満たされる時間・満たし合う行為・イルカ先生はセックスが上手い

 今までしてきたセックスって何だったんだろうと思う。
 戦場での行為や割り切ったものは別としても、それなりに情の湧いた女もいたし優しくしてやろうと思った女もいた。どの女にも愛情と呼べるまでのものは無かったけど、それなりに誠意を示したことも多かったと思う。
 脱がせて、触って、喘がせて、悦がらせて、何度もイかせて。
 そういうことがセックスだと思っていた。
 そして、恐ろしいことに俺はセックスが上手いと思っていた。
「カカシさん、どんぶり一個しかないから鍋のままで良いですかー?」
「んー」
「別けませんよー? 一個の鍋で作ってますよー?」
「んー」
 イルカ先生はさっきまで俺の腕の中にいた。
 あの黒い髪をシーツの上で乱れさせ、イイ声を上げて悶えまくっていた。
 久々のセックスは余裕がなくてがむしゃらで、それでもイルカ先生は俺の身体を痛いくらい抱きしめてくれて、噛みつくようにキスしてくれて、口でしてくれて、全身で受け入れてくれた。イルカ先生だってヘトヘトだったはずなのに全身全霊で俺を受け入れてくれた。
 イルカ先生は快感にとても素直で貪欲に俺を求めてくれる。何度も何度でも俺の欲しい言葉をくれて、俺の欲しいものをくれる。そして、どこかすっごくイイトコロに行きましょうって言うみたいに俺を誘って、実際にすっごくイイトコロに連れて行ってくれる。
 だから今日も俺達は、二人ですっごくイイトコロに行ってたんだ。
 さっきまでね。
「できました! カカシさん鍋敷きの準備ー」
「できてるよー」
 イルカ先生は超明るい声を出し超明るい顔で居間に戻って来る。右手には片手鍋、左手には二人分のお箸とレンゲ。上半身は裸で、下だけ部屋着のスウェットパンツをはいてる状態。
「イルカせんせ、上も何か着ないと」
 風邪ひくからって続けようとしたけど、それは言わなくて済んだ。何故ならイルカ先生は箸とレンゲを俺に渡し片手鍋を鍋敷きの上に置くと瞬く間にTシャツとセーターを着てその上からどてらを羽織り、あっという間にパンパンに着膨れして俺の前に座ったからだ。その速さったらなくて、もう上忍の俺でもビックリ。イルカ先生にとってラーメンが伸びる伸びないって問題は、きっと俺の新刊イチャパラ予約と同じくらい重要なんだと思うよ。
「手を合わせてください」
 イルカ先生の声に俺はハイと返事をして、手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます」
 小さなこたつに二人で入って、小さな鍋に入ったラーメンを二人で啜る。
 ただのインスタントラーメン。
 でもすっごくおいしい。

 師走の頭にやっかいな任務を請け負うことになり、俺とイルカ先生、特殊な術を使える中忍二人のフォーマンセルでずっと走りまわっていた。背景が複雑な上にやたらと体力の消費も激しい任務で、木の葉はガセ情報掴まされてるわ途中予想外の戦闘もあるわで本当にヘトヘトになった。
 ようやく帰還!と思ってみんなでヒーヒー言いながら戻ってみたらいつの間にか正月なんて一週間も過ぎてて、泥だらけ垢だらけのまま報告書を出しに行っても誰も年始の挨拶をしてくれないどころか、お前等臭いぞー、なんて言われる始末。火影様にも風呂に入れなんて言われちゃって、俺とイルカ先生はブーブー言いながら家に戻って、そのまま風呂に直行した。
 もうクタクタで早く眠りたかったんだけど二人きりになるのは久しぶりで、身体に触れたりキスするのはもっと久し振りで、お互い堰を切ったような勢いでセックスした。ガツガツと貪欲に。でも互いを求め合ってすっごくイイトコロに行くセックスを。
 もう出ない!打ち止め!パラダイスから帰還だー!ってなって戻って来ると、腹が減ってる。
 不思議だよねー。セックスの後って何で大抵腹が減ってるんだろ。
 でもイルカ先生のお家にはろくなものがなかった。だってずっと任務だったし、俺達。
 干からびて完全に死亡しちゃってるネギと、冷蔵庫の中で不気味な物体と化している「謎のこげ茶色のかたまり」と、あとはヨーグルト化しかかってる牛乳しかなかった。それでもゴソゴソと二人で台所を物色してたらインスタントラーメンが出てきて、それをイルカ先生が作ってくれた。
 不思議だよねー。セックスの後に腹が減った時って何で大抵何にもないんだろ。

