深海春樹 岬杜永司
不思議な夢を見た。
子供の永司と子供の俺が、見渡す限りのライ麦畑で会う夢だ。
永司は子供だったけれどそれでもどこか大人びていて、俺の無邪気な話を微笑みながら聞いていた。
空は嬉しくなるような青空で、雲1つなかった。
「春樹、大好きだ」
子供のような大人のような永司が言う。
「うん。俺も永司大好き〜」
子供の俺が笑って言う。
手を繋いで2人で空を見上げていると、誰かが俺の名を呼んでいるのが聞えた。
辺りを見渡したけれどよく分からない。
「もうそろそろ帰ったほうがいいね」
本当はまだここにいたかったけれど、永司の言葉に俺はコクリと頷いた。
「じゃ、目を閉じて」
言われた通りに目を閉じる。永司の小さいような大きいような手が、俺の身体を抱いた。
「また来ていい?」
「いいよ。でも、俺が迎えに来るまでは勝手にウロウロしちゃ駄目だよ。分かった?」
「うん」
「春樹、大好きだ」
「うん。俺も永司大好き」
また誰かが俺の名を呼んでいるのが聞えた。
俺はそれが気になったのだが、そこで夢は終わった。
とにかく、暖かくて不思議な夢だった。
少しだけ上がった息遣いが聞えた。
小さな口付けが何度も落ちて来るのをぼんやりした頭で感じる。
「…永司?」
目を擦りながら重い瞼を持ち上げてみると、俺は永司の腕の中だった。薄暗い部屋の中で永司と目が合う。永司の手がシャツの裾からいつの間にか潜り込んでいて、直で俺の背中を触っていた。
「こんぺいとうは?」
「リビング」
ふぅと溜息を吐きながら永司が答える。俺は自分の腰に当たるモノに気付き、永司の溜息の理由を知った。
どうしようかと思った。俺は永司にセックスをさせていない。現に今も別にしたくない。でも、永司はしたがってる。
「起こしてごめん」
「いいよ」
俺は答えながら永司のその部分に触る。
「…なに?」
永司が苦笑いをする。
「したい?」
「勿論したいけど」
永司の声は低くてカッコイイ。でもその声は欲情した男の声だった。
別にヤラせてやっても構わない。本当はヤラせてやりたい。しかし俺の身体は妙にそれを拒んでいる。俺は永司が大好きなのに、どうしてなんだろうか。
俺が黙っていると永司は少し苦笑し、身体を起こした。
「抜いてくる」
「ここでヤレよ」
「春樹の身体汚しちまう」
「いいから続けろよ」
永司の腕を持って強引に引き寄せた。熱くて激しい感情を抱えたその額を胸に抱きこんでやって、綺麗な髪にキスしてやる。
「俺の手使うか?」
「いや、何もしなくていいよ」
永司は俺にキスをしながらさっきまでしていた行為をまた始める。
俺はこの胸の中の男が堪らなく愛しいと感じていた。顔を上げさせて何度も深いキスをしてやる。熱い吐息も熱い身体も熱い感情も、全てを抱き込むように何度もその唾液を飲み込んでやる。髪を撫で、その名を耳元で囁いてやる。
暫くすると永司が片手で枕元のテッシュに手を伸ばした。
「飲んでやる」
俺の言葉に永司はまた苦笑して首を振る。
「だったら腹に出せ」
「春樹の身体は汚せない」
「腹に出せ。これは俺の命令」
俺が笑って言うと、永司も困ったように笑った。
行為を続ける永司。
だんだんその呼吸が上がってきて、これでもかと言う程俺は口付けられた。それから永司は片手で俺のシャツを捲くり、俺の手首を持ち、骨が折れると思うくらい強く握り締める。そこから少し恐ろしい感情が読み取れ、俺の身体がピクリと震えた瞬間に永司は腹の上に熱い精を吐いた。
額を合わせて互いに少し黙った後、俺が目を閉じると永司は腹の上の精子を綺麗に拭き取ってくれる。
