあまりにも多岐に渡るので多少困惑する。剛田君は同性愛者なので男性同士の性行為の資料が混ざっているのは納得出来るのだが、何故太った中年女性が楽しげに性器を露にしている雑誌や若い娘が脱糞している雑誌等も持っていたのであろうか。むしろ、それらを僕に渡したのは何故であろうか。
11月18日
僕は毎日のように自慰行為をしている。いや「毎日のように」ではなく「毎日」行っている。今ではもっと早くに自慰行為に挑戦していればと後悔している程である。
それと、GHOST IN THE SHELLのDVDを観賞し終わった母がまた
「多奈稼、これはどうやって巻き戻しすれば良いのかしら?」
と、訊ねてきた。僕はもう一度その必要はない事を丁寧に教えてあげた。
11月20日
自慰を行っていたら、自分の陰茎の大きさについてふと不安になった。自分の陰茎は大きいのか小さいのか、それとも平均的なのか。
ネットで日本人の陰茎の平均を調べてみたが、よく分からない。その大きさは、勃起状態で調べるのかそれとも通常状態で調べるものなのか、そもそも陰茎のどこの部分から測るべきものなのであろうか。特に裏側部分を測る場合、途中睾丸に邪魔されるものの陰茎は更に奥まで続いているように感じるが。
通常状態の陰茎を手前から測るにしても、陰茎と言う物はその時々の環境によって随分と生態を変えるものだ。例えば、冬に脱衣所で服を脱いだ直後の陰茎はまるでらっきょうのようであるし、通常状態と思っていても何か気分が高揚している時は些か膨張しているような気もする。
自分の陰茎の大きさを気にする事は青少年として真っ当な感覚だとは思うものの、如何せんその答えを得られぬのならば問題解決にならないので、是非とも文部省はこれまでのように年齢別に身長と体重の平均を公表するだけではなく、陰茎の大きさの平均も、正しい測り方を定めた上できちんと公表して頂きたい所存である。
11月21日
剛田君と会話を楽しんでいると、今日もまた碇君が殺気を放ってきた。いい加減、剛田君を信じてあげれば良かろうに。
それと、今日は押丼君…ではなく押井君と川崎OH-1について熱く語り合った。別に僕の苗字が川崎だからOH-1を贔屓にしているわけではなく、僕は純粋にOH-1が好きだ。しかし僕の周りでOH-1について熱く語り合う事が出来る友人は押丼君…ではなく押井君しかいない。これはとても残念な事実なのだが、同時に押丼君…ではなく押井君と言う存在が本当に有難く思える事でもある。
ただし押丼君は90式戦車をこよなく愛しているので、うかうかと戦車の話をしてはならぬ。以前、
「今時戦車って本当に必要なのかい?」
と訊ねたら、1ヶ月口を利いて貰えなかった。
11月22日
今まで使っていた自慰行為専門資料に飽きてきたので、そろそろ他の資料も試してみようと剛田君から頂戴した雑誌類の中から一冊選んでみた。当然のように中年女性や排泄行為の資料ではない。
今日僕が選んだ物は、頭に猫の耳のような物を装着している少女が掲載されている漫画雑誌である。これは実に不思議な話で、一見頭に猫の耳のような物を装着しているだけのように思えたのだが実はそこに生えているようであり、また臀部には尻尾も生えているようだ。要はミュータントの類なのだろうと思う。それにしても生殖行為の最中でも決して靴下を脱がなかったので、もしかすると靴下も生えているのかも知れぬ。
11月23日
あれは猫耳と呼ばれているらしい。やはり猫の耳であったか。
11月26日
僕は猫耳に夢中である。乳房の小さな女人に猫耳があれは最高である。
11月27日
他の猫耳を探しにネットで検索を試みた。多種多様な猫耳が存在しているようだ。
12月1日
ネットは広大だわ。by草薙素子
12月10日
期末テストが始まるが、僕の脳内はもうずっと猫耳に占拠され続けている。
12月11日
今日は剛田君と多少本格的に自慰行為について語り合った。
剛田君が
「俺は金曜の夜は左手って決めてるぜ」
と言ったので、僕が
「僕は普段から左手でやってるよ。だって右手はマウスだし」
と答えたら、彼は僅かに不可解な顔をしてみせた。僕はインターネットで猫耳を検索するようになってからずっと左手で自慰を行っているのだが、これは少数派なのだろうか。右手でマウスを持ち左手で陰茎を弄る事は理にかなっていると思われるのだが。
しかし、何故ゆえ剛田君は僕の口を眺めていたのだろうか。
12月13日
今日、剛田君は押丼君の机の中に入っている教科書やノート類を全て並べ、また悪戯を試みていた。
押丼君は「押丼大」から「押丼犬」になった。もう誰も彼を「オシイマサル」と呼ばないであろうと予測される。彼は今日から「オシドンケン」だ。
間違いない。
12月19日
今僕の心と陰茎をときめかせているのは、猫耳ではなく眼鏡である。眼鏡娘は素晴らしいが、眼鏡女性教師は更に素晴らしいものだ。
眼鏡教師に限り、乳房は大きくても構わない。むしろ、はちきれんばかりに大きい方が良い。
12月20日
疑問に思うのだが、本当に卑猥な漫画に登場する男性達のように大量な精子を放出する事は可能なのだろうか。
12月24日
母が張り切って豪華な夕食を作ってくれたのは喜ばしく有難い事なのだが、お前は最近休日になると日がな一日パソコンの前に張り付いていると父に小言を言われたので今日はあまり気分が優れない。
仮に先日行った期末テストで僕の順位が甚だしく下降したのならば、「勉学に励め」と諭す事は親として当然であろうが、期末テストの結果はまだ出ておらず、しかも僕はそこまで順位を落としていないと言う確信を持っている。確かに自慰行為を覚えて以来、家で教科書を広げる時間が極端に減りはしたが、学校での授業は真面目に受けているのだ。
そもそも、今まで勉学に励み続け両親に楯突いた事もなかった僕が年相応に性に目覚めた事は青少年として当然の成り行きであり、休日にパソコンの前に張り付いて猫耳や眼鏡教師の事を考えていても何一つ問題はなく思えるし、客観的に見てもどこが悪いのか皆目見当もつかない。
12月25日
ネットサーフィンは楽しい。猫耳娘や眼鏡教師等が、サンタの衣装を身に纏いチラリズムで僕を歓迎してくれる。
12月26日
剛田君と碇君の様子が怪しかった。剛田君は落ち着かない様子で頻繁に腰を擦っていたし、碇君はどれだけ僕が剛田君と会話を楽しもうが殺気を放つ事はなかった。昨日はクリスマスだったし、折も折りとて、と言う事で剛田君と碇君は生殖行動…ではなく性行為をしたのかも知れぬ。
男性同士の性行為とはどういったものであろうか。少し興味があるが、自慰行為と同様にこれは保健体育では教えてくれない。
12月27日
解決しなければならない問題。
僕は同性愛者か否か。