「カカシさん自分だけ食べ過ぎ!」
 イルカ先生がむーと膨れる。
「ごめーんね。でも俺腹ペコー」
「俺だって腹ペコ!!」
 二人で頭をくっつけてラーメン啜りながら、俺はまたセックスについて考える。
 今までしてきたセックスって何だったんだろうと。
 自分とは違う肉体を持つ人間と、これほど同じ気持ちになれるなんて知らなかった。同じ快感を追って同じものを求め合って同じものを与え合う。二人で一緒に色んなイヤラシイことをするってことが、一体どんなことか俺は知らなかった。
「ねぇイルカせんせ。セックスって何だと思う?」
「む。俺に喋らせて残りのラーメンを独り占めする作戦ですか!そうは問屋が――
「いや違うから。全然違うから」
 ラーメンを取られると焦ったイルカ先生が更にぐっと身を乗り出したから、俺とイルカ先生の頭がごっつんこする。
 もー、何でこの人こんなに楽しいんだろ。
 大好きだなぁもー。
「ふぇっくぅは見方によっとぇ色んな一面もありゅけれど本質はおるぇわ」
「せんせ、焦らないで良いから」
「俺はですね。見方や状況によって様々なセックスってあると思います。千差万別じゃないですか何でも。でも俺にとってのセックスは、カカシさんとするセックスは、満たし合う行為だと思ってます。身体だけじゃなくてもっと色んな部分を――っていうか何自分だけ喰ってんだアンタぶん殴りますよマジで!」
 俺とイルカ先生は、残りのラーメンを奪い合う。
 最後の長い麺を超奪い合い。
 もー、何でこの人こんなに楽しいんだろ。
 大好きだなぁもー!
「アンタ残りのカスみたいな麺掬って喰ってろ!」
「んじゃそうするね」
「え!俺にも残りカス麺ください!」
「やーだねー」

 セックスって満たし合うことだってイルカ先生は言った。
 俺はきっと過去の女達を誰一人として満たしてない。こんなふうに満たしたことなんて一度もない。そういえば、セックスが終わった後にこんなふうに食事をしたこともなかったな。
 何も知らなかった俺は、自分はセックスが上手いと思っていた。何て滑稽な話だろう。
 過去に俺が抱いた女達は俺のセックスが好きだと言っていた。上手いとも言っていた。でも彼女達がもしイルカ先生とセックスしたら何て思うだろう。
 はたけカカシとのセックスって一体何だったの?って思うよ。絶対。
 イルカ先生はセックスが上手い。めちゃくちゃ上手い。信じられないくらい上手い。俺なんて足元にも及ばない。
 だってイルカ先生とすると、こんなに満たし合えるもん。

「さーいーごーのーひーとーくーちー」
「はいはい」
「いただき!俺、里の至宝はたけカカシ上忍の嫌がらせにも断固として負けなかった!」
「はいはーい」
 すっごく嬉しそうなイルカ先生。何かもう、超笑ってる。
 だから俺は最後の一口が入ったそのレンゲを、横からパクって食べてしまう。
「ぎゃあああああああ!!」
 イルカ先生は大騒ぎして俺の頭をポカポカ殴るから、俺はもう最高に可笑しくって腹を抱えて笑い転げたんだ。



 いろーんなものに満たされて、満たし合って俺達は眠る。
 イルカ先生は俺の腕の中。俺はイルカ先生の腕の中。
 さぁ眠ろう。
 ぐっすり眠って目が覚めたらまた。
 何度でも。

 二人ですっごくイイトコロに行こう。


 novel