「今度は口でヤラせろよ」
俺が笑って言うと、後始末を終えた永司がクスクス笑ってベッドに潜り込んでくる。
「駄目」
「ケチ〜」
「ケチで結構」
俺達は笑って目を閉じた。
永司は毎晩こんなコトをしているのだろうかと思うと胸が痛む。俺が眠った後、こんぺいとうをリビングへ連れて行き俺の身体で自慰をする。勘の良い俺が気付かないよう、きっと細心の注意を払いながらしているんだ。
それはどんなに辛い行為なんだろうか。
「深海、真田知らねーか?」
10月半ばの放課後、シンセイサイと呼ばれている2日掛かりで行う学園祭の準備をしていると、暁生がブラブラとやって来た。
「さっき入来と一緒にコンビニへパン買いに行くって言ってよぉ」
俺は廊下で、ウチのクラスの「ドキリ!美男美女だらけのカラオケ喫茶!!ポロリもあるよ」の看板を制作していた。
俺達のクラスは他のクラスの凝った出し物と違い、随分といい加減なモノだ。それは、新生祭で何をするのか揉めに揉めて何をするのかなかなか決まらず、そのせいで結局時間が足りなくなって凝ったモノを作れなくなったからだった。女子の一部はミュージカルをやりたがっており、男子の一部は自主制作映画を作りたがっていた。ミュージカルの映画を作れば良かったのだが、男子はミュージカルに過剰な拒絶反応を起こした。その他にも様々な意見が出て、苅田は「ランジェリーパブ」を作れと言い、暁生は「ジャガバタ屋」を作れと言い、秋佐田は「将棋ナンバー1決定戦」を行えと言い、皆が適当な事ばかりを言って新生祭の委員である岸辺と砂上を困らせた。
ウチのクラスはなんとも纏まりのないクラスなのだ。
それでも結局俺が何となく提案してみた、クラス以外の者が参加できる「カラオケ」に話が落ち着き、今急ピッチでその舞台の製作をしている。
隣で暁生が大きな欠伸をしながら、俺が作っている看板を覗き込んでいた。
「真田がいねーとつまんねー」
暁生は言いながら赤いペンキの缶の中に指を入れる。そしてペンキが付いた指で俺が一生懸命描いていた看板に豚さんの落書きをした。
「クソ馬鹿暁生何すんだよ!」
せっかくもうすぐで完成だったのに、暁生のせいで汚くなった。俺がムっとして暁生の手を掴むと、暁生がクソ意地悪な顔をして片手でまだ乾ききってない看板を持ち上げる。
「あ、馬鹿馬鹿!」
乾いていないペンキが垂れて、「恐怖の館」みたいな感じの看板になってしまった。
「どうしてくれるんだよも〜」
俺が文句を言っても暁生はゲラゲラと笑っている。俺ももう作り直す気にはなれなかったので、ブツブツ文句を言いながらもこれで完成にしようと思った。変な看板だったがそれは俺のせいじゃない。
「お前は機材担当だろ?準備できてんのぉ?」
「業者に頼んだ」
なんとまぁよくしゃあしゃあと…と思ったが、俺は暁生を無視して後片付けをした。ペンキとスプレーを箱の中に入れ、下に引いていた新聞紙をゴミ箱に入れ、
細々としたモノもちゃんと片付ける。
それから、たまたま通りかかった舞台製作総担当の藤原善野の手を引いて看板を見せた。
「深海君、別の意味で楽しそうな看板になったね」
藤原はクスクス笑いながら、暁生がメチャクチャにした看板を見てくれた。
「俺はかな〜り真面目にやってたのにさぁ、暁生の馬鹿者が突然やって来て邪魔して、そんで落書きまでしてさぁ。もう作り直すのイヤだから、このままで良い?」
「良いよ。深海君お疲れ様」
藤原が頭を撫でてくれたので、俺もニコリと笑った。
俺は藤原をかなり気に入っている。コイツはいつもニコニコしていて人を和ませる、そんなヤツだった。少し痩せてはいるが見てくれも良く、男からも女からも同様に信頼されている真面目な生徒だ。真田はこの藤原と1年の時同じクラスだったらしく、「善野」と呼んでコイツを異常に、そして一方的に可愛がっていた。
「深海、俺のせいにするんじゃねーよ」
暁生がムっとして文句を言う。
「お前のせいじゃなかったら誰のせいなんだよ!」
「真田」
真田がいなくてつまらなかったからだと言いたいらしい。そんな言い訳は幼稚園児にだって通用しないもんだ。
「南君、機材の方は大丈夫?」
藤原がニコニコしながら訊いている。
「俺、知らねー。業者に訊いてくれや」
暁生の答え方が悪かったので俺はコイツの頭を一発殴り、藤原に目で謝っておいた。藤原も目で頷いて返事をしてくる。藤原は本当に良い奴なんだ。
「後の片付けは僕がやっておくよ。深海君南君、お疲れ様でした」
藤原はやっぱりニコニコして廊下に消えていった。
教室に入ると女共の餌食になっている緋澄がいた。
ウチのクラスの「カラオケ喫茶」は、美男美女をかなり強調している。その中で最も大きな見せ所(見世物)が、この緋澄だ。永司は「俺は絶対何もしない!」オーラを出しまくり、女子では砂上と真田以外は近付きもしない。砂上も一応永司に協力を申し出たみたいだったが、永司に完全にシカトされたと笑って言っていた。「黙って座っているだけでイイんじゃねーの?」と俺も一応言ってみたが、永司は頑として譲らなかった。「協力はする。するが、表には絶対に出ない」これが永司の新生祭参加の仕方らしい。俺はハッキリ言って、永司は我が儘だと思う。が、永司の頑固は今に始まった事ではないので諦めていた。
とにかく永司が表に出ないのなら、女の客の一番の餌は自然に緋澄に決定する。クラスの女共はどれほどこの美味そうな餌を更に美味そうに見せるか、それに全力を上げていた。
衣装はどうするのか、接客は誰がやるのか、カラオケの進行は誰が行うのか。女はイベントになると燃えるものだ。その燃え方も男には想像を絶するものがあり、なんと接客なんて絶対にできない緋澄のためにVIP席まで設け、そこに着物を着せた緋澄を置く事までいつの間にやら女子の間で勝手に決定されていた。緋澄は毎日衣装の裾合わせをしているが、本人はいつも眠そうだった。
俺は愛想が良いし、クラスの男子の目玉として当日は接客をする。暁生は接客なんてできないけれど、見てくれは十分だったのでたまに教室の中をウロツク役になっていた。これも藍川が暁生に頼み込んだおかげだ。苅田は隠れファンも多いが大抵の生徒は「怖い」と言っているので当日は表に顔を出さず。勝手に「俺は用心棒係り」とか何とか言って裏方の仕事もしない、なんとも協調性のない奴だ。
男共の餌は勿論砂上だ。砂上は当日、カラオケの進行役もする事になっている。
「深海君、岬杜君の話だけど」
楠田がやって来てちょっと声をひそめる。
俺がひょいと永司を見ると、永司はいつも持ち歩いているモバイルを見て真剣に何かをしていた。
「どした?」
「やっぱり岬杜君は当日必要なの。他のクラスの子と話したけれど、岬杜君目当ての子って多いのよ。深海君は岬杜君と仲が良いのでしょ?当日、なんとか表に顔を出すように上手い事言って欲しいわ」
それは無理かも…と思ったが、俺は「もう一度誘っておく」と答えておいた。
それからは緋澄が女共の着せ替え人形になっているのを笑いながら見物し、それに飽きると暁生を誘って煙草を吸いに屋上へ向かった。
永司は今日、朝からずっとモバイルと睨めっこをしていたので、俺はちょっと暇だったのだ。
屋上は10月半ばというのに随分寒かった。日が暮れかけている。
俺はポケットから煙草を出して、一本暁生に渡して火を点けてやった。
空にカラスが舞っているのが見える。
「寒くなってきたな」
暁生が煙草をふかしながら言う。
「そだねぇ」
俺も煙を肺に吸い込みながら言う。
騒がしい教室を出てみると、ここだけが別の世界のようだった。いや、新生祭に向けて騒ぎ出している教室だけが別世界なのかもしれない。
「なんかここに来ると、急に現実に戻った気がするな」
暁生が、今俺が感じていた事を呟いたので笑ってしまった。
「なんだよ深海。何笑ってんだよ」
「いや、俺も今そう思ってたんだぁ」
「やっぱ?」
「うん」
暁生と2人で並んで煙草を吸いながら、沈んでいく太陽を見ていた。
「真田、早く戻ってこねーかな」
暁生がつまらなさそうに言う。
「お前等って、最近ホントによくツルんでんなぁ」
「真田とは気が合うんだ。お前と岬杜くらい、俺と真田も仲が良いんだぜ?」
暁生は何故か自慢気に言う。
俺と永司くらい…。
「セックスしたぁ?」
俺が訊くと暁生が爆笑した。
「するわけねーだろ。お前真田相手に欲情するか?」
「しないねぇ」
「だろ?真田相手に欲情する男ってどんな奴だろうって思うぜ」
俺達は夕日を見ながらクスクス笑う。
「酷い言い方だなぁ。真田は黙ってりゃ美人なんだけどな」
「アイツは美人でもなんでもねーよ。でも俺は真田と気が合うんだ」
暁生がチラリと俺を見た。
『お前と岬杜くらい、俺と真田も仲が良いんだぜ』
夕日を照らす暁生の瞳が、もう一度自慢気に言った気がした。
俺と永司。
俺は赤い夕日を見ながら、ふと永司の事を考えていた。
昨晩偶然分かった永司の自慰行為の事を。
セックスがイヤなわけじゃない。俺は淡白だがセックスは好きだ。勿論永司とするセックスは最高に気持ちイイし、永司の愛撫だって最高に気持ちイイ。なのに俺の身体はピタリと欲情しなくなり、永司も本当に手を出してこなくなった。だが、永司が本気でヤろうとすれば俺の身体は反応するだろうと思う。あの手であの指であの唇でこの身体をなぞられれば、俺はきっとそれに声を上げるんだ。永司だってそれは分かっているだろうに、どうしてあんなに我慢しているのだろう。俺はどうして永司にさせてやらないんだろう。
最初は確かに冗談から始まったセックス禁止令。でも今は冗談じゃなくなっている。
昨日の夜、俺は永司の想いを改めて受け止めた。
それは限りなく優しい想いだった。強くて激しくて、それでも優しかった。
永司はどうしてあれほど懸命に優しいのだろうか。
俺は自分のこの中途半端な力が辛い。
俺達は誰よりも心が通じ合っているのに、セックスという行為だけが不思議に浮いている感じがした。まるで新生祭に浮いている今のこの学校のように、それは日常から微妙に浮いている。
「そういや、最近真田に変な事言われた」
黙っていると暁生が静かに話し出した。俺が首を傾げて続きを促すと、暁生は夕日を見ながらやっぱり静かに話し出す。
以前に一度だけ聞いた事がある、暁生の落ち着いた声だった。
「2人で遊んでる時にさ、変な事で言い合いになったんだよ。真田の部屋で酒飲んでる時、もう原因すら思い出せない程くだらねー事で喧嘩になったんだ。俺は酔っ払ってたし真田も酔ってた。2人で文句言い合ってるうちに、真田が殴ってきてよ、俺もアイツ殴った。1回手ぇ出すと止まらなくて、2人でかなり激しい喧嘩になったんだ」
暁生が言いながら袖を捲くってみせると、腕に真っ黒になっている痣があった。
「真田ってメチャクチャ強いの知ってたか?」
「知ってるよぉ、俺もアイツに蹴り入れられた事あるしさ。ホント、真田の運動神経は並じゃねぇもん」
暁生は笑って頷いた。声は落ち着いているのに、その瞳だけがギラギラしているのが見えた。
「俺は知らなかった。でも俺は普段アイツを女として見てないし、今もこれからも女とは思わない。だから殴った。俺は女なんて殴ろうと思ったコトもねーけどよ、真田を殴った事は今も全然後悔してない。でも真田を殴った時、『これが他の女だったら、俺は絶対手を出さないんだろうな』って思ったんだ。俺はアイツと喧嘩してる時、真田はとにかく女じゃねーって事だけは分かったんだ。アイツは男でも女でもない、お前と同じだよ深海」
「俺は男だぞぉ?」
「そうじゃなくてよ、何て言うか…別に深海と岬杜のセックスでどっちがどっちの役割してるとかとは関係なくてさ…上手く言えねーけど、とにかくお前は男だがオスじゃねーだろ?岬杜や苅田、俺はオスだ」
俺は黙った。
暁生は夕日を見ながら続ける。
「とにかくよ、俺と真田は派手に喧嘩して酔いが冷めるまでヤリ合ってたんだけど、それが終わると2人で順番にシャワー浴びて、寝る前にまた酒飲んで格闘ゲームして寝たんだ。2人でザコ寝だよ。そん時にな、真田に『暁生は私の太陽だ』って言われたんだ。正直ビックリしたよ。俺は太陽みたいなモンを探してるけど、俺は太陽じゃねーって思って何か変な感じがした」
暁生はそこで話を終えた。
夕日はもうほとんど沈んでいて、気温が一気に冷え込んでくるのが分かった。
一際キラキラと輝いている金星が見える。
「俺は真田の言葉が分かるよ。暁生は太陽だ。夏の太陽だ」
「俺はそんなんじゃねーよ。それに俺が太陽だったら俺が探してるモンは一体何だよ。俺は『自分探し』ってヤツが吐き気がする程嫌いだぜ?」
「暁生は太陽だけど、暁生が探してるモノとは違う」
「よく分かんねーよ」
「俺だって分からない。でも暁生は確かに太陽だ。ハイオク満タンの太陽」
「あのな深海。太陽はハイオクとか軽油とかではできてねーよ」
2人で笑いながら煙草を揉み消して、俺は夜空を見上げた。大きな月が輝いているから今日は星があまり見えない。
暁生は沈む夕日をじっと見ていた。
暫く2人で黙って、それから俺は暁生の肩に凭れかかった。
暁生からは今日も男の匂いがした。
「俺はな、できることなら今すぐにでもどっか遠くへ行きたいと思う。でもよ、俺は真田とツルむようになってから『こんなふうにコイツとバカやって高校生活送るのも悪くはねーな』って思うようになった。新生祭だってくだらねーと思うけど、それでも悪くはねーなってさ。アイツといるとそんな気になるんだ。俺は深海の海の底が見たかったように、真田の中に何があるのか見てみたいのかもしれない。できる事なら深海と真田の中を全部見てみたいって思う」
暁生はそう言って俺を見た。
それは俺が大好きな、そして悲しくなるような、ギラギラした暁生の瞳だった。
俺の中を見てみたいと言う暁生。
「深海。とりあえず俺が今一番望んでいる事、何か分かるか?」
暁生がニヤリと笑いながら上着を脱いだ。
「分かるよ、暁生」
俺も羽織っていたジャケットを脱ぐ。
太陽はもう完全に沈み、うっすらとその名残を残しているだけだった。
「久々に闘ろうぜ」
俺が暁生の言葉に頷く前に、蹴りが飛んで来た。
俺は、暁生はやっぱりハイオク満タンな太陽だと思って笑